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ナック視点
主が現れてから最初の雨の日、とは言え新しい主は活発な方ではないらしく晴れの日でも部屋で大人しくしていることが多いらしい。
問題を起こさないのはありがたいものの、数日経っても全く出くわさないほど行動範囲が狭いのもどうかと思う。
この屋敷で暮らすことになるのであれば、いつか出くわしてもおかしくない・・・というか、挨拶をしないと問題ではないだろうか。
誰かに指摘される前に挨拶くらいは済ませてしまいたい。
そう思っていると、こちらをじっと眺めるように立っている影の薄い女性がいた。
噂に聞いていた主様だとすぐに分かり、書類を抱え直してすぐに挨拶に向かった。
「主様、ですよね?
お初にお目にかかります。私はナック・シュタインと申します」
『あ、はじめまして・・・主になりました◯◯です』
主はナックが頭を下げると釣られるように頭を下げて簡素な挨拶をした。
ナックは攻撃性や敵意を感じないことに安心して顔色をうかがうと、主は血の気のない真っ白な顔をしていた。
色白だとは思うが、これは病的な白さだと感じて体調が悪いのではないかと失礼ながら聞いてみることにした。
「ご丁寧にありがとうございます、主様。
・・・ところで、少し顔色がよろしくないようにお見受けいたしますが・・・」
『え・・・あぁ、雨のせいでちょっと頭痛が・・・』
主は視線を下に落としながらそう言った。
声にも覇気がなく、具合が良くないのは確かなようだ。
「そうでしたか・・・そうです!ルカスさんに頭痛薬をいただいてはどうでしょう」
『ルカスさん・・・?』
ナックがそう言うと、主は不思議そうにルカスの名を復唱した。
どうやらルカスもまだ挨拶を済ませていなかったようだ・・・。
「おや、まだ挨拶をしていないようですね・・・
う〜ん、確かに研究で籠もりきりですから、仕方ありませんか・・・」
ナックは少し考えて書類を片手で抱え直すと、主に空いた手を差し出し、笑みを浮かべた。
「お手をどうぞ、主様。
治療室・・・は今は散らかり放題でしょうから、私達の3階の執事の部屋にご案内いたします」
『え?・・・あ、どうも・・・?』
主は戸惑いながらナックの手に自分の手を乗せてエスコートさせてくれた。
動きがガチガチで緊張しているのが伝わってきて、ナックは少しおかしくなってしまった。
ドアを開けて主を執事室の中に招き入れ、テーブルセットに案内する。
主は、小さく『ど、どうも・・・』と呟きながら足を踏み入れ、椅子に座るときも『あの、えっと、失礼します』と頭を下げたのでどちらが執事か分からない。
お客様用のカップにお茶を入れて主に出し、ルカスは一体どのような反応をするのか楽しみにしながら主に声を掛けた。
「・・・私はルカスさんを呼んでまいりますので、少しお待ち下さいね」
ラムリ視点
主が現れたと聞いてはいたが、どんな人かもわからないしどうせ掃除のやる気はでないし、かと言って庭で昼寝するには生憎の雨模様。
今日はお星さまも見えないだろう。残念。
ルカスは難しい研究で構ってくれないし、主が来たことを理由にラムリを追いかけ回すナックもウザいし、ラムリの機嫌はどんどん悪くなっていく。
ナックはこの時間仕事部屋に籠もっているはずだから、ルカスの机を片付けたらベッドで横になっていようと執事室の扉を乱暴に開けた。
扉を開けると、小柄な女の人がテーブルセットに座っていてビックリしたようにこちらを振り返った。
「あれ?誰?アンタ・・・」
ラムリが不機嫌を隠さずにそう聞くと、女の人は萎縮した様子で返事をした。
『あ、えと、新しく主になった〇〇といいます・・・』
「えっ・・・あ〜、なんか新しく来たって言ってたっけ・・・
ボクはラムリ・ベネットって言います〜」
『ど、どうも・・・』
よく見ると、主はお客様用のカップでお茶を飲んでいた。
ということは、ルカスかナックが用意したものであるということ・・・
「・・・ねえ、それ・・・誰が用意したんですか?ルカス様?それともナック?」
『あ、と、ナックさんです・・・』
「ナックか・・・」
ラムリはナックがすぐに戻ってきては大変だとさっさと部屋を出ようとした。
しかし、その瞬間ノックの音がしてルカスを連れたナックが部屋に入ってきた。
「うげ、ナック・・・」
「ラムリ!ここにいたんですね!
