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「人魚は、恋をすると泡になる」
それが、この海のルール。
だから私は、恋なんてしないって決めていた。
だって消えるなんて、絶対イヤだから。
……なのに。
「た、助けて……っ」
ドボンッ、とものすごい音と一緒に、空から“それ”は落ちてきた。
金色の髪。
整った顔。
いかにも王子様って感じの男の子。
「……は?」
まさかの遭難。
しかも、めちゃくちゃタイプ。
「ちょっと、しっかりして!」
私はとっさに彼を抱えて、海底近くの岩陰まで運んだ。
王子はゆっくり目を開ける。
「……ここ、天国?」
「海です」
「え、君……きれい……」
その視線が、私の尾ひれで止まる。
「……人魚?」
「そ。だから見なかったことにして、帰って」
恋をしたら、私は泡になる。
この人を好きになったら、終わりだ。
なのに。
「帰りたくない」
は?
「君がいるなら、ここでもいい」
心臓が、ぎゅっとなる。
人間は酸素がないと生きられないくせに、
そんなこと言わないで。
「バカ。死ぬよ?」
「じゃあ君が、助けてよ」
いたずらっぽく笑う王子。
ずるい。ずるすぎる。
それから、王子は毎日海に来た。
小舟で沖まで出て、わざと落ちる。
「落ちるな!!」
「だって会いたいし」
私は怒りながら、でも毎回助けてしまう。
だって、会いたいのは私も同じだから。
「ねえ、人魚って本当に泡になるの?」
ある日、王子が聞いた。
「うん。恋をしたら、消える」
「じゃあさ」
王子は、真剣な顔で言う。
「俺が人魚になればいいじゃん」
……は?
「君が消えるルールなら、俺がそっちに行く」
「そんな簡単じゃないよ」
「簡単じゃなくてもいい」
王子は、私の手をぎゅっと握った。
「好きな子が消える世界なんて、嫌だから」
海の中なのに、息ができないみたいに苦しくなる。
好き。
言っちゃだめ。
言ったら、終わる。
でも。
「……もう遅いよ」
ぽろっと、涙がこぼれた。
「私、もう好き」
その瞬間。
体が光に包まれた。
やっぱり、泡になるんだ__。
そう思ったのに。
光が弾けたあと、尾ひれが消えていた。
代わりに、足があった。
「え……?」
海の上、王子の小舟の中。
私はびしょ濡れで倒れている。
「成功」
王子が笑った。
「海の魔女に頼んだ。
“両想いなら、泡じゃなくて人間に”って」
「そんなのアリ!?」
「ハッピーエンドのほうがいいだろ?」
ずるい。ほんとにずるい。
私は思いきり王子の胸を叩いた。
「心配したんだから!」
「ごめん。でも」
王子は私の額に、そっとキスを落とす。
「泡にならなくてよかった」
潮風がふわりと吹く。
私はもう、人魚じゃない。
でも__。
消えない恋を、手に入れた。