皆さんこんにちは、初めまして。アーキハクト伯爵家仕立て屋兼白光騎士団のエーリカです。
幸運にもシャーリィお嬢様と再会できて、今は三年間の疲れを癒すように言われて身体を休めています。
ただ、私が療養を言い渡されてから一週間後にお嬢様達が敵地で孤立する事態が発生しました。
ようやく再会できて私を騎士に取り立ててくれたお嬢様のご恩に報いるためにも、今すぐ馳せ参じたいのですが……。
「ならん。その身体ではマトモに戦うことも出来ない。無理をさせて貴公を死なせてはお嬢様に申し開きも出来ぬ。今は療養に専念せよ」
マクベスさんに馳せ参じたい旨を伝えたら猛反対されてしまいました。
「こんな私でも、何かお役に立てる筈です!少しですが、休ませていただいて身体も回復しています!」
ここの美味しい食事と休養で一週間とは言え身体も少しは回復しています。
「その忠義には頭が下がるが、なおのこと行かせるわけにはいかん。貴公に万が一の事があれば、お嬢様が如何に思われるか。それをしかと考えるのだ。少なくともお嬢様はお喜びにならない筈だ」
そう言われると、ぐうの音も出ないと言いましょうか。ゆっくりとお話をした印象としては、お嬢様の本質は幼い頃から変わらない様子でしたので確かに喜ばないと思います。
「貴公もお嬢様から『大切なもの』と言われたのだろう?」
「はい」
「ならば貴公の身はお嬢様のものだ。いや、貴公だけでなく私を含め『暁』に属するもの全員がお嬢様の所有物である。ならばお嬢様の意に背くような真似は慎まなければならぬ。今は休まれよ」
私がお嬢様のもの……うん、そうですね。正式にお取り立て頂いたんですから……。
「ごめんなさい、そしてありがとうございます、マクベスさん」
「構わない。貴公はお嬢様の幼馴染み、数年の付き合いでしかない私よりも遥かにお嬢様をご存知の筈だ。焦り故に視野が狭まっていたように感じたのでな、説教臭くなってしまった。すまん」
「そんなことはありませんよ。マクベスさんがちゃんと言ってくれなかったら、無理して乗り込んでいたと思います。今は休みます、次の機会には必ずお役に立てるように」
「その意気だ。吉か不幸かお嬢様には敵が多い。その武を振るう機会はこの先幾らでもあるだろう。若い力に期待するよ」
「はい!」
踵を返して立ち去ろうとしたマクベスさんは急に立ち止まりました。なんだろう?
「ああ、言い忘れていた。お嬢様の妹様の生存が確認された。貴公もご存知だろうから、伝えるように言われていたよ。歳を取るといかんな」
「えええーーーっっ!!!???」
マクベスさん……それ最初に教えてほしかったです。意外とお茶目な人なのかな?
~十六番街某所~
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。さて今現在少しばかり刺激的なことになっています。それはもちろん。
「逃がすなよ!」
「仕留めたら金貨十枚だぞ!」
食料を調達すべく動いていたら六人ほどの集団に見付かり、私達は直ぐに路地裏へ駆け込みました。そして拳銃で銃弾の雨を降らせてくる方々と木箱に隠れながら硝煙香る優雅な一時を過ごしています。
「おいシャーリィ!現実逃避すんな!」
一緒に隠れているルイが悲鳴を挙げます。無理もありません。飛び道具は僅かですから、反撃する手段がない。
そして銃弾を撃ち込まれている木箱は、木屑を盛大に撒き散らしながらその盾としての役目を失いつつあります。
「大丈夫ですよ、ルイ」
「相変わらず何があっても動じないよな、シャーリィ。何か考えがあるのかよ?」
「撃破はできませんけどね!アスカ!」
私が叫ぶと屋根の上からアスカが火をつけた藁を敵の頭上に投げ込むと、瞬く間に周囲が煙で満たされた。
「げほっ!なんだこれは!?」
「なにも見えねぇ!」
「簡易煙幕ですよ」
「やるなぁ」
私達はその隙にその場を離れることに成功しました。身軽なアスカが居るからこそ出来たことですが、同じ手は二度も通じないでしょう。
「店舗を利用することは止めた方が良さそうですね」
「ならどうすんだ?」
「露店商を当たります。彼らはしがらみ等がない筈ですから」
二時間ほど身を隠して私はルイと露店商が集まる広場に来ました。アスカは念のため隠れてもらってます。
「いらっしゃい」
露店商の一人、渋いおじさまが無愛想に声をかけてきました。
「此方にある干し肉などの保存食を買いたいのですが」
「……訳ありか」
「似たようなものです」
「なら嬢ちゃん、タイミングが悪かったな」
「と言いますと?」
「ここ十六番街は今閉鎖されててな、物流が止まってるんだよ。食い物も不足してるから、割高になるぜ」
やはり物流に影響が出ましたか。『エルダス・ファミリー』、形振りを構っていませんね。
「それでも構いません、あるだけ頂けますか?」
「銀貨三枚だな」
おっと、これは。
「おいオッサン!幾らなんでもボッタクリだろ!この数なら精々銅貨五枚だぜ!?」
「ルイ。分かりました、それで買いましょう」
「言い値で買うってか」
「どうぞ」
私は袋から銀貨を四枚取り出して差し出します。
「おい、四枚あるぞ」
「どうみても怪しい私達になにも聞かず売ってくれたお礼です」
ローブで身体を隠してフードを目深に被っていますからね。
「気前が良いよなぁ、お前」
「気持ちの問題ですよ」
厚意には誠意で返します。それが何れは利益として返ってきます。それが例え暗黒街であろうとも。私はそう信じたい。
「……詳しくは聞かねぇが、店舗だけは利用するな。全部『ターラン商会』の支配下だが、最近『エルダス・ファミリー』の奴らが出入りしてる。また何か入り用ならここに来い。仲間にも伝えとく。もちろん代金はもらうがな」
「情報提供ありがとうございます」
「ここに『エルダス・ファミリー』を好きな奴はいねぇ。皆うんざりしてるんだ。死ぬなよ、嬢ちゃん」
「貴方も」
「マジかよ」
伝わる人には伝わるものですよ。買い物を済ませた私達は露店商のおじさまに礼を言って足早にその場を離れました。長居して露店商の皆さんに迷惑を掛けたくはありませんからね。
「手懐けやがったよ」
「私の敵は『エルダス・ファミリー』です。十六番街の住民ではありませんよ」
そこを間違えたら、彼らと同じになる。私はそう考えながら、街からの脱出に向けて頭を悩ませるのでした。