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視界が歪み身体がフワフワと浮いている様に感じる。
レンブラントは覚束ない足取りで、ヘンリックとテオフィルに身体を支えられて店から出た。
街の酒場が集まる裏路地にある貴族御用達の酒場など普段来る事はないが、今夜はどうしても酒を飲みたい気分だったレンブラントは、ヘンリック達に声を掛けた。するとここに連れて来られたという訳だ。
「ほら、確りして下さい」
「大丈夫か、幾ら何でも飲み過ぎだろう」
「貴方に言われたらレンブラントもお終いですね」
煩い。
耳元で二人はごちゃごちゃと話しているが、耳障りだ。折角人が良い気分で飲んでいたのに、テオフィルに強引に止められて半ば強制的に店を出る羽目になった。正直言って飲み足りない……。
(まあ良い、屋敷に戻ったら飲み直すか……)
ボンヤリする頭でそんな事を考えながら、ヘンリック達に無理矢理馬車に押し込められる寸前の事だった。
「レンブラント・ロートレック、話がしたい」
現れたのは最早彼の存在を自分の記憶から抹消してしまいたいくらい憎らしいあの男だった。
折角の酔いがスッと引いていく。
「ユリウス・ソシュール……。僕は君に用はない」
それだけ言って馬車に乗り込もうとするが、ユリウスに妨害された。
「何、邪魔なんだけど」
すっかり酔いが覚めたレンブラントは、馬車に揺られながら先程までの出来事を思い出していた。
酒場から出たら何故かユリウス・ソシュールが待ち伏せをしていて、意外な話をされた。そして彼の話を聞いたレンブラントは自邸ではなくフレミー家へと向かったが彼女は不在だった。その代わりではないが、モニカからとある事を打ち明けられた。
ソワソワとして落ち着かない。今直ぐにでも彼女に会いたいが、モニカの話では知人の屋敷に出掛けており今夜は帰らないそうだ。確りとした身元の人物故心配はいらないとは言われたので、大人しく引き下がり帰る事にしたが、やはり気になって仕方がない。
知人が誰かは分からないが、ユリウスではない事は明白なのでそれだけは安心だが、やはり気にはなる。
彼女を悪く言うつもりはないが、ティアナは友人がいないと聞いた。そうなると考えられる人物はかなり限られる。
(まさか、ミハエル殿下か⁉︎ いやいや、流石にそれは……ならもしかしたらエルヴィーラ……もないな。ヴェローニカのいる屋敷に彼女が招き入れる筈がない。なら一体、誰なんだよ……)
我ながら現金なもので、つい先程まで暫く彼女とは会わないと決めたばかりだったのに、今は直ぐにでも会いたくて仕方がない。
「ティアナ……」
思わず洩れた彼女の名前は、馬車の揺れる音に掻き消された。