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でも、結局連絡先も知らないままで、この先の約束も実際は何も出来ていない今の現状・・・。
ただ隣に住んでいても、案外偶然に会えるワケでもないし、職場ではプロジェクトがなければ特に会えることもない。
少しずつ彼女に近づければ近づけるほど、オレの彼女への気持ちも当然大きくなっていくワケで。
そろそろ彼女との距離感が縮められたのを確信して、その夜オレは彼女の部屋を訪ねた。
改めて訪ねてるとか、その理由はあるとはいえ、わざわざそんなことをしているのが自分でも照れくさい。
オレが誰か一人にこだわるとか、そんなこと今まで一度もなかったのに。
でも、そんな気持ちも意味なく、中から彼女の返答はなし。
まだ、帰ってないのか・・・。
残業? ・・・にしては、ちょっと時間遅いけど。
一度自分の部屋に帰り、隣が気になりつつ、仕事の書類を確認する。
しばらくして、誰かの足音が外で聞こえる。
このチャンスを逃したくないオレは自分でヤバいなと思いつつ、玄関まで足を運ぶ。
すると、隣の鍵を開ける音が聞こえて、彼女が帰って来たことを確信。
それと同時に玄関のドアを開けて隣を覗いた。
「あっ、今帰り?」
たまたま偶然居合わせたかのように聞くオレ。
何がだよ。ずっと彼女の帰り待ってたくせに。
「あっ、うん・・」
「遅かったね」
「あっ、美咲んとこ寄ってたから・・」
「そっ。だから遅かったんだ。訪ねた時、まだ帰ってなかったから」
修さんの店か。
なら遅くても納得出来てホッとする。
「・・なんか用だった?」
「まぁ」
「どしたの・・?」
彼女がいきなり訪ねたオレに不思議そうに聞く。
「手料理」
「えっ?」
「風邪のお詫びの手料理作ってくれるって約束」
「あぁ・・うん」
「今週の日曜、お願いしていい?」
実際彼女が本気で約束してくれたのかはわからないけど。
でもオレは、このチャンスを逃したくないから。
「予定空いてる?」
「・・うん。大丈夫、だけど」
「よかった。じゃあそれで決まりね」
だけど彼女は抵抗することもなく、受け入れてくれた。
「わかった・・」
「あと、作ってほしいモノもう少し考えてもいい?」
「あっ、うん。それはいいけど・・」
「じゃあ決まったら連絡する」
「了解。・・じゃあね」
「あっ、でさ!」
だけど、彼女はそれですぐに部屋に入ろうとして、急いで声をかけて引き止める。
「え、何?」
「連絡先」
「連絡先?」
「聞いていい・・?」
これが出来ないとまた意味がない。
もうそろそろ聞いても大丈夫だよね?
「隣住んでんじゃん・・」
だけど、彼女は素っ気ない態度。
「いや、それはそうなんだけど・・。こうやってお互い時間合わなかったらずっと捕まらないし」
「あっ、そっか。そうだね・・」
でも説明すると彼女も納得してくれた。
「じゃあ・・・ハイ。これ私の連絡先」
「あっ。じゃあ登録し返すわ」
そして彼女が携帯の連絡先を差し出したのを登録して自分も返信し返す。
「なら、決まったらまた連絡待ってるね・・」
「了解。また連絡する」
「じゃあ、ね」
じゃあね、か。
あっさりした彼女の返事に少し残念がってる自分。
オレがこんな風に連絡先尋ねたりしても、特に表情も変えることない彼女。
元々彼女にとってオレはそんな対象じゃないとはわかっていたけど、でもまだ彼女の中で、そこまでオレの存在は大したことないような気がして若干へこむ。
だけど、確実に距離は近づいてるはず。
オレが彼女へ伝える言葉をどれも否定しなくなって、オレとちゃんと向き合おうとしてくれているのはなんとなくわかるから。
彼女と出会えた意味も、彼女とのこの今の距離も、どれも無駄なモノにはしたくないから。
でも、この手料理の約束も、連絡先の交換も出来たことは一歩前進。
それから彼女に作ってほしい手料理を一晩中考えて、彼女に初めてのメッセージを送る。
ホントは彼女がオレの為に作ってくれる料理なら、なんでも嬉しいのだけれど。
でも、彼女の作ったそれが食べたくて。
オレは『ハンバーグ』と『おやすみ』の二言だけを彼女に伝えた。
すると、彼女からも『了解』と『おやすみ』という二言だけのメッセージ。
ようやく彼女と送り合えたメッセージ。
初めて交わせたメッセージなのに、結局オレは彼女の気持ちがまだわからなくて、その二言しか送れなかった。
だけど、彼女からの”おやすみ”は、すげー破壊力で。
たった一言のその言葉で、こんなに幸せな気持ちになれるなんて初めて知った。
実際目の前にいるワケでもないし、この画面越しのただの文字だけど。
でも、彼女を想い続けていた時間があまりにも長すぎて、オレはそんな単純なやり取りでも、そんな言葉だけだとしても、嬉しすぎて。
オレだけに言ってくれるその言葉。
もしかしたら、彼女は特に深い意味もなくただの挨拶なだけかもしれないけれど。
元々めんどくさくてマメにメッセージ送るタイプじゃなかった方だから、こういうやり取りもあまり意味を感じなかった。
ただの連絡ツール。
誰とやり取りしたって特に感情なんて何も感じなかった。
なのに、彼女相手だとこんなに感じ方も変わってしまって、たった一言だけでも意味のあるモノに思える。
やっぱり彼女だけ。
オレをこんな特別な気持ちにさせてくれるのは。
そして、いざ彼女に手料理を食べさせてもらう約束を取りつけたのはいいモノの。
ホントはそれにかこつけて、彼女と何気ないやり取りでもいいからメッセージを送りたくて仕方なかったけど。
手料理もオレが流れで約束させたようなモノで、オレがこんなに楽しみにしているのと同じ気持ちでいてくれるのかはまだわからなくて、結局メッセージもその後に一回も送れずじまい。
普段からもっとそういうことを軽く送る様なタイプだったなら、こんな時もそこまで気にせず送れたかもしれないのに。
珍しくそんなオレが慣れないことをしようとして、どう送ろうか考え続けた挙句。
結局前日の夜に『適当にオレの家来て作ってくれたらいいから』とだけしか送れなかったダメなオレ。
だけど、きっと今までみたいな軽い付き合いの相手なら、そんな何気ないことも簡単に送っていたと思うけど。
やっぱり彼女だけは、未だにどう接していいのか、どうしたら嫌われずにいれるのか、どうしたら気になる存在になれるのか、いろいろ考えすぎて、結局は何も出来ない。
でも今のオレには二人で過ごす約束が確実にあるから。
そのチャンスだけは絶対無駄にはしない。