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お付き合いいただき誠にありがとうございました……!今回で本編はラストです!よろしくお願いいたします!
では、どうぞ~
「空?!海?!」
目の前に広がる戦火。
必死に兄弟二人の姿を探すも見つからず。
「駄目だ、陸。戻りなさい。このままではお前も焼かれるぞ」
「でもっ……でも!まだ生きてるかもしれないだろ!!父上は空と海を見殺しにする気なのですか?!」
「断じてそんなことはない!」
普段、滅多に声を荒げない父が珍しく怒鳴り声を上げた。
「私はただ、お前にここで死んで欲しくないだけだ……」
そう言うと、俺の胸に顔を埋めて泣いていた。
俺は驚いて何も言えず、その場に固まっていた。
いつも俺たち兄弟に知恵を授けてくれた優しい父。
その背中はいつも大きく頼りになる暖かいものだった。
その父が、泣いている。
滅多に見せない号泣。
普段は絶対に言わない泣き言もか細く震えて聞こえてくる。
「もう駄目じゃ……嗚呼、開国などせねばよかったな……そうしたら皆離れ離れにならなかった……」
父が己の行動を悔やむのはこれが初めてだったように思う。いや、もしかしたらずっとそう思っていたのかもしれない。
「もう陸しかおらんようになってしまった……私はこれからどうしたらいいのだ……」
『いったぁ……やられたよ……』
『すまない海……俺がもう少しカバーできていれば……』
『陸、海、そこに座りなさい。今処置をしてあげるから………二人とも、偉かったの……』
俺たちが傷ついて帰って来るたびに。
『ぐすっ……父上ぇ~!』
『よしよし、辛かったの……立派だったよ、陸、海、空』
各国から心無い言葉をかけられて泣きながら帰って来るたびに。
『陸……』
______辛くなったら、私に頼っても良いのだよ……
長男として、感情を押し殺して、いつの日からかその感情すら湧かなくなった俺を見て、父上はどう思ったのだろう。
血と死体と銃声の中は煙って苦しく、それでも生きるしかない。
昔は悲鳴ばかり上げていたはずなのに、あんなに泣いていたはずなのに……今ではただ黙って仲間の遺体に花を添えて手を合わせるばかりだ。
涙の別れなどない。もう、全てが麻痺してしまっていた。
父上はこの戦争の責任を取る形で処刑された。
『陸は悪くねぇ……私が全部指示したのです……』
涙ながらの必死な懇願を傍で聞き、絶句した。
『ッ父上?!何を_______』
『お前は黙っていなさい!』
鋭く俺を一喝した時の顔は凛としていて、もうすでに死ぬ覚悟を決めたようだった。
『なぁ、それでええでしょう……私一人が死ねばよいでしょう…..新しい国……日本にも保護者が必要でしょうし……どうか、どうか陸だけは______』
結局、裁判は父の言った通りに運ばれた。
やったのは全て俺だというのに……
一応正式な国の守護者になることは許されず、あくまで日本の保護者という立場でしかいられない、という処分にはなったが、それでおしまいだ。
『陸……幸せに、生きなさい』
それが、父の最期の言葉だったと伝えられた。
父上は後継に「日本家の兄弟たち」を指名していた。
そして俺と空、海はもう滅び、俺は守護者としての権利も失った。
つまり、父上はもう二度と生き返れない。
そして、俺の後継……息子である日本が生まれた。
『よろしくお願い致します』
俺の後継なのかと疑うくらいに日本は優しく、俺のイメージをすっかり塗り替え今では平和国家としてやっている。
俺の助けなんて無くてもどんどん先に行ってしまう日本を見て、少し、志那の気持ちが分かる気がした。
『日帝は……もう、我の助けなんて必要ないアルね』
どこか寂しそうに笑ってそう呟いていたのを思い出す。
……こんな棘の道じゃなくて、もっと平和な別の道があったのではないか。
急に、目の前にはアメ公が現れた。
黙って微笑み手を差し伸べている。
(嗚呼、もっと早く、この手が取れていたら。)
この国が歩む道は、もっと平らでいられたのだろうか。
「______今更、詮無いことだな」
「ん?何か言ったか?」
アメリカが問いかけてくるが、首を振る。
「……いや、何でもない」
「そうか?」
「嗚呼。」
桜の花びらが辺りに舞い、段々とそれもぼやけ、景色は遠くなって行く……
