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彼シャツ
「ジェル、シャワー借りるで〜」
「うん、どーぞ。タオル、そこやで」
(……まぁ、着替え持ってきてないの知ってるけど)
さとみがシャワーに入っている間、ジェルはキッチンで飲み物の準備をしていた。
でも──戻ってきた彼の姿を見て、思わず手に持っていたコップを落としそうになった。
「お、おい……それ……」
「ん?あぁこれ?」
さとみが涼しい顔で着ていたのは、ジェルのシャツ。
しかも、ちょっと大きめでだるっと着てるから、首元がゆるく開いていて鎖骨まで見えてる。
ボタンも、半分くらいしか留めてない。
「返してほしい?」
「いや、返せっていうか、それ……俺の……」
「着るもんなかった。」
「いやええけど……ええけどぉ!!」
ジェルがわたわたと赤くなるのを見て、
さとみはにやりと笑う。
「ジェルが着てたと思うと、なんか……落ち着く。」
「やめろっっ !//」
「そんなに嫌?」
「……っ、嫌じゃないけど……なんか、ドキドキする……」
「ふ〜ん。じゃあもっとドキドキさせる、」
そう言って、さとみはシャツの袖をまくりながら、 ソファに腰を下ろし、ジェルを手招きした。
「ちょっと、こっち来い。彼氏として、責任とれ?」
「な、なんの責任やねんそれ!!」
「俺に“彼シャツ”させた責任♡」
「くそ……かわいい顔して……そんなズルいこと言うなや……」
ジェルは顔を真っ赤にしながら、そっとさとみの隣に座った。
そのまま、さとみはジェルの肩にもたれて甘える。
「なあ、今度さ」
「ん?」
「俺にも、させてや。“彼シャツ”」
「……う、うん……。全力でやられたら、たぶん俺しぬ」
「それは今のお前にも言えることやで♡」
ジェルの隣に座ったさとみは、ジェルのシャツをゆるく羽織ったまま、 ソファの背にもたれて、くたっとジェルにもたれかかっている。
「……なあ、ジェル」
「……ん?」
「今日、俺からシャツ借りたことにしとこ」
「は?」
さとみはにやっと笑って、ジェルのシャツの裾をくいっと引っ張った。
「お前のシャツやけど、俺が着たってことは……もう俺のもんやし?」
「いや理屈めちゃくちゃやろ!?」
「だからさ。“ジェルごと”俺のもんでええよな?」
「……あぁもう、ほんまにずるいなあお前……」
ジェルは照れくさそうにうつむいたあと、
そっとさとみの頬に指をのばして触れる。
「……俺のもんやで。それ、ずっと前からや」
「ちゃんと言葉にしてくれて、ありがとう」
「シャツの代わりに……俺も抱きしめてくれる?」
「もちろん♡」
さとみが微笑んで両腕を広げると、
ジェルはちょっとだけ拗ねたような顔で、ゆっくりその胸に顔をうずめた。
「シャツ、返したないわ。ずっと着てて」
「それじゃ洗濯できんで」
「じゃあ……俺が、毎晩脱がすわ」
「おまえ……っ///」
その夜は、そのままふたりでソファにもたれて眠った。
シャツの生地ごしに伝わる鼓動が、まるで恋そのものみたいで
ぬるくて、やさしくて、ほどけるようだった。