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現世くるり ◤ ペア画なう ◢
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「」せりふ ()こころ
桃 side .
いつからか、すちは仕事に行くのをやめた。
この深い雑木林に囲まれた古い平屋の別荘には、テレビもカレンダーもない。
外の世界が今、何月何日なのか、俺が高校を卒業する年齢になったのかどうかさえ、もうどうでもよかった。
朝起きて、すちが作ってくれたスープを二人でスプーンを分け合って飲み、昼はベッドの上で抱き合って微睡み、夜はどちらからともなく服を脱ぎ捨てて、お互いの存在だけを呼吸の理由にするように、深く、激しく身体を重ね合う。
外の世界をすべて切り捨てて手に入れた、二人だけの完璧な箱庭。
もう、新しく剪定するべき『ノイズ』すら、ここには届かない。
「ねえ、らんらん。髪、少し伸びたね。俺が切ってあげようか?」
「うん、お願い、すち」
リビングの椅子に座る俺の後ろにすちが立ち、ハサミの金属音が小気味よく響く。
鏡に映る俺たちの瞳は、どちらも等しく、ドロドロとした暗い光で濁っていた。
かつて、すちの狂気に怯えて人形のようになっていた俺はもういない。
今の俺は、すちのすべてを肯定し、すちを俺だけの怪物として飼い慣らす、甘い支配者。
「らんらん、本当に綺麗だ。俺、らんらんがいないと、生きる意味なんてどこにもないよ」
すちはハサミを置くと、愛おしさに耐えかねたように後ろから俺の首筋に顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。
「おれもだよ、すち。おれだって、すちがいない世界なんて、ただのからっぽのゴミ箱と一緒。……おれら、二人で一つだもんね」
俺がすちの手の甲に自分の手を重ねると、すちはうっとりと喉を鳴らした。
お互いが、お互いなしでは一秒も生きられない。
脳の髄まで、命の芯まで同化してしまった、俺ら。
これ以上ないほどに穏やかで、優しくて、狂った幸福が、この密閉された部屋を満たしていた。
けれど、そんな『楽園の賞味期限』が終わりに近づいていることを、二人は本能で悟っていた。
夜、ベッドの中で重なり合っているとき、遠くの林の向こうから、かすかに車の排気音が聞こえるようになった。
昼間、ふと窓の隙間から外を見れば、雑木林の入り口に、見覚えのない地味な車が停まっているのが見える。
警察の捜査の手が、ついにこの隠れ家にまで、すぐそこまで這い寄ってきているのだ。
「……らんらん」
俺の首に顔を埋めていたすちの身体が、かすかに強張る。
すちは、自分が捕まることを恐れているんじゃない。
警察という外のノイズによって、俺とのこの完璧なセカイが引き裂かれることを、死ぬほど怖がっているんだ。
俺はそんな愛おしい怪物の髪を優しく撫で、その耳元で、世界一甘い声を意識して囁いた。
「大丈夫だよ、すち。外のゴミどもに、おれらを捕まえさせたりしないから」
「らんらん……?」
顔を上げた恋人に、俺はあの日、すちの人生の引き金を引いた『最高の笑顔』を向けてみせた。
「おれらを引き離せる人間なんて、この世界には一人もいないよ。もし、あいつらがこのドアを壊して入ってきたら――その時は、ふたりでいっしょに、誰も来られないところへ行こうね」
心中。
その言葉を口にしなくても、すちには一瞬で伝わった。
すちの瞳に、これまでにないほどの激しい歓喜と、盲目的な崇拝の光がブワッと燃え上がる。
「うん……! うん、そうだね、らんらん……っ! 誰にもらんらんを渡さない、俺たちのセカイは、誰にも壊させない……っ」
すちは狂ったように俺の唇を奪い、涙を流しながら、俺の身体を壊すほどの力で強く、強く抱きしめてきた。
包囲網が狭まる足音。
それを、二人は破滅へと向かう美しいカウントダウンの始まりとして受け入れ、最後の楽園の時間を、より一層激しく、狂おしく貪り合い始めた。
【で】
episode 20 . fin_
コメント
5件
えやぶぁぁぁい…警察くんながちでしn(((( だいすこ
🌾失っ ふぁぁぁい☆(?) アハハ((((( よし、一旦落ち着きまぁす いやねぇ、もうねぇ、警察くんなやっっっって感じ☆() 翠っ桃ってぇってぇっ てぇてぇって…いいなぁ。
いやもう、この回ヤバすぎるわ……。二人だけの箱庭、どんどん閉じてく世界にハサミの音が切なく響く感じ、ほんと胸にくる。すちの狂気に飲まれたと思ったら今度は桃が支配者になってて、お互いがお互いを“飼い慣らす”関係性にゾクゾクした。ラスト「誰も来られないところへ行こう」の甘くて終わった笑顔に全部持っていかれた。この幸せの終わり方、美しすぎて泣きそう。