「中国さん」
パラオが今度は中国のもとに話しかけに行った。
「ん?何アル?」
「なんで、あのナイチが偽物だってわかったの?僕、モールス信号には書いてなかったはずなんだけど……」
「ああ、それアルか……簡単アル。」
中国は得意になって話し始めた。
「偽の日帝はアメカs…アメリカのことを『米帝』と呼んでいたアル。本物は『アメ公』と呼んでいるアルよ?」
「確かに……!」
「まあ、貴様の信号も多少は役に立ったある。褒めてやるアルから、近づくとよろし!」
パラオが中国の膝に座ると、中国は全力でよしよしし始めた。
「パラオは偉いアル~」
「えへへ~!」
撫でてもらっているうちにパラオは段々と眠くなり、中国の上で寝息を立て始めた。
「はぁ~……癒しアル……」
その内自身も瞼が重くなり、イギリスに告げて寝室へと向かうのだった。
「ッ?!」
飛び起きた日帝は辺りを見回し、今までのことが夢だったと悟る。
「んぇ……先代様?」
「ああ、起こしてしまったか……まだ寝てていいぞ」
飛び起きた衝撃で隣で寝ていた日本も起こしてしまっていたらしい。
「いえ……もう目が覚めましたので。」
「そうか……」
昨晩の姿はどこにも見えず、普段日帝の見る礼儀正しい日本だった。
「あの……先代様」
ふと、思い出したように日本が声を掛けてきた。
「少し、話がしたいのですが……」
日本も当事者だったので事の顛末を知りたいのだろうと考えた日帝は快く承知した。
「ああ。俺の家でいいか?」
「いえ、私の家で……」
「分かった。」
もぞもぞと布団から出て着替えだす日本を見ながら、日帝は今回の一件について記憶を辿った。
霊魂に身体を乗っ取られた三人は、当然ながら何も覚えていなかった。
たまにあるのだ、こういう事が。
大抵は成仏できずにずるずると現世に居座って、結果的に堕落した魂が居場所を求めて憑りつくのだが、今回ほど派手な行動を起こしたものは初めて見た。
姿を似せる術を心得ていただけでなく、日帝本人の記憶までも再現していた。
それも、日本に見せられるほど鮮明に。
(基地の場所も刀の名前も知っていた……何ならあの絹舞殺刀まで……最後は心情さえも当時の俺だったように思う。)
己の剣技は誰にも教えた記憶がなく、また戦時中には一度も使っていない。
(誰か、協力者でもいたのか?)
「一体、誰が……」
「先代様、朝餉の用意が出来たそうですよ」
日本の声で我に返った。
「ああ、今行く。」
一度抱いた考えは、朝食の間ずっと日帝の頭の中で回っていた。
「着きました!」
「久しぶりだな、日本の家は」
「最後に先代様が来たのはいつでしたっけ……」
「さあな……取り敢えず戦後なのは確かだろ」
「まあそうですね!」
話しながら日本が玄関の扉を開ける。
「只今帰りました!」
「お帰り、日本……話し声がしたがお客さんかい?」
奥の方から聞こえてくる声に日帝は愕然とした。
「おや……陸じゃないか。久しぶりだね……」
「父……上…っ?!」
目の前にはあの時と変わらない姿の江戸が立っていた。
「随分、大きくなったねぇ……」
そのまま優しく頭を撫でられる。
「父様、お茶の用意してきます!」
「ああ、それは私がやるから日本は陸に説明してあげなさい」
「分かりました!」
日本に手を引かれるまま家に上がり、和室に通される。
江戸の出したお茶を飲むと少しは落ち着いた。
「……それで、何故父上がいるんだ?」
日帝は日本に説明を促した。
「何故って、生き返るための年数が足りたからですよ」
「いや、まだ1000年経っていないだろう?!それに、俺の国はもう滅びている……もう、生き返ることが出来ないんじゃなかったのか……?」
今になって、涙が込み上げてきた。
「兄様」
日本が自分のことをそう呼んだ時、日帝は反応できなかった。
「……は?今、なんと」
「お話します。これまでの事、全部」
日本の真剣な瞳に射抜かれ、日帝も居住まいを正した。
私は、兄様が保護者、とはなっていましたが、本当の父親は江戸さんです。
兄様たちが生まれた後、暫くしてから生まれたのが私で、丁度大戦が始まった頃でした。
その頃は身体が弱く、一日外で遊ぶだけで次の日には寝込んでしまうような有様でしたから、父様は私を密かに連合国軍の庇護下に入れました。
