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バスが山あいのサービスエリアに滑り込む。
「三十分休憩だ。各自、点呼の時間に遅れないように。朝倉、お前は人数確認を手伝え」
小谷先生の指示に従い、私は名簿を手にバスの入り口に立った。
部員たちが次々と降りていく中、最後に降りてきた部長の成瀬先輩が、私の耳元で「作戦、第一段階クリアよ……」と熱い吐息混じりに囁いて売店へ消えていった。
「……やっと降りられた。紗南、ほら」
不意に目の前に、キンキンに冷えたスポーツドリンクが差し出された。見ると、少し不機嫌そうに首筋を掻きながら遥が立っている。
「補助席、背もたれなくて疲れるだろ。……あと、これ。兄貴が来る前に隠しとけ」
遥の手のひらには、私が好きなブランドのキャラメルがあった。
「ありがとう、遥。助かるよ」
「別に……幼馴染として当然だろ。……じゃあな」
遥が照れ隠しのように足早に去っていく。その後姿を見送っていると、今度は背後から穏やかな声がした。
「紗南ちゃん、お疲れ様。人数確認、僕が代わろうか?」
振り返ると、副部長の凌先輩が立っていた。彼は遥が渡したドリンクとキャラメルを一瞬だけ見つめたが、すぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべた。
「……遥は気が利くね。でも、冷たいものばかりだと胃に障るよ。ほら、これは僕から」
凌先輩が差し出してきたのは、温かいカフェオレのボトル。
「……ありがとうございます、凌先輩。でも、副部長のお仕事は大丈夫なんですか?」
「部長が『先生を追う』のに忙しそうだからね、実務は僕がやってるよ。……でも、紗南ちゃんに会う時間は、無理にでも作るって決めてるから」
さらりと言ってのける凌先輩の言葉に、心臓が跳ねる。
冷たいドリンクと、温かいカフェオレ。両手に抱えた二つの重みが、今の私の状況そのもののように思えて、私は返事に詰まってしまった。