春千夜side
その日は久しぶりに蘭に会えることになって、俺はがらにもなくめかしこんで、待ち合わせの30分も前に着いちまったんだ。
何もすることもねぇし、クリスマスモードでやたらキラキラしてる街をぶらぶら歩いてて、そしたら、
『らーんっ』
どこからか俺のパートナーの名前を呼ぶ声がして反射的にそっちを振り返ったら…紫と黒の髪をいつものようにビシッと七三にわけ、悔しいくらいに似合う背広の広いジャケットを着た、間違いなく俺のパートナーの蘭に見たことも無い女が腕を絡ませて歩いてた。
頭を打たれたような気がした。
こんな俺でもショックくらい受ける。ベタベタされるのは嫌なんじゃ、ないのかよ、
俺だってもう1週間会ってないのにまだ手を繋いで街を歩いたこともないのに
俺の、蘭なのに
でもその女を見てたら妙に納得しちまって、だって、傷1つない綺麗な白い肌につやつやの髪、それに愛嬌のある笑顔。
俺なんかが…勝てるわけない。俺なんかが…蘭のパートナーでいていいわけない。俺みたいなやつ…俺みたいなやつは、捨てられて、当然なんだ
そう思うと余計自分が嫌になってきて、ああこんなことになるなら悪態ばっかりつかずにいつも素直に感謝していれば良かった。なんて思いながら蘭に断わりのメールをいれ、いつの間にか出てきていた涙を拭いながら走って帰った。
家に着いたら蘭が帰ってくるまでに気持ちを落ち着かせようとベットにもぐった。とめどなく溢れてくる涙をもう拭うこともせず、蘭の枕を抱きしめて、うわずる呼吸を抑え込んだ。
蘭の匂いを嗅ぎながら朦朧とする意識の中で俺はふと思った。
「巣、、、、作らなきゃ、、」
蘭side
あ゛ぁ゛!!!いらつく!
あのやたらと香水のきつい今回のターゲットを上手く路地裏に連れ込みスクラップにした後、やっと春に会えるとメールを入れようとすると断りのメールが入っていた。これが終われば春を甘やかせるからといつもたとえターゲットであろうと嫌なベタベタされるのも許し、上手く殺したと言うのに、
イライラしても春には会えない。わかってる。
それどころかこのまま帰って春に会ったらきっと酷く当たってしまう。そう思った俺はとりあえず適当にカフェに入りイライラする気持ちが治まるまで待つことにした。
どのくらいたっただろうか、気づけばもう17時を回っている。春と待ち合わせをしていたのが14時30分だったからもう3時間近く経つことになる。
幸いにもイライラした気持ちは治まり、早く春に会いたいと言う思いだけが強まった。
早く、帰ろう。春がどこにいるかは分からないけど、会ったら抱きしめて、たっぷり甘やかして、、、それから、、
春で卑猥な妄想をしながら帰路を急ぐ。家の前まで来てもし春がいたら、、と考え、緩む口元を引き締めてドアを開けた。
「っっっ!!?」
ドアを開けた途端に襲ってきた、、これは、、春の、フェロモンだ、、、。
思考を素早くめぐらせたが、ヒートが来るには少し早い。周期が乱れた?いやでもそんなことになる要因がわからない。
でも、、、じゃあなんだ、この、いい匂いは。
急いで扉を閉め、あれこれ考えながら1番匂いの強い寝室に向かう。
意を決して扉を開けると格段に強いフェロモンに襲われた。くっそ、ぼーっとしてたら意識がとびそうだ、
「春ちゃん?」
滲む思考にムチを打ち、春をさがす。てっきりベットにいるのかと思ったがいなかった。なら…あそこだろうか、
俺の予想は大当たり。春はクローゼットの中にいた。それも俺の服で作られた巣の中に。
はぁーーーーーー????可愛すぎるだろ。今すぐ愛してやろう。
俺は意気揚々と声をかけた。
「春千夜♡」
だが春の様子がおかしかった。
春千夜side
いつの間にか真っ暗な、何も無い寂しい空間に俺は1人でたっていた。ここは、どこなんだ、どうして誰もいない?我らが王のマイキーもかつての隊長も竜胆も、蘭も、、、蘭、そうだ、おれ、らんにすてられたんだ。
もっといい子にしてれば捨てられなかった?ごめんなさい。素直じゃなくて、可愛くなくて、男で、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。、、寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい寂しい、、、誰か、助けて、愛して、
