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「大樹…」
みっちゃんは、大きな声で呼び込みをしていたが、大樹が現れると、その声のボリュームは下がって、黙ってしまった。
「……久しぶり。康二も、みっちゃんも。」
「……」
「…みっちゃん?」
俺は、固まって喋らなくなったみっちゃんに声をかけた。
「…あ、ごめんこーちゃん……」
「大樹、用が済んだら帰って。」
みっちゃんは大樹に目も合わせず、家の中に入っていった。
「…康二、今時間ある?」
「…え、うん。」
なぜか、俺はこの2人にしかわからない空気があることが悲しかった。
「…俺ちょっと出まーす!」
俺が番台に向かってそう言った瞬間、大樹は俺の手を引っ張ってどこかに歩いていった。
まるで、この場所を嫌がっているような感じ。
しばらく歩くと、このまちのデートスポット、小さな丘に着いた。
大きめのベンチに小さな噴水、鳴らすと願いが叶うという鐘 the デート って感じの場所。
「…康二には言ってなかったっけ。」
「俺…みっちゃんと付き合ってた。」
大樹は、海の方を見つめて言い放った。
「……は?」
みっちゃんと大樹が付き合ってた???
「え、なんで──」
「でも! すぐに別れた」
大樹は顔をしかめて俺に怒鳴るように言っ た。
「高校卒業してすぐ、俺から告白して付き合ったんだ。でも、俺は起業したかった。だから東京に行った。」
「てっきり、あいつはついてくると思った。でも、“地元が好きだから”ってついてこようとしなかった。」
「東京だぜ?こんな田舎、出たくねぇのか?」
「…そうしたら、今度はお前が地元にいるから、てっきりあいつと浮気してんのかって思って言ったんだ。だから───」
………
………
俺はいつの間にか、大樹に平手打ちしていた。
「地元好きで何が悪いんだよ!」
「は!?」
「俺も仕事で上京したんだ。でも、待ち構えていたのは楽しさじゃない。」
「入社2年目で難しい仕事を与えられるわ、話したこともない人にいじられるわ、“俺は何されても怒らない”ってレッテル張られるわ…」
「全っ部!!俺は辛かったんや!!」
「社長が察して、地元に戻ってゆっくりしてこいって、2週間の休暇を貰ったんや。」
「ここに来たら、どんな悩みも消える。人混みのしんどさ、上司のウザさ、毎日毎日、ギラギラ光る看板やモニターもない。」
「ここが最高なんや。」
俺は、大樹の頬を撫でながら言った。
「…ごめん、地元は最高なんに、悪く言うような大樹に、腹立ってしもて。」
大樹は、俺に隠すように顔を下に向けた。
大樹は泣いていた。
「……なぁ、大樹」
「…なに?」
「…なんかあって戻ってきたんやろ?」
「…俺やったら、話聞くで。」
大樹はベンチにしゃがみ込んで、喋り始めた。
「実は………」