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「美咲~いつもの~」
一人カウンターで飲みながらそんなことを悶々と考えていた時、少し離れたカウンターの席から、聞き慣れた声が聞こえた。
もちろん、その声が誰だかわかってオレは即座に反応する。
悶々と考えてた真っ最中に、その想い人である憧れの彼女がそこにいた。
オレはまさか今日会えると思ってなくて気を抜いてたせいか、急遽現れて動揺したまま修さんをこっそりと呼ぶ。
「ちょっ!修さん!今日って貸切じゃないの?」
「いや?奥の場所貸してるだけで、お前らのあの人数なら十分だろ」
「まぁ確かに」
さっきまで奥にいたから気付かなかっただけか。
「さっきまで他にもお客さんいたぞ。たまたま今いなくなっただけで」
「あっ、そうなんだ・・」
勝手に勘違いして今日は貸切だと思い込んで、まさか彼女が今日来るとは思ってなかった。
「何? お前、透子ちゃんいきなり現れて動揺してんの?」
修さんがそんな動揺してるオレの様子に気付いてまた面白がってからかってくる。
「いや、修さん!聞こえるからっ!」
オレは彼女に聞こえるかとビビってつい焦ってしまう。
「大丈夫だよ。透子ちゃんここでは自分の時間楽しむか美咲と話してるかどっちかで、特に他に興味示さないから」
「知ってます・・」
そう。彼女はあまりにもここが気楽で心地いい場所だからなのか、いつも同じその場所で、一人酒や食事を楽しんでいる。
そしてたまに美咲さんが時間空いた時に親友同士楽しく時間を一緒に過ごすスタイル。
だから特に他から声をかけられる心配はないのだけど、そのせいでなんかオレも軽く声をかけられる雰囲気になかなか持っていけない。
でも彼女がそのカウンターの奧に一人座っている姿は、静かにそこに佇んでいても、そのスタイルと美貌と色気で無駄に目を引いてしまう。
若い女には到底醸し出せないその色気と魅力は、彼女のその経験や年齢からきっと漏れだしているモノで。
そんな彼女をいつも見かけるたびに、例え仕事終わりの姿でもその疲れてる姿がまた逆に違う色気を感じて、常にオレは釘付けになる。
オレには到底手の届かない人だと思っていたくせに、いつからか近付きたくなって。
そしていつの間にか、彼女はどうしても手に入れたい人になった。
「透子ちゃんいつも残業後で疲れた顔は見せるけど、いい顔してるもんね」
彼女の方で話が進んで行って、修さんはオレと話終わった後、彼女に声をかける。
「おっ、修ちゃんいいこと言ってくれるね~」
今日会社休みなのに出勤?
しかも残業?
どこまで仕事好きなんだか。
さすが彼女らしいと思って話をこっそり聞きながら、そんな変わらない彼女にまた微笑ましく思う。
「やっぱ仕事好きなんだよね~」
「透子ちゃんあんな感じはもう羨ましくなくなった感じ?」
そんな彼女にオレが参加してる三次会のパーティーの方を指差して、修さんがさり気なく聞く。
そっか。彼女の年齢的には考えてもおかしくないのか。
今、彼女に特定の相手がいないことは、修さんに探りを入れて聞いてるから知ってはいるけど。
実際女性としてやっぱり憧れているのかどうか、彼女ならやっぱり気になってしまう。
「ん?何?結婚式?」
「あ~オレの知り合いの結婚式の三次会」
「え!そうなんだ!じゃあ、私お邪魔じゃん!」
「いやいや、内輪だけでやってるパーティーみたいなもんだし、奥の場所貸してるだけだから気にしなくていいよ」
「そ?なら私は助かるけど・・・」
こんな風に美咲さんの親友でもある彼女は修さんとも気心知れた仲のようで、気楽に話している。
「どうだろう。見てる感じは幸せそうでいいな~って思うけど憧れることはもう今はないかも」
よっしゃ!
とりあえず今は特定の相手もいないし、そういう願望も抱いてないとわかって、つい心の中でガッツポーズをする。
まだオレの存在を全然認識もしてもらってないのに、頑張らないまま、誰かと結婚されてもそれはそれで困る。
「なんかさ、全然浮かばないんだよね、そういう景色。もうあれからそういうなの正直一切考えなくなっちゃったし。ずっとさ一人でいると一人でいるのが楽になって、誰かと過ごす時間が息苦しくなる」
彼女の今の気持ちが知りたくて、つい傍で聞き耳を立てて聞いてしまう。
彼女が一人でいたいと思ってる今。
オレは彼女にどうやって近づいたらいいんだろう。
誰かと過ごす時間が息苦しい、今までのオレならその気持ちも理解出来た。
でも今この彼女を好きになって、彼女ともしそんな時間が過ごせるなら、きっとそんな時間もオレには愛しく思えそうな気がしてならない。
そんな時間も、いつかのそんな景色も、オレなら変えられるのかな・・なんて、あり得もしないことを考えてしまうほどに。
「でもたまにはドキドキしたりキュンキュンしたり。そんなトキメキだけは味わいたくはなるかも。矛盾してるね~」
すると、その後彼女はそんな意外なことを呟いた。
え?そういう気持ちは欲しいなんて思うんだ。
なら、恋愛する気持ち、完全に否定はしてない感じ?
でも彼女がそんなトキメキが欲しいのなら、せめてそんな感情だけでも彼女にあげたい。
ていうか、オレがこの人をドキドキさせたりキュンキュンさせたい。
そしたら、もしかしたらオレを意識してくれるかもしれない。
彼女の中にオレという存在が入り込めるかもしれない。
「ふふっ、なんかそういうとこ透子らしいね~」
「修ちゃん、そんな都合いい人いない!? 私にトキメキだけくれるような人!!」
「ハハッ!なんだよ、それ!透子ちゃんのタイプで都合いい男そんな簡単に落っこちてねーし」
「だよねー!」
ねぇ、それオレじゃダメ?
あなたのタイプかどうかもわからないし、実際トキメいてもらえるかもわからないけど。
でもあなたの望むことなら、オレがなんだってしてあげたい。
「樹。これチャンスなんじゃねぇの?」
「え?」
すると、さっきまで彼女と話していた修さんがオレにこっそりそう話かけた。
「透子ちゃん、トキメきだけでも欲しいって言ってんじゃん。ようやくこれお前声かけるチャンスなんじゃないの?」
「えっ!今ッスか!?」
「お前今まで透子ちゃんにそう出来るように頑張ってきて、ようやくその段階まで今来れたんだろ?」
「あっ、はい・・」
今まで彼女に出会って好きになってから5年。
彼女の隣にどんな形でも立てる男になれるように、仕事でも成果出して頑張って来て、ようやく彼女にオレの存在を知ってもらえる段階まで自信をつけた。
今?このタイミングなら、彼女に存在を意識して何かを始められる?
だけど、すでに彼女のそんな話を聞いて、すでに修さんに言われるまでもなく、多分もうオレは彼女への気持ちが抑えられそうになかった。