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湊が言っていた雪斗の過去が気にならないと言ったら嘘になるけれど、私は今の彼を信じるしかない。


だから雪斗に問いただしたりはしなかった。


以前と変わらない態度彼に接し仕事も全力で頑張って、その日は少し残業をしてから席を立った。


帰りに買い物をしたいから急いで帰らないと。ところがメイクを直しているところに真壁さんがやって来た。


「秋野さん、ちょっといいかしら?」


彼女の強張った恐い顔を目にした瞬間、嫌な予感が込み上げた。


出来れば無理ですと言って帰りたいところだけれど、そうはいかない。


「はい」


「話あがるの。ここじゃ話せないことだから移動しましょう」


「あの、仕事は……」


「今日は切り上げて来たわ」


「……そうなんですか」


「藤原君は外回りで当分戻らないわ。あなたなら知っているかもしれないけど」


何だか声も言葉も棘があるような気がする。


ますます帰りたくなったけれど、彼女は仕事で頻繁に関わる同僚だから無下にできない。


仕方なく真壁さんに続きロッカーを出た。


真壁さんが向かったのは、オフィスから歩いて十五分ほどの喫茶店だった。

私は初めて入る店だ。あまり繁盛していないようで空いている席の方が多い。


一番奥の席に着いて適当に頼んだ飲み物が運ばれて来ると直ぐに、真壁さんが口を開いた。


「藤原君とは別れたんでしょ?」


決め付けたその言い方に驚いた。


社内ではむしろ私と雪斗が結婚するんじゃないかと言われているのに、どうしてそんな風に思うのだろう。


「別れていませんし、その予定も有りません」


さすがにいつか結婚したいと思ってるとまでは言えないけど、とにかく私は雪斗と別れる気なんかないから、はっきりと否定した。


「彼も別れる気は無いと思います」


自信を持ってそう言ったけれど、真壁さんは皮肉な笑みを浮かべて言った。


「じゃあどうして藤原君は、前の奥さんと会ってるのかしら?」


「え?」


真壁さんの言葉を聞いた瞬間、心臓がどくっと嫌な音を立てた。


雪人が別れた奥さんと会ってる?


まさか……そんなことあるわけない。


彼に変わった様子なんてない。


それなのにどうしてこんなに不安なのだろう。


真壁さんに動揺を知られたくなくて、私は目の前のコーヒーに視線を落とす。



「秋野さん、何とか言ったら? 私、聞いてるのよ」


「真壁さんの話は私の知らないことなので答えられません」


「そう、知らなかったの。藤原君には何も聞いてないのね」


「……真壁さんはどうしてこんなことを聞くんですか?」


「分からないの?」


真壁さんは馬鹿にした様に私を見た。


核心を突く事を言えば、気まずくて引いてくれると思ったのに、真壁さんは全く堪えてない様だった。


「……真壁さんの考えは分かりませんけど、彼の元奥さんの話を含めプライベートな事まで問い詰められても困ります。真壁さんには言えないことも有りますので」


緊張しながらなんとか答えた。


真壁さんは明らかに怒りを浮かべた目をして私を睨む。


「私がどうしてあなたの恋愛に口を挟むか分かる?」


「……分かりません」


「私、藤原君が好きなの」


「え……」


真壁さんの気持ちは分かっていたけれど、私に対してこんなにはっきり宣告して来るとは思ってなかった。


だからどう反応していいのか分からない。


雪斗の恋人は私なんだから堂々としていればいいはずだけど、真壁さんの迫力がそれを許さない。


「あなたが藤原君と出会うよりずっと前から好きだった、私の方が先に好きになったのよ」


真壁さんの声には怒りがこもっている。


まるで権利を迫害された様な……後から知り合った私が雪斗と付き合っている事が不当だとでも言う様に。


「こういうことに順番は関係有りません」


いくら好きだからって私達の間に割り込んで来る真壁さんの方がおかしい。


「それはあなたの言い分でしょ?」


「彼は真壁さんとは特別な関係では無いと言いました。ただの同僚だって……それなのに、前から好きだって理由だけで過度に干渉するのは止めていただけませんか?」


少し言葉がキツイ様な気もしたけれど、私も完全に冷静ではいられない。


「私はあなたより藤原君を想っているわ。彼が結婚したのを知った時もその気持ちは変わらなかった」


「結婚したのに、それでも諦められなかったんですか?」


「いえ、その時はさすがに諦めたわ」


それならどうして今は諦めないんだろう。


私達が結婚してないから?


雪斗が既婚だと不倫になるけど、今はただの恋愛のもつれで済むから?


私の疑問を察したのか、真壁さんは答えを教えてくれた。


「藤原君は結婚を公にしなかったけど、私は気がついた。そして調べたのよ、彼の奥さんに……会いに行ったわ」


「……」


会いに行くって……雪斗と付き合ってた訳でもないのに。


真壁さんの執念が恐ろしかった。


仕事が出来て、美人で、スタイルも良くて、普通の女性が望むものは全て備えている様に見える彼女がどうしてそんなストーカーみたいな真似を……。


理性が無い人には見えないのに。


そこまで雪斗への想いが強いの?


そんな人と私は毎日近くで働いているの?


「驚いた? でもその一度きりよ。奥さんの事を調べて実際見て諦めたから。藤原君の奥さんはそれは美しい人だったわ。私が自信を失ってしまうくらいに。でもそれだけじゃなくて経歴も家柄も何もかも私より上で適わないと思った」


「適わない?」


「そう。こんな人が相手じゃ仕方ない。諦めるしかないと思った、実際忘れようと努力した。でも離婚したのを知って忘れる事は止めたの。彼と付き合いたいと思った」


真壁さんの口ぶりは私の存在を完全に無視している。


「でも、今、彼と付き合っているのは私です」


話を遮り言うと、真壁さんは軽蔑した様な目で私を見た。


「前の奥さん相手じゃ適わないと思ったけど、あなたが相手じゃ諦める気になれないわ」


真壁さんの勝手な言い分には怒りしかない。でもそれとは別に苦しさも感じた。

雪斗の元奥さんの足元にも及ばないって断言されたようなものだから。


「……この先どうするつもりなんですか?」


諦めないと言った真壁さん。


私の存在を無視して、何をするつもりなのだろう。


「藤原君に告白するわ」


「告白って……」


あまりに堂々と言われたので、言い返す言葉に詰まってしまう。


雪斗の恋人は私のはずなのに、真壁さんの方が自信に溢れている。


「今日はあなたにはっきり言おうと思って呼び出したの」


真壁さんは勝ち誇った様に言う。


「黙って動いても良かったけど、一応同じ社内だし直ぐに分かる事だから」


「……雪斗が真壁さんを選ぶとは限りません」


何とかそう言ったけれど、真壁さんは気にした様子も無く、満足顔で店を出て行った。

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