「五月蝿いぞ太宰!もっと静かに入ってこれんの…か……。………敦!?大丈夫か敦!?」
「国木田くん!!与謝野女医は!?」
「与謝野女医なら医務室にいるが…?どういうことだ太宰!?」
「説明は後で!!」
物凄い勢いで扉を開けた太宰に対し国木田が怒鳴るが、腕の中でぐったりとしている敦を見ると血相を変えて太宰に問いかける。しかし、止血をしても流れる血が止まる気配のない敦に焦りを感じた太宰は国木田の問いを受け流し、そのまま医務室の扉を蹴り開けた。
「……!?おやまあ、珍客だね。どうしたンだい?……まさか、それ敦かい?」
「与謝野女医、すぐに治療をお願いします!このままじゃ敦くんが…!」
焦る太宰を落ち着かせ、寝台に寝かせた敦を診ていた与謝野の瞳にも焦燥がよぎる。
「……これは、まずいねェ。すぐに治療を始めよう。ーー異能力、君死給事勿ーー」
敦の身体を異能力特有の青白い光が包む。外傷が完治した敦にひとまず胸を撫で下ろした太宰に対し、与謝野の顔は険しいままだ。
「太宰、少し話がある。悪いが、こっちに来てくれないかい?そっちの話も聞きたいしねェ。」
「………はい。」
しばらく敦を見つめていた太宰が腰を上げ、与謝野の正面に座る。
「先に何があったのか妾に話してもらおうか。」
「…実は、」
と、太宰は与謝野に敦が事故にあったことを伝えた。それを聞いた与謝野は眉間に皺を寄せたまま、
「…敦らしいといえば敦らしいねェ。まあ妾としてはもっと身体を大事にして欲しいンだが。」
と呟く。同感です、と力なく返す太宰に鋭い視線を投げた与謝野は重い口を開いた。
「ここからは大事な話だよ、太宰。」
それを聞いた太宰は与謝野を見つめ、続きを促した。
「妾が見たところ、敦は頭を強く打ち付けたみたいでね。なんらかの障害が残る可能性があるンだよ。さらに敦は血を流しすぎた。これも相まってその可能性がさらに上がっちまったのさ。」
「……障害、ですか。」
聡明な太宰は既にその可能性に思い至っていたのだろう。重々しく頷いた。
「一番なりやすいのが記憶障害だ。どの程度になるかは流石の妾でもわからないねェ。」
「…いえ、敦くんが生きてくれているだけでもよかったです。ありがとうございます、与謝野女医…。」
そう言って立ち上がり、深々と与謝野に頭を下げる太宰を与謝野は目を細めて見遣り、
「あンまり抱え込むンじゃないよ、太宰。」
と警告した。
「愛弟子なのはわかるけどねェ。敦のことを気にしすぎて逆に体調を崩してたら元も子もないンだよ。今回のことは仕方がなかった、と思うしかない。それでも気分のいい話じゃないがね。」
与謝野は続ける。
「今、敦には麻酔が効いてる。じきに目を覚ますさ。今夜はここは開けておこう。きちんと睡眠は取るンだよ。」
「ありがとう、ございます、与謝野女医。」
ひらひらと手を振りながら与謝野は医務室を出ていった。微かに聞こえる声から、探偵社員は全員与謝野さんに帰されたようだ。さりげない気遣いに太宰は感謝した。そのまま死んだように眠る敦の横の椅子に腰を下ろす。
「早く、目を覚ましておくれ…。もう一度、敦くんの笑顔が見たいのだよ…。」
そう言って太宰は敦の手を優しく握り締めた。
すっかり暗くなった医務室に時計の音だけがやけに大きく響く。太宰は動かない。
ぴくり、と。
敦の指が微かに動いた瞬間。がばりと太宰は身を起こした。そのまま息を殺して敦を見つめ続ける。
真っ白な睫毛に縁取られた綺麗な朝焼けの瞳がゆっくりと開き、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
身を起こした敦の瞳が太宰を捕らえた瞬間、敦は少女のように僅かに首を傾げてぽつりと問うた。
「………あなたは、だれですか?」
苦しげに顔を歪めた太宰を映す敦の瞳は、何処までも純粋無垢だった。
コメント
5件
やばい全然更新してない…!もうちょいお待ちくださーい(>_<)
はぁ〜…!!めっちゃ好きです!! 言葉選びとかもなんかこう、凄いです!!(語彙力が逃走) フォロー失礼します!🥰
清廉潔白とは 心が清くて私欲がなく、後ろ暗いことの全くないさま。