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ライブの余韻が、グラスを鳴らす音と笑い声の中に溶けていた。
都内のこぢんまりした居酒屋。
ミセスのメンバーとスタッフ数名が囲むテーブルの真ん中には、既に何本目か分からない瓶が転がっている。
「ははっ、やば、今日の“ダンスホール”すっごい決まってたね、涼ちゃん!」
「ほんと?よかった〜!でも、滉斗のギターもすごかった。ゾクッとしたよ」
涼架と滉斗が笑い合うのを、元貴はグラスを片手に、スタッフと談笑しながら少し距離を置いて眺めていた。
アルコールは一滴も飲んでいない。
運転のため――というのもあったけれど、それ以上に、どこか冷静でいたかった。
「ん〜……なんか、喉乾いたぁ〜」
滉斗がフラフラと立ち上がり、手酌でビールを注ぐ。
顔が赤く、明らかに飲みすぎている。
「おい滉斗、もうやめとけって。お前、弱いんだろ?」
「ん〜、だいじょーぶ、今日は……気分いいからっ」
陽気に笑ってはいたけれど、元貴には分かった。滉斗の目が少し潤んでいて、立っていてもふらついていることに。
「なぁ、そろそろ帰らない?もう終電近いよ」
涼架が声をかけると、滉斗は小さく首を振った。
「…俺……もう、無理…。帰れないかも……」
その一言で、元貴は静かに立ち上がった。
「滉斗、大丈夫?俺が送るから」
「えっ、でも……」
「俺、飲んでないし。気にすんな。立てる?」
「う、ん……ごめん、元貴……」
テーブルをあとにして、2人で外へ出る。
夜風が冷たくて、酔いの回った滉斗には少しきつそうだった。
車に乗せる時、肩を抱いた滉斗の体温が妙に熱くて、思わずその背を強く引き寄せた。
車内。助手席のシートベルトを締め、エンジンをかけると、滉斗がうわごとのように呟いた。
「元貴……水、飲みたい……」
「ん、分かった。ちょっとだけ待ってて」
高速道路へと入り、近くのPAへ滑り込む。
深夜の空気がひんやりしていて、自販機の明かりだけがぼんやりと照らしていた。
購入したペットボトルを片手に車へ戻ると、滉斗はぐったりともたれていた。
「ほら、買ってきたよ。飲める?」
「……ん……ありがと……」
手渡しても、滉斗の手は弱々しくて。
力なくボトルを持つその姿に、元貴はほんの少し考える。
「……じゃあ、こうするね」
そう言って、ふとペットボトルを傾けて自分の口に含み、助手席へ体を乗り出す。
唇が触れる瞬間、ふっと滉斗が目を開いた。
けれど抗うことはせず、むしろ静かにその口を開いた。
くちづけの形で、水が喉へ流れていく。
2人の間には、静寂しかなかった。
水の冷たさと、滉斗の体温。
混ざり合った感覚に、元貴の心は確かに揺れた。
to be continued…