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目の前を横切る輝く白髪。

その周りを髪飾りのように舞う鮮血。

耳をつんざく誰かの悲鳴。

アンサンブルする幼い子供の泣き声。


「………………敦、くん?」


呆然とする太宰の周りには、凶悪な程に蝉の声が満ちていた。












探偵社ではいつも国木田独歩の怒鳴り声が響いている。それは初夏の匂いを纏った今日も例外ではなく、今回はある探偵社員の入水自殺を咎めているようだ。


「何度言ったら分かるのだ太宰!1人で自殺するのならばまだしも、人様に迷惑がかかるようなやり方はするな!」

「あっはは、ひっどいな〜国木田くぅん。まあ確かに人に迷惑がかかるような自殺は私の信念に反しているからねぇ。次からは気をつけるよ〜。」

「そもそも日頃から自殺をするなと言っているだろう!?大体貴様はいつもいつも……」


またいつもの流れが始まった…、と溜息をつきながら書類を整理しているのは、同じく探偵社員の中島敦である。太宰が自殺をするのはいつものことで、いつの間にかそれを回収するのは敦か国木田の仕事となってしまった。はあ、と2度目の溜息をつきながら終わる気配のない書類整理がきりのいいところまで達すると、タイミング良くナオミがお茶を持ってきた。


「またあのお二人は喧嘩なさっているのですか?毎度毎度飽きないですわねぇ。」


と、呆れ顔だ。苦笑しながらお礼を返すと、敦は二人を止めに入った。


「国木田さん、太宰さん、いい加減仕事に戻らないと定時で帰れませんよ!」


腰に手を当て、頬を膨らませながらそういう敦に国木田と太宰は毒気が抜かれたらしく、言い争いをやめる。


「確かにそうだな…。このままでは俺の理想が崩れてしまうやもしれん。太宰も戻れ!」

「ちぇ〜。せっかく国木田くんで遊べると思ったのに。残念。」

「何か言ったか太宰???」

「なーんにも。それより、今日の仕事はなんだい?書類関係なら私は外回りに行こうと思うのだけれど。」

「そう言ってまたサボるつもりだろう…。まあいい、今日は敦と太宰で依頼人のところへ聞き取り調査に行ってこい。」

「要件は?」

「それが俺も何も聞いていなくてな…。なんでも、他人にバレるとまずい話だから依頼人の家で話したいそうだ。」

「……ふーん。重大な案件らしいね。よし、行こうか敦くん。」

「はい!」

「くれぐれも気をつけろよ。」


はーい、と気だるげな返事を返す太宰と一緒に敦は探偵事務所を出た。




結論から言えば。依頼人の話は特に大した話ではなく。太宰お得意の話術で淡々と何事もなく聞き取り調査は終わった。その後依頼人である老夫婦に見送られ、太宰と敦は帰路に着いた。


「真夜中に近所の裏路地で複数の足音と物音がする、ねぇ……。」

「ポートマフィアの仕業でしょうか…?」

「ポートマフィアなら住民に聞こえるほどの音を立てるような馬鹿な真似はしないさ。とはいえ、向こうの管轄であることは間違いないから国木田くんに報告だけして、あとはちっさい蛞蝓や芥川くんに任せようか。」

「そうですね!」


そんな他愛もない話をしながら歩くうちに、近くの公園のそばまで来ていた。夕陽に照らされて赫く染まる公園ではまだいくつか子供が遊ぶ影が見える。太宰と敦が公園の前を通り過ぎようとしたとき、目の前を何か丸いものが横切った。


そこからは一瞬だった。


ボールを追いかけて1人の子供が道路へ飛び出して。


たまたま通ろうとした大型トラックが急ブレーキをかけて。


それでも止まりきれなかったトラックがはね飛ばそうとした子供を、敦が突き飛ばして。


「……………敦、くん?」


夕陽を受けて輝く白髪や鮮血が舞い落ちる様は、まるで映画のワンシーンのように見えた。


じわり。


じわり、と。


広がっていくあでやかな赤の中に沈む純白の少年は、酷く淫靡で現世の者ではないように感じた。呆然と佇む太宰の耳が、誰かが通報したのだろう、段々と近づく救急車の音を拾う。


「…………ぁ、…あつしくん………そうだ、よさのじょい、与謝野女医のところにいけば…!」


大勢の人がざわざわと集まる中、太宰は敦に簡単な止血を施し、土気色の顔をした敦を抱えて探偵社へと急いだ。蝉の声が二人を嘲笑うかのようにけたたましく響いていた。

迷い虎は歌に誘われて

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