『…!……………よ…………よ!……………ちよ!……はるちよ!!』
誰かが俺を呼んでる。、、ああ、知ってる、この声。愛おしい声。、大好きな、声。まだ俺の名前を呼んでくれる。、、、、早く、起きなきゃ。
意識が浮上すると、俺は大好きな人の腕に抱かれていた。さっきまで何が起こっているのか分からないくらい呼吸ができていなくて、あぁ、過呼吸だったんだな、なんて他人事みたいに考えているとその好きな人が俺をもっと抱きしめてキスを落としてくれた。
…なんで、
………俺のことはもう捨てるんだろ、
……だったら、ほっといてくれればよかったのに
……こんな希望を持たせるなんて、勘違いしそうだ。
いつの間にか止まっていたはずの涙が溢れだして、目の前の蘭にしがみついていた。蘭は何も言わず俺を抱きしめて、背中をさすり、俺が落ち着くのを待ってくれていた。
「…落ち着いた?」
「……おう、」
「よかった、、ねぇ、なんでこんなことになったの??、ヒート?それに、これ、巣?」
「………わかんねぇ」
「春千夜。」
「わ、わかんねぇよ、俺だって。なんでお前の服が欲しいのかも、なんで今もこんなに俺に優しいのかも、、なんで俺のこと心配してくれんのかも、わかんねぇ、」
「…は?」
「俺のこと捨てるつもりならもう優しくすんな!」
「いやいやいやいや待って、どーゆーこと??蘭ちゃん全然状況が把握出来ないんだけど??なんで俺が春を捨てることになってんの、、?」
「は、、?だって、今日、女と腕組んで歩いてた、、。俺のことは、遊びだったんじゃねえの、」
「おんな、、、、?アッ!!!!女って、アイツ!?!?」
「?そーだよ。もう見たし、別に浮気とかめんどくさいことも言わねぇから、別れたいなら、早く、、別れよーぜ、」
そう言い、泣きそうになるのを耐えながら蘭の腕の中から身を捩り抜け出そうとすると
「待てって、」
とより強く抱きしめられた。
「なに、、」
「それ、、が、、ぃ、」
「え、?」
「だからっ、それ、勘違い!!!!っあーマジ焦った!!」
「…、え?ん、どゆこと、?」
「だから〜そいつスクラップのやつ!もうこの世にいない!」
?あの女はスクラップ案件だったってことか?でも、そんなやつの情報が、No.2に回って来ないこと、あるか…?
「、?で、も、スクラップだったら俺も知ってる、はず、」
「あ〜、いや、その…」
ほらな、やっぱり
「らん、も、いいから、別に、怒んねぇよ、」
嘘なんかつくくらいだったら、素直に振ってくれよ、
「いや違うから!!あの女、アルファでさ、強いフェロモンだしてくるんだよね、だから、春千夜には内緒だったの、ごめんね。、ほら、春千夜、自分のバース性のせいで仕事が出来ないの嫌って言ってたじゃん、だからさ、」
え、?確かに、俺は自分のこのバース性がコンプレックスで、これのせいで仕事できないくらいだったら死ぬって前に蘭に、言った。待ってくれ。じゃああの女はほんとに裏切り者で、蘭にスクラップにされて、、俺は、それを見て、嫉妬したってことで、それって、つまり、
「…ぁ、ぇ、、?じゃ、ぁ、勘違い…?\\\\\」
顔がかあっと熱くなり、溜めていた涙が溢れたのが分かる。蘭の顔を恐る恐る見てみると二っと口角を上げ、だらしない顔をしている。、くそ、そんな顔でもかっこいいのかよ、
「そうだよ〜、も〜俺があんなブスな女、好きになるわけなじゃん!こんなにかぁいい子がいるのにさぁ♡」
「グズッほんと、?ほんとのほんと?」
「ほんとほんと、♡もし信じられなかったら九井に聞いてみる?」
ほんとなんだ、俺は恥ずかしさ半分、安心半分だった。でも、、本当に俺のことを好きだったらなんで、番にしてくれないんだ、
「ん、、でも、じゃぁ、!なんで、俺の事、っっ番にして、くれないの、!」
あ、言っちゃった…。違う。そんなめんどくさいこと言うつもりなくて、。一緒にいてくれるだけで、良くて、、蘭もめんどくさいのきらいだし、そもそも俺は男で体も丈夫だから一緒にいてくれるだけで、……ぁ、嫌われる…?
蘭の顔が見れなくて、嫌な思考ばっかりが頭の中を駆け巡って、呼吸ができ、なく、
「え…?」
ほら、蘭が引いてる。嫌われる。、謝らないと、
「ぁう、ちあう!グスッ、そんな、ちがぅ、や、ごめんなさ、ごめんなさぃぃ、やだ、すてないでぇ!」
あやまれたかな、ゆるして、くれる?
