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勇者引退

4 - 第4話 春先の冬の訪れ

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2024年02月04日

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傷跡は随分治った。

しかし、流石に抉られたところは治らない。

紋様を描き、その傷はいかにもという見た目をした呪いだった。

人に見られるとどう思われるか分からないので隠してはいるが、かかっているのは本当に不死の呪いだけなのだろうか。

(騙された可能性もないと言い切れない…敵だし…)

「あーあ。」

アレンは1つ思ったことがある。

(暇、だな。)

呪いの発覚を恐れてこんな辺境の地に移り住んだはいいものの 、何も無さすぎて暇である。

(森の探索でもするか。)

アレンは剣と盾を持って、長いマントを羽織った。

というかそれ以外にアレンが持ってきたものは無い。


(随分いい森だな。)

魔獣がいると聞いたが、木の実が多い。多分…毒では無いはずだ。

アレンは木苺を見つけて頬張った。

(すっぱい )

「こんな事なら籠を持ってくればよかったな。」

手一杯に摘んだが、探索をしている内に食べ終わってしまった。

すると、アレンはヒヤリと何かがそばを通り過ぎるのを感じた。

「?」

雪のような冷たさ。

それに流れ、あの妖艶なあの甘さが混じる。

「ゔっ…?!」

(今の、まさか、魔女?)

傷が痛む。

足が震える。

あんな恐怖はとっくに薄れたと思っていたのだが、熱い針の痛みが、心臓を貫いた。

(怖い、怖い、怖いっ)

奥歯がカタカタ鳴って、アレンは膝から崩れ落ちた。

息を殺すと、その香りは過ぎ去ったように思えた。

(なん、で。なんで、今?ここに?)

もう寒くは無いはずなのに、背筋の冷えが収まらずアレンは暫く恐怖に座り込んでいた。



(もう夜か?)

暗いと思ったらいつの間にか日が落ちていたようだ。アレンは力の入らない足で無理やり立ち上がった。

「なん、だったんだ」

ゆっくりと家に戻る。

木苺のことなんてすっかり忘れていた。


ベッドに倒れ込むと、不思議な安心感が心を占めた。もう今日は何かをする気になれない。

(魔女が何のために俺の家に来るんだよ…)

今更呪いを解いてくれるのか。その後殺されるのか。

自分は、あの魔女刃を向けて…果たして戦えるだろうか。

「怖い、なんて魔王城でも感じなかったのに変な話だな。」

あの痛みは、もう感じたくは無いとただ願った。


「ここが、勇者の家。」

紫の瞳が、淡く見える窓からのあかりを眺めている。何に彼はあれ程怯えていたのかはよく分からないが、警戒されているのに違いは無い。

暫くは私がここに寄るのはやめた方がいいだろう。

(それにしても…)

あの金の瞳は、目を引く。

「魔王様が偵察を命じるくらいだからどんな人だろうと思ったら…」

灯りが消えた。

(どれだけ素晴らしい人も…人間ね、やっぱり。)

人間は朽ちる。

それも随分人生が短い。

魔王様が目をかけようと、死は決して逃れられるものでは無いのだ。

(死が近づくというのは…どういう感覚なんだろう。)

一日一日大切に過ごす彼らの気持ちはよく分からない。

というより理解ができない。

これが私達魔族と人間の違いなのだ。


「寝れないな。」

夜だというのに目が冴えている。

血が、巡る感覚がする。

(呪いって、厄介だな )

勇者は随分変わってしまった自分の体に難色を示した。

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