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――プルルル……。
呼び出し音が、やけに長く感じた。
繋がらないかもしれない。
そう思った、その瞬間。
「……もしもし」
繋がった。
少しだけ掠れた声。
「綾咲! 聞こえるか!」
「み、水奈戸くん!? なんで――」
動揺しているのが、はっきりとわかる。
でも、そんなことは関係ない。
今、言わなきゃいけない。
「お前に、伝えたいことがある」
言葉を探す。
でも、うまくまとまらない。
それでも――
口を止めるわけにはいかなかった。
「俺は、お前の気持ち全部わかるわけじゃない」
「わかった気になるつもりもない」
それでも。
「それでも――」
一度、息を吸う。
「お前が一人なのが嫌で、俺を使うなら、それでいい」
言葉が少しずつ形になる。
「利用したっていい。どう思われてもいい」
胸の奥が熱くなる。
「でも、俺は知ってる」
「お前が、いいやつだってこと」
そして――
「お前は、“綾咲真乃”だろ」
沈黙。電話の向こうからは、何も聞こえない。
それでも、構わず続けた。
「俺は、青春とか嫌いだ」
そんなもの、ただの作り話だと思っていた。
現実には存在しない、都合のいい幻想だと。
――でも。
「それでもいい」
自分でも驚くくらい、素直な言葉が出た。
「真乃は、俺の彼女だ」
はっきりと、言い切る。
「友達ができるまで、俺が付き合う」
少し笑う。
「だから、お前は一人じゃない」
言い終えた瞬間、顔が熱くなった。
(……何言ってんだ俺)
こんな恥ずかしいこと、人生で初めて言った。
しばらく、沈黙が続く。
やがて――
「……なにそれ」
小さな声が返ってきた。
「変な告白…」
その声は、少し震えていた。
泣いているのが、わかった。
でも――
同時に、笑っているのもわかった。
電話越しでも、不思議と伝わってきた。
◇
翌朝。
目を覚ますと、珍しく妹がまだ家にいた。
昨日の疲れが残っているのか、体が少し重い。
ぼんやりとドアの方を見ていると、廊下を歩いていた妹と目が合った。
そのまま、こちらに歩いてくる。
「早く寝癖直して。一緒に朝ごはん食べるよ」
「……あぁ、今行く」
自然なやり取りだった。
でも――
どこか、昨日までとは違っていた。
「昨日は、ありがとな」
そう言うと、妹は少しだけ目を細め笑った。
「うん。いいよ」
それだけで、十分だった。
◇
朝食を済ませ、急いで支度をする。
家を出ると、空気がいつもより少し軽く感じた。
学校に着くと、まだほとんど人はいない。
時計を見ると、いつもより三十分も早かった。
(さすがに早すぎたな)
苦笑しながら教室の扉を開ける。
――そして。
(……え?)
誰もいないはずの教室に、一人だけ座っている人影があった。
長い髪。
整った横顔。
見間違えるはずがない。
俺はそのまま、ゆっくりと近づく。
「あのー、綾咲さん? なんで俺の席に座ってるんですか」
少しだけ距離を取って聞く。
すると彼女は、こちらを見て――
「だめなの? 水奈戸」
いつものように、にっこりと笑った。
――でも。
その笑顔は、昨日までとは少し違って見えた。
「……いや、好きにしろ」
肩の力が抜ける。
自然と、そんな言葉が出た。
それから、他の生徒が来るまで。
俺たちは、何気ない会話をして過ごした。
特別なことは何もない。
ただ、普通の時間だった。
◇
俺は、主人公じゃない。
――そう思っていた。
でも。
今だけは。
こんな青春も、悪くないと思えた。