掃除はどうしたんですか?全然進んでいませんでしたが・・・」
うっざいのに捕まっちゃった、と顔を顰めてラムリはナックが強くでられないであろう主をダシに逃げようとした。
「あ〜もう、うるさいなぁ・・・
主様の前でそんなこと言って良いの〜?」
ラムリは主の後ろに回り、べーっと舌を出してナックを挑発した。
ナックの眉がピクっと動いたからかなりいいダメージが入ったっぽい。
「・・・ラムリ君、主様を言い争いに巻き込んだらダメだよ?」
ルカスの一言で、ラムリはナックを挑発するのをやめて大人しくなった。
「はぁい・・・ルカス様」
「すみません、ルカスさん・・・」
ナックも大人しくルカスに謝っていた。
いつもこのくらい大人しかったら良いのに。
「主様、申し訳ありません・・・」
『あ、いえ、そんな・・・』
ルカスは主に深々と頭を下げてラムリ達の非礼を詫びていた。
ルカス視点
「えぇと、そうだ、自己紹介をしなくてはいけませんね。
私はルカス・トンプシーと申します。
医療係と交渉係をしています。
どうぞよろしくお願いいたしますね」
『よ、よろしくお願いします・・・
あ、主になりました〇〇です・・・』
ルカスは主をまじまじと観察し、小柄で華奢、気が弱そうで無害そうだとある意味安心した。
「はい、〇〇様・・・素敵なお名前ですね♪
・・・それで、頭痛があると聞きましたが、今の痛みはどの程度でしょうか?」
『え?あ、頭痛は・・・今はちょっと頭を動かしたときに痛むくらいで・・・じっとしてたら大丈夫、です・・・』
ナックにあらかじめ聞いていたように頭痛があるらしく、痛みの感じから言って気圧の変化による片頭痛のようだ。
「ふむ・・・そうですか・・・
辛いようでしたら鎮痛剤をお渡ししますが、いかがされますか?」
『あ、いえ・・・薬を飲むほどでは、ない、と、思います・・・』
「かしこまりました。
ですが、悪化しそうでしたらすぐに言ってくださいね?」
『は、はい・・・』
主は遠慮がちにそう返事をしたので、これは不調を隠しがちな面倒な患者かも知れないとルカスは内心げんなりした。
これは、先に体調を確認しておいて体調が悪そうならこちらから出向かないといけない感じの人かもしれない。
「あ、そうです・・・
主様のご体調についてあらかじめ確認しておきたいのですが、宜しいでしょうか?」
『あ、はい・・・』
ルカスはカルテを用意し、主の体調の記録をつけていくことにした。
早い段階から何か病気の症状が出ていれば、後から照合していく時に分かりやすい。
「では、私の質問に答えて頂く形で進めさせていただきますね」
『はい・・・』
「えっと、まずはご年齢と身長と体重を教えていただけますか?」
『あ、はい・・・年は2✕歳で、身長は・・・で、体重は・・・くらいです』
「ありがとうございます。では、持病などはございますか?」
『いえ・・・特には・・・?』
「それでは、今服用されている薬などは?」
『あ、部屋にお薬手帳があるので取ってきます・・・』
「ああ、そういった物があるのですね・・・助かります」
幸い、主は自己申告では持病は無いらしく、薬の記録を見せてくれるという。
階段を下っていく足音を聞きながら、ふと主の世界とこちらの世界で薬が違ったらどうしようかという問題が浮かんだが、まぁどうにでもなるだろう。
『おまたせしました・・・』
「ありがとうございます・・・これは・・・ふむ・・・」
お薬手帳とやらを受け取り、ルカスは主がどの病院でどんな薬が出されているのかを確認していく。
幸い、漢方薬は殆ど同じ物があるし、薬の名前や説明を見ればどんな薬かも大体わかったので、主に服薬期間などを確認していく。
「これは、ずっと飲んでいるお薬でしょうか?」
『あ、そうです。今も飲んでます・・・』
普段飲んでいる薬と、最近出された向精神薬・・・これには触れないほうが良いかも知れないと判断してメモを取るだけに留めて手帳を返した。
「ありがとうございました」
『いえ・・・』
主はやはり向精神薬について何も言われなかったことに安心したらしく、表情が少し緩んでいた。
後から調べたところ、主の飲んでいた薬は恐らく抗うつ剤であることがわかった。
しかし、用量が少なかったため今後の効き具合によっては増薬の可能性も高い。
抗うつ剤などは基本的に体が慣れるまでにも、効果が出るまでにも数週間かかる。
これからどの様になっていくのか、要観察であるとルカスは日記にメモを残した。
「ルカス様〜!あの主様、陰気臭くて嫌です〜」
そんなルカスにラムリが後ろから叫んだ。
「ラムリ君、主様は今ちょっとお辛い状況なんだよ。元気がないのは仕方がないんだ」
「え〜!?どうしてですか〜!?」
「そういう病気なんだよ」
「元気が出ない病気なんてあるんですか!?」
「うん、心の・・・というよりは脳の病気だけど、抑うつや睡眠障害が出たりするから、元気が出ないんだよ」
「ふ〜ん、そうなんですね〜?」
ラムリは少し納得できないような顔でそう返事をした。
「・・・病気、か」
ラムリは何かを考えるように呟いてベッドに横になってしまった。
MAKO
コメント
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第6話読みました!執事3人の個性がそれぞれ違って面白いですね。ナックの丁寧さとラムリのツンデレ感、ルカスのプロ意識がいいバランス。特に主様が抗うつ薬を飲んでる描写にルカスが触れないでいてくれたところ、そういう配慮がじんわり来ました。主様の不安そうな感じも伝わってきて、これからどう関係が変わっていくのか気になります!