「待って待って!!春千夜、大丈夫だからね、ゆっくり息して、。ね?吸って、吐いて、」
蘭がなにか必死に声をかけてくれて、大きな手で背中をさすられる。
蘭の心音に合わせて掛け声通り嫌われないよう死にものぐるいで息をするとボヤけていた視界がクリアになっていく。
「ぁ、」
「大丈夫?」
「ぅん、、グズッ」
「じゃあ春ちゃん、さっきの続きね、できる?」
「んぅ、でも、」
「ん?」
「らん、うざいっ、て、思う、よ、?」
「え?、思わない思わない!蘭ちゃんのことなんだと思ってんのー」
「でも、ね、めんどくさい、もん、」
「春千夜が?」
「うん、」
「いやいや、めんどくさくないし、」
「でも、」
「春千夜、1回、話してみて、」
「っ、ん、、ぁの、ね、、、おれ、蘭の、ふ、番に、なりたいぃ、、」
「…えっと、ほんとに?」
「っ、ごめ、なさ、グスッ、ゃ、ちが、ぅ、」
「違うの?」
「ぅうーっ、ちがぅ、ないけどぉ、やっ、嫌いに、なる…?」
「なんないって、、ねぇ春千夜、今、お薬飲んでる?」
「ん、?、飲んでない、」
「そっかぁ〜、まじかぁー、素面ってことだよね?」
「…ぅん、」
「春ちゃんって、俺の番になりたかったんだ」
「、ふ、ごめ、」
ダメだった?と思うと同時に正面に居る蘭に両手を握られる。
「あやまんないの、、…、春千夜〜俺も。」
蘭にたしなめられ、その甘い声で名前を呼ばれたと思ったら、…『俺も。』、俺も?俺もって、、、、よろこんで、いいの、?
「ちょっと〜無視〜?…って、わぁ、そんな泣かないでよ〜」
「っぅう〜っ、!ほんと、グスッ、?な、で、らん、俺のこと、、ぅ、、しゅきなの、?」
「えぇー?好きだよ!好きって言ってるでしょ〜♡、」
「らってぇ、おれと、つがっ、いや、ぉもってたぁ、!」
「んん?あぁ、違うんだって、、ほら、春千夜さ、エッチしてる時とかヒートの時とかにしか好きって言ってくれないし、番になりたいとか、好きとか素面で聞いた事なかったから、、ほんとかわかんなくてさ〜。」
「、俺、好きな子には優しくしたい派だから、春千夜のホントの気持聞かずにアルファの力だけで番にしたくなかったの。ごめんね。春千夜はちゃんと本当になりたいと思ってくれてたんだね。」
蘭がそんなに自分のことを考えてくれていたなんて知らなくて。嬉しくて嬉しくて溢れてくる涙が邪魔で返事が出来なかったから、何度も何度も頷いた。
「あは、そんな首振ったら取れちゃうよ…。はぁ〜、、俺も泣きそう。」
そんな声が聞こえて急いで顔を上げると
「ん゛っははっ!そんな全身全霊で見にくんじゃねぇよ!照れちゃうだろ〜。」
と涙なんか程遠い、清々しい大笑いで迎えられた。
「んふ、ふふは、」
そんな蘭につられて俺も笑ってしまう。
「何笑ってんの。も〜、誤解とけた?」
「うん、、あ、のね?、らん、すき、」
「は、ん゛、ちょ、今こっち見ないで!!!」
見ないでと言われて見ないやつがいるだろうか。否いない。しかも俺の渾身の告白をスルーしてんじゃねぇ。こんどこそと、顔を覗き込むとそんな顔出来んだなと言うくらい赤面していてこっちも恥ずかしくなる。
「も゛ー!!見んなって!」
そう言って蘭に押し倒される。いつもなら「キャー」と悲鳴をあげてみたり、逆に気分じゃない時は腹を蹴って逃げ出したり。でも、今日は違う。これから、蘭の番になれる。
蘭の顔面国宝級の顔がゆっくり近づいてきて、キスをされた瞬間。自分のなかの何かが壊れた。あ、、ちゃん、と、ヒート、きた、
…それからはもう、何も覚えてない。でも、多分。いや絶対。、今までで1番幸せな時間だった。
次の日、起きると横には愛しい愛しい俺の蘭がいて、自分の体は綺麗に清められ、不快感も何もない。まるで何もなかったみたいだけど、俺の周りには蘭の服が散乱していてそれがとても落ち着くのと、首に新しく出来た蘭の印が昨日、俺が世界一幸福なオメガになったことを物語っていた。
コメント
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やべぇ〜、ニヤケが止まらねぇ
指が痛くなるまでいいね押します
いやぁ〜、これは流行らせるべき