私たちは、いつまで生きるのだろう。
80歳まで?
来年?
それとも明日?
そんなこと、誰にもわからない。
もしかしたら神様なら知っているのかも。
あとは未来が見える超人的な人とか。
でも、私には、私たちには関係ない。
だって、
私たちは未来じゃなくて
『今』を生きているんだから。
第1話 やりたいことはなんですか?①
「失礼しました」
自然と背筋がピンとしてしまう職員室から出た。
まだ、暑さも残る9月の終わり。
私は退部届を出した。
中学の時に始めた、大好きなバスケ。
でも、大好きだからこそ、やめることにした。
このままだと、大好きという気持ちで、他のモノに気持ちを向けることができないから。
好きって、人の目を曇らせちゃうもんね。
「よしっ。 学(まなぶ)を待たせてるし、教室に戻るとしましょうか」
私は未来に目を向け、胸を張りながら教室へ歩く。
歩き慣れた廊下も、いつもと景色が違うように見えた。
「明日菜、どうだった?」
我が2年5組に入ると学が退屈そうに、私の机に座っていた。
整然とした縦横6列ずつの席。
そのほぼ中央が私の席。
「『 天野(あまの)さん、あんなにバスケ好きだったのに』って言われたけどね」
「気持ちを押し通してきたよ」
「後悔してるの?」
「どうだろう。今は、してないかな」
「そっか。でも、自分で決めたことだからな」
「学に押しつけられたような気がしなくもないけど」
「責任転嫁はやめろよ」
そう言いながらも笑った学は、窓際にある自分の席に向かった。
「でも、まさか、こんなに早く行動するとは思わなかった」
学はルーズリーフの束とペンを持って、戻ってくる。
「今の私には、時間がいくらあっても足りないからね」
「…………」
「学?」
「なんでもない」
「ほら、ちゃっちゃとやるぞ!」
私は自分の席につく。
すると学は前の席につき、私と向かい合う。
そして、ルーズリーフを置いた。
私に1枚。
学に1枚。
「これって、やりたいことを書けばいいんだよね?」
「うん、思ったことを書けばいいよ」
「わかった」
ペンを握る前に、目を閉じて深呼吸。
今からやるのは、これから人生でやりたいリストを作ること。
私には “時間がない” 。
それを知った学が、提案してくれたことだった。
学とは、同じクラスになって、まだ半年。
波長が合うっていうのかな。
会話のテンポも居心地もいいから、一緒にいる時間は他の男子よりも長い。
それに、ちょっと雑な言葉遣いとは裏腹に、ちゃんと人を見てくれているというか……。
「よしっ!」
目を開けて、書き始める。
・
・
・
「う~ん」
「つまった?」
「でも、結構出てるじゃん」
「ちょっと、のぞかないでよ、えっち」
「どこが」
「じゃあ、変態で」
「変わんないから!」
「っていうかさ、どうせ見せ合うんだからいいだろ」
「それな!」
「ジャジャーン!!」
「……旅行にオシャレに学校に家族のことかぁ」
「THE・普通」
「学はどうなの?」
と、言いながら、学の紙を取り上げる。
「あっ、おい!」
「じーちゃんばーちゃんを労わる」
「読まなくていいから」
学は、取り返そうと手を伸ばしてくる。
バスケで鍛えたキープ力をなめてくれちゃあ困る!
「一日一感謝」
「やめろって」
「気持ちを伝える」
「ん?」
「気持ちを伝えるって……まさか好きな人が!」
「だから、やめ……」
「っ!」
学の手が、私の手を掴む。
「わ、悪い!!」
パッと手を離し、背を向ける学。
「痛くないし大丈夫だよ」
「あっ、いや、そうじゃなくて……」
「どういうこと?」
「そ、それは……」
学は何度もチラチラ見てきた。
そして、意を決したようにこちらを向く。
「俺、明日菜と」
ガララララッ!!
「うわぁっ!」
突然の来訪者に、学は飛び跳ねた。
「ん? なにをそんなに驚いているのだ?」
「べ、べつに……」
「ふむ……」
「高岩(たかいわ)くんは、部活だったの?」
「ああ。素晴らしい研究成果が出て満足だ」
「では、あとは若い者同士で。天野さん、また明日」
「剛志(つよし)、うるせぇよ!」
「うん、バイバイ」
鞄を取った高岩くんは、 颯爽(さっそう)と教室を出ていった。
そういえば、部活のことは教えてくれないんだよね。
怪しすぎて、深く聞けないんだけど。
「……アイツはなにしにきたんだよ」
「帰るためでしょ?」
「いや、そうじゃなくて……」
「まぁいいや。次は、この中からいくつか選んでいこう」
「全部じゃダメ?」
「欲張りなのはいいけど、まずは数を決めてクリアするほうがいいんじゃん?」
「そもそも全部オッケーなら、バスケ部だってやめないでしょ」
「それもそっか」
「で、いくつにする?」
「7個!」
「即答かよ!」
「このやりたいことリストって、明るくてキラキラしてるって思ったから、虹っぽいなって」
「そっか。じゃあ、とりあえず7つ決めよう」
それから1時間かけ、私たちは、とりあえずのリストを完成させたのだった。
天野明日菜のやりたいこと!(仮)
□海で愛を叫ぶ
□学校を無断欠席
□温泉ツアー
□高級ホテルの最上階で夜景を見ながら食事
□オーロラ観測
□習い事をなにかひとつ
□好きな人を作ってドキドキする
この紙が、私の人生を大きく変える。
残された1年間を尊いものにする、
7色の日々の始まりだった。
第2話へ続く
コメント
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泣けるわ。 青春やな。