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#ワンナイトラブ
篠原愛紀
その言葉に、セレノは眉をわずかに寄せた。
敬意を払っているようでいて。
(逃げ道を塞いでいる)
理解できないと言えば、自分が未熟になる。
王族として、感情で動く愚か者だと認めることになる。
せっかくアレクト殿下と築いてきた和平への道を、みすみす踏みにじるような真似を、皇太子の身で出来ようはずがない。
ランディリックは、それを分かっていて話している。
「……それはそうだけど……僕だけがやけに不利益を被る申し出だと思ってしまうのは、気のせいだろうか?」
セレノがそう促すと、ランディリックはわずかに頷いた。
「もちろん、殿下もそろそろ后を迎えねばならない年齢でいらっしゃいます。そして……どうせ迎えるならば、貴国と我が国の架け橋となるような、友好の証となる娘が望ましい――」
「その通りだ。だからこそ僕は――」
リリアンナを選んだのだ。
そう続けようとしたら、視線だけで先を制された。
「リリーは殿下の国へ嫁ぐ資格を失っております」
「それは――」
「皆まで言わずともお判りでしょう」
リリアンナはランディリックとともにあることを選んだのだと、先ほど聞かされたばかりだ。
そしてマーロケリー国は、王族に入る人間の貞節を重んじる。
(つまり――)
涼しい顔をして語る目の前の男が、彼女の花を散らせたのだ。
そう理解した瞬間、我知らず拳に力がこもってしまう。
(それは……僕の役目だったはずだ)
そう思ってすぐ、(僕はなにを勝手なことを)と気付いてハッとした。
相手の意志を尊重しない自己本位な考えが、例え一瞬とはいえ脳裏をよぎってしまったことを、セレノは深く恥じた。
「分かった。それで……その上にまだ僕に言うことがあるというのは……どういうことかな?」
「はい。リリアンナの代わりと言っては語弊がありますが、殿下に折り入ってお願いがあるのです」
「お願い?」
「ええ。是非とも引き受けていただきたい娘がいるのです」
セレノは目を細める。
ランディリックはすぐにはその娘の名を出さなかった。
「実は……我々のせいで少々立場が不安定になってしまった娘でしてね」
「……それは、どういう意味だ?」
「殿下と関わったことで、縁談に支障が出ている娘がいる、と言えばお判りいただけるでしょうか?」
セレノの表情が僅かに険しくなる。
「まさか――、一度は不問に付したはずの件について、僕に責任を取れ、と?」
「いいえ」
ランディリックは即座に否定した。
「責任だなどと大それたことを申す気はありません。ただ――セレノ殿下ほど慈悲深い方なら、みすみす放置できないだろうな? と思っただけです」
柔らかい声音。
だが、その実、断れる形にはなっていなかった。
セレノは理解する。
これは脅迫ではない。
圧力でもない。
だが、ある意味そんなものよりも、もっと厄介だ。
善意と理性によって、選択肢を削られている。
「その娘の名は?」
「言わずともお判りでしょうに」
「ダフネ・エレノア・ウールウォードか?」
「ええ、以前は。――ですがお忘れですか? 彼女は先の件でわたくしの養女となり、ダフネ・エレノア・ライオールとなっております」
セレノは静かに息を吐いた。
ようやく話が繋がった。
コメント
1件
あー、だからダフネを養女にしたの!?