このまま育てていれば死んでしまうと考えたのでしょうね。軍には入れられませんでしたし、国際連盟さんも良くしてくださいました。病院で治療を受けたら、身体も段々良くなったのですよ。
お陰で、今では立派な国の守護者として働けています。
戦後、私は裁判の結果を見直すよう抗議しました。
兄様に言っても問題はなかったのですが、父様が「あんなに死ぬ覚悟しといて今更死にませんでしたとか言えない……」とかなんとか、要は我儘を言ったので、これらは秘密裏に行われました。
結果、父様は「100年の封印、後に保護者としてのみ復帰」ということになったのです。
封印はまあ死ぬことと同じなので、簡単に言うと1000年経たないと生き返れないところを100年にしてもらった、というようなものです。
それで、最近封印の解けた父様は私の家で暮らしている…..と、そういう訳になります。
「ちょっと待て」
話が一段落したところで日帝が口を挟んだ。
「父上の後継指定は『日本家の兄弟たち』のはずだ……何故父上は……?」
と、そこで思い当たる。
「!そうか、お前も……」
日帝が守護者でなくなってからの間、”日本家の四男”である日本がしっかり後継者として国を繋いでいたのであった。
「はい、恐らく兄様の推測通りですよ。父様も中々なことしますよねぇ……」
日本が笑みを浮かべる。
「ああ……」
外では雀が鳴いている。
思えば、こんなにゆっくりと過ごしたことは、これまでなかったかもしれない。
幼少期は父上を助けようと剣術だけでなく、勉学や兵法にも打ち込んだ。
守護者になってからは、大国の狭間で生き抜き戦いに明け暮れた。
それが終わっても、パラオや日本のサポートや、弟たちの手掛かりを探しに世界中を旅したりと息つく間もない半生だったように思う。
核爆弾が落ちて業火に呑まれた二人は、あの後どれだけ探しても遺体すら見つからなかった。
もしかしたら逃げ延びているかもしれないと、日本中を探した。
それでも全く手掛かりがないと分かると、今度は行動範囲を世界に広げた。
でも、今のところ有力な情報は全くない。
……心のどこかでは、もう諦めていた。
二人はもう、骨すらも残らず焼けてしまったのだと。
自分が今している行動は、全くの無駄かもしれないと。
それでも、やめられない。
欠片でも希望がある限り、それを求めてしまうのはもう性なのだろう。
だが、今では別の目的も見出し始めている。
今までずっと日本や日本周辺の世界しか知らなかった。
だが、世界に視野を広げてみると、どうだろうか。
今まで自分が抱いていた常識が、塗り替わっていく気がした。
だから、これからも、旅は続けようと思っている。
例え、真実が明らかになったとしても。
お茶請けの砂糖菓子はさらりと舌に溶けて甘い余韻を残した。
「えっ、もう行かれるのですか?」
「ナイチ、行っちゃヤダよ~!」
翌日、荷物をまとめた俺は旅を再開すると伝えた。
「年に一度は帰って来る。通信はできるだろう?」
「それとこれとはまた別なんですよ……!」
「ナイチぃぃぃぃ~!」
二人には散々反対され、パラオに至ってはがっしり抱き着かれて泣かれる始末だったが、どうにか宥めて出発した。
「次会った時にはスマホ買いましょうね!」
「すまほ?なんだそれは……和菓子か?」
「すあまじゃないですよ!あんまり似てないし……」
日本には”すまーとふぉん”とやらを買う約束もされてしまった。
……これでは、年に一度、どころか半年に一度は行かないと信号が止まなくなりそうだな……
______必要としてくれているなら、嬉しいものじゃないか。
心の中の自分が言った。当然同意だ。
今なら出来そうな気がした。
パラオのような心からの笑顔を。
「また会おう」
笑みを浮かべると、二人には驚かれた。心外だ。
二人に手を振って歩きだす。
梅の香りがどこからか漂ってくる。
それを冬の澄んだ空気と共に吸い込むと頭の中が清々しくなった。
ふと、こう独り言ちる。
(……嗚呼)
「___この世は、更なりかな」
ここまでお付き合い頂き誠にありがとうございました!
これにて本編完結となります!
この後はこの話に関する後日談や番外編などをちまちまと合間に出していく予定ですのでお楽しみに!
改めて、本当にありがとうございました!!
これからもどうか水月をよろしくお願い致します!
では、またお会いしましょう!