「そうか……」
彼が応えて、髭のあった口まわりをするりと手で撫でた。
「実は、剃ろうと決めたのはいいが、もう何年も生やしていたんで、いざ剃ってみると照れくさくてな。君が気に入ってくれたのなら、よかったよ」
その顔は髭のない分だけ若くも見えるようで、これまでのダンディさにクールなイメージも加わって、さらにいい男ぶりが増して見えた。
「髭を剃るだなんて、思ってもみなくて」
髭があるとないとでは、こんなにも印象が変わるんだと半ば唖然として、美男により拍車をかけた彼の容姿をまじまじと眺めた。
「剃ったのは、十年ぶりなんだ」
「えっ、そんなに……。本当に、剃ってしまってよかったんですか?」
やっぱり他には何も理由なんてなくて、私のせいで十年来も慣れ親しんだ髭を剃ってしまったんだとしたら……と、さらにネガティブな方向へ頭が傾く。
そんな私の考えを振り払うように、
「いい機会だったからな…」
彼はそう言うと、「……似合うだろうか?」と、やや心もとなげに問いかけた。
「もちろんです! すごく素敵で、ますます好きになっちゃいそうで」
それは言うまでもなくてという思いで、つい鬱々と考えていたことも忘れ即答をする。
「好きになってくれるのか、もっと」
「はい。もっと、す、き……っ」
言葉の途中で、チュっと唇が奪われた……。
コメント
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髭を剃ってしまった事で迷いもあっただろうけど、ますます好きになってくれるって聞いてホッとしたんだろうな🩷