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傷跡は随分治った。
しかし、流石に抉られたところは治らない。
紋様を描き、その傷はいかにもという見た目をした呪いだった。
人に見られるとどう思われるか分からないので隠してはいるが、かかっているのは本当に不死の呪いだけなのだろうか。
(騙された可能性もないと言い切れない…敵だし…)
「あーあ。」
アレンは1つ思ったことがある。
(暇、だな。)
呪いの発覚を恐れてこんな辺境の地に移り住んだはいいものの 、何も無さすぎて暇である。
(森の探索でもするか。)
アレンは剣と盾を持って、長いマントを羽織った。
というかそれ以外にアレンが持ってきたものは無い。
(随分いい森だな。)
魔獣がいると聞いたが、木の実が多い。多分…毒では無いはずだ。
アレンは木苺を見つけて頬張った。
(すっぱい )
「こんな事なら籠を持ってくればよかったな。」
手一杯に摘んだが、探索をしている内に食べ終わってしまった。
すると、アレンはヒヤリと何かがそばを通り過ぎるのを感じた。
「?」
雪のような冷たさ。
それに流れ、あの妖艶なあの甘さが混じる。
「ゔっ…?!」
(今の、まさか、魔女?)
傷が痛む。
足が震える。
あんな恐怖はとっくに薄れたと思っていたのだが、熱い針の痛みが、心臓を貫いた。
(怖い、怖い、怖いっ)
奥歯がカタカタ鳴って、アレンは膝から崩れ落ちた。
息を殺すと、その香りは過ぎ去ったように思えた。
(なん、で。なんで、今?ここに?)
もう寒くは無いはずなのに、背筋の冷えが収まらずアレンは暫く恐怖に座り込んでいた。
(もう夜か?)
暗いと思ったらいつの間にか日が落ちていたようだ。アレンは力の入らない足で無理やり立ち上がった。
「なん、だったんだ」
ゆっくりと家に戻る。
木苺のことなんてすっかり忘れていた。
ベッドに倒れ込むと、不思議な安心感が心を占めた。もう今日は何かをする気になれない。
(魔女が何のために俺の家に来るんだよ…)
今更呪いを解いてくれるのか。その後殺されるのか。
自分は、あの魔女刃を向けて…果たして戦えるだろうか。
「怖い、なんて魔王城でも感じなかったのに変な話だな。」
あの痛みは、もう感じたくは無いとただ願った。
「ここが、勇者の家。」
紫の瞳が、淡く見える窓からのあかりを眺めている。何に彼はあれ程怯えていたのかはよく分からないが、警戒されているのに違いは無い。
暫くは私がここに寄るのはやめた方がいいだろう。
(それにしても…)
あの金の瞳は、目を引く。
「魔王様が偵察を命じるくらいだからどんな人だろうと思ったら…」
灯りが消えた。
(どれだけ素晴らしい人も…人間ね、やっぱり。)
人間は朽ちる。
それも随分人生が短い。
魔王様が目をかけようと、死は決して逃れられるものでは無いのだ。
(死が近づくというのは…どういう感覚なんだろう。)
一日一日大切に過ごす彼らの気持ちはよく分からない。
というより理解ができない。
これが私達魔族と人間の違いなのだ。
「寝れないな。」
夜だというのに目が冴えている。
血が、巡る感覚がする。
(呪いって、厄介だな )
勇者は随分変わってしまった自分の体に難色を示した。