この作品はいかがでしたか?
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私はマリアンヌの服を借り、化粧を施し、カツラを被った。
鏡には本物のマリアンヌと、彼女に変装した私の姿が映っている。
「この姿だったら、ルイスと街へ出掛けられるわね!」
私の両肩に手を置き、マリアンヌはそう言った。
ここまでそっくりになると、正体を見破れるものはそうそういない。
カツラが外れるなどの出来事が起こらなければ、街へ出掛けてもバレることはないだろう。
「はい。一度やったことがあるのに、うっかり忘れていました」
「いつものロザリーらしくないわね」
「……いつも悪知恵を働かせているわけではありませんから」
私はマリアンヌに変装するという手段があることを忘れていた。
確かに、いつもの私だったら、ルイスと共に街へ出掛けられる方法を考え出し、実行に移していただろう。
その考えに至らず、すぐに諦めてしまったのは私らしくない。
マリアンヌに指摘されて気づくとは、よほど今の私は余裕がないみたいだ。
私が冗談をいうと、マリアンヌはくすっと笑った。
「それにしても、私とロザリーってそっくりになるわよね。違いといったら、髪の色と肌の色くらい」
「そうですね……」
顔立ちが似ていて、カツラを被って互いのフリをしていたら大抵の大人を欺けることについて特に気にしていなかった。
そのおかげでトルメン大学校に潜入し、マリアンヌを進級させることが出来たのだから、結果的に良かったと思っている。
「ロザリーが王女様だと知って、判ったことがあるの」
「なんでしょう?」
「私とロザリーの顔が似ているのは、親戚だからではないかって」
「あっ」
私がアンドレウスの娘ということは、マリアンヌと遠縁なのである。
マリアンヌの母親がタッカード公爵家の人間で、メヘロディ王家と繋がりが深いからだ。
「お母さまはね、アンドレウス国王と従兄だったそうよ。だから、私たちは”はとこ”になるのかしら」
「はとこ……」
「顔立ちが似ているのも、きっと親戚だからよ」
家系図を辿ると、私とマリアンヌははとこになるのか。
私たちは姉妹のように付き合ってきたけれど、私は心の奥底で”貴族に拾われた子供”と思っていた。
私とマリアンヌには繋がりがあった。
「……初めて、メヘロディ王女になってよかったと感じました」
私は感じたことを口にする。
私の呟きに、マリアンヌは後ろからぎゅっと抱きしめた。
「ロザリー、私たちは姉妹じゃなくなったけど、繋がりがあって、私も嬉しいわ」
マリアンヌは私の耳元でそう囁いた。
☆
身支度を終えた私は、マリアンヌと共にルイスに会いに行く。
玄関で待っていたルイスは、マリアンヌに変装した私の登場し、腕を組んで感心していた。
「二人並ぶと、そっくりだな」
「そうでしょ? 私とロザリーははとこだから」
ルイスの呟きに、マリアンヌが彼に自慢をする。
親戚だから顔が似ているのだと理由が判り、マリアンヌは嬉しい気持ちでいっぱい。それを誰かに伝えたくて仕方がないようだ。
「これなら、一緒に出掛けられるでしょ?」
「そうだな」
マリアンヌの言葉にルイスは頷く。
私はマリアンヌから離れ、ルイスの元へ向かう。
「二人とも、行ってらっしゃい」
マリアンヌに見送られ、私とルイスはクラッセル邸を出た。
屋敷を出た後、私たちは御者に街へ出掛けたいと伝えた。
マリアンヌと私の顔をよく見ている御者でさえ、私の正体に気づかない。マリアンヌとルイスが出掛けるのだと思っている。
馬車の中に入り、御者が扉を閉めたところで私はマリアンヌのふりを止めた。
「街ではお前とどう接したらいいんだ?」
ふう、と息をついたところでルイスが御者に聞こえぬよう、小声で話しかけてきた。
「私とマリアンヌは街でも姿が知られているわ。だから、マリアンヌとして接してちょうだい」
「……そうか。一緒にデートできるのに、手も繋げないのか」
私の答えにルイスは落胆した。
共に街に出かけられるとはいえ、傍からマリアンヌとして見られる。彼女に婚約者がいなければ、ルイスといちゃついても問題なかっただろうが、彼女にはチャールズがいる。
マリアンヌとチャールズは婚約者であり、もうじき夫婦になる。
そんな立場の令嬢が、他の男性といちゃついていたら浮気と判断され、チャールズの耳に入りかねない。
「並んで街を歩けるだけでも、私は幸せよ」
私はマリアンヌの姿にならなければ、ルイスの隣を歩くことは出来なかった。
少しでもルイスの傍に居たい。
その願いが叶うのだから多少の制限がついても気にしなかった。
「アクセササリーを買うのだって、チャールズさまのプレゼントを選びに来ていて、ルイスが相談に乗ってくれているのだろうと周りは勝手に勘違いしてくれるだろうし」
「……そうだな」
「ルイスは……、嫌なの?」
ルイスの返事には間があった。
納得していないのはすぐに分かった。
変装して、友人だと偽ってまでしないと街へ出掛けられない。理由はルイスも理解している。でも、納得はしていない。
「嫌だよ。隣にいるのがロザリーなのに、マリアンヌとして接しないといけないなんて」
「……ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ。悪いのは俺だろ」
ルイスの言葉を聞いて、私の口からぽろっと謝罪の言葉が出た。
そして、ボロボロと涙が流れる。
私の様子を見たルイスはぎょっとした表情になる。
自分の一言で私が泣き出すとは思わなかったからだろう。
「ロザリー、泣かないでくれ」
「ルイス……」
私はルイスの胸に飛びついた。
ルイスは私を優しく受け止めてくれる。
私はルイスの胸の中で泣いた。
「どうして私は好きな人とデート出来ないの? どうして一年間我慢しないといけないの? 辛い、辛いよお」
私は溜め込んでいた苦しみをルイスにぶつけた。
「ロザリー、我慢させてごめんな。一年経ったら、我慢した分、いっぱいデートしような」
「……うん」
ルイスは私が泣き止むまで、ずっと語り掛けてくれた。
その話を聞き、段々と気持ちが落ち着いていった。ルイスの話はまるで、昔、お母さんが読み聞かせてくれた童話のように私の心を癒してくれた。
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