テラーノベル
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数日後。
私は深くローブを被って顔を隠し、レオンとフローラとともに市場を訪れていた。ざわついていた市場には、落ち着きが戻っている。
「小麦は十分にあるらしいぞ!」
「領主様が価格を据え置いてくれたんだってな」
「買い占めしようとした悪徳商人は、公共取引から外されるらしいぜ」
「バイオレッタ様が戻ってきてくださって、本当に良かった……!」
人々の声が、不安から安堵へと変わっていく。
(よし。まずは市場の混乱を抑え込めたわね)
隣を歩くレオンが、感心したように言った。
「はは、君には本当に驚かされてばかりだよ。完全に形勢逆転だね」
「こんなものは序の口よ。ビジネスは、お互いに利がないと始まらないもの」
私がそう答えると、反対側からフローラがぎゅっと腕に抱きついてきた。
「お姉様は本当にすごいですっ! 領民の皆さんを救ってしまうなんて……!」
「僕も王都側への連絡を頑張ったんだけどな?」
レオンが、わざとらしく肩をすくめる。
フローラはにっこり微笑んだ。
ただし、目だけはまったく笑っていない。
「はいはい。物資を買い集めて、倉庫に保管しておいた私と比べれば、王子殿下も少しはお役に立ちましたねっ」
「少し?」
「ほんの少しです」
「特待生ちゃん、僕に対して当たりが強くない?」
「お姉様の一番のお役に立てるのは、私ですもんっ!」
(……お願いだから、市場の真ん中で張り合わないでほしいわ)
私はこめかみを押さえた。
***
屋敷に戻ったとたん、フレッドが息を切らして駆け寄ってきた。
「バイオレッタ様!」
その顔は、明らかに青ざめている。
「何があったの?」
「森で……ウィステリア領の領民と思われる遺体が、木こりによって発見されました」
部屋の空気が止まった。
「俺が確認してくる」
アレクが即座に立ち上がった。
「待って。一人ではだめよ。あなた、怪我が治ったばかりでしょう」
「問題ない」
「問題しかないわよ」
私が睨むと、アレクは視線を逸らした。
その時、レオンが片手を上げた。
「じゃあ、僕が一緒に行くよ」
「いらん」
「だって、もし死体が本当にウィステリア領民なら、領地間の政治問題になる。王族である僕が現場を確認しておいた方が、後で揉み消されにくいでしょ?」
私は少し考え、頷いた。
「分かったわ。二人で行って。レオン、アレクが無茶しないように見張っておいて」
「任せて。ちゃんと止めるよ」
「フン、止められるものならな」
「ほら、もう暴走する気だ」
私は小さく息を吐き、フローラへ向き直った。
「フローラ。私たちは例の準備を進めるわよ」
「はいっ。お姉様のために、完璧にやり遂げます!」
フローラは胸の前で小さく拳を握った。
その顔を見て、私は数日前の夜を思い出した。
***
数日前。
商人たちとの会議を終えた夜、私はアレク、レオン、フローラを執務室へ集めていた。
「王妃派は、必ず次を仕掛けてくるわ」
私がそう告げると、部屋の空気が張り詰めた。
「関所封鎖でアイリス領が崩れないとわかった以上、次はもっと直接的な手段に出るはずよ」
「直接的な手段?」
私は地図の上に指を置いた。
「私は、最悪の場合……領地戦になると想定しているわ」
フローラが息を呑む。
アレクは黙ったまま腕を組み、レオンは表情を引き締めた。
「でも、これはアイリス領の問題よ。あなたたちまで巻き込みたくない」
その瞬間、アレク言った。
「巻き込まれた覚えはない。俺が勝手にいるだけだ」
レオンも苦笑して肩をすくめる。
「僕も同じかな。君に巻き込まれたんじゃない。僕が君の側にいると決めたんだよ」
フローラは、私の手をぎゅっと握った。
「お姉様が守りたいものなら、私も一緒に守ります」
胸の奥が熱くなる。
私は小さく息を吐き、頷いた。
「……ありがとう。なら、お願い。私と一緒に、最悪の事態に備えて」
コメント
1件
あおいです🌷 第62話、胸が締め付けられる展開でしたね…。市場の平和が戻った安堵から一転、遺体発見の知らせで空気が凍る感じ、本当にうまく描かれてるなと思いました。特に好きだったのは、バイオレッタが「巻き込みたくない」と言った時、アレクもレオンもフローラもそれぞれの言葉で「君の側にいると決めた」と返すところ。一人じゃないんだって伝わってきて、じんわりしました。次が気になります!