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「なあパパラチア、もうすぐ俺達、跡形も無くなってしまうんだな。」
イエローがぽつりと口を開いた。
一万年の時がすぐそこまで近づいている。
思い返してみれば、ゆっくりなようで、早いような一万年間だった。
「ああ、俺達が居た痕跡の一つも残せないのは、さびしいよな」
返事を返してみる。
それから伸びをして、ふあ、と欠伸をする。
「長いこと眠っていたクセに、まだ眠いのか?」
ふ、と小馬鹿にするようにイエローは笑う。
「それは昔のことだろう。今も眠いものは眠いんだよ…」
再び、欠伸をしながら返事する。
イエローは、”悪い悪い”、と楽しそうに笑い続けた。
それからしばらくの静寂が来て、イエローは口を開いた。
「ルチルのとこ。……行かなくていいのか。きっと寂しがってるぞ?あいつ。」
「お前こそ。せっかく最後のパーティーを皆は楽しんでいるのに、俺なんかと話してていいのか?」
「それはお互い様だろ。…俺なんか、じゃなくて、俺はパパラチアと話したかったんだ。」
「…ふふ、なんだ、嬉しいこと言ってくれるなあ?お兄様〜?」
思いきり、わしゃわしゃとイエローの頭を撫でる。
こうしていると、なんだか昔に戻ったみたいだ。
「わ、やめろって、髪がぐしゃぐしゃになる!」
軽い悲鳴を上げながら、イエローは抵抗する。
それを続けているうち、なんだか可笑しくなって、笑いが込み上げてきた。
「はは…あははははは!!ははは、ひぃ、なんだ、子供みたいに、イエローが、あはは、」
俺がひぃひぃ笑い続けていれば、イエローもなんだかつられて笑っていた。
「お前のせいだろ、ふふ、あははは!」
二人で涙が出るほど笑った。こんなに笑ったのは何年ぶりだろう。ちょっとしたきっかけだったのに。
……笑いがやっと落ち着いた頃、ふとパーティーのことを思い出した。
「パーティー、いいのか?本当に。イエローが行くなら俺も行くけど。」
「いやあ、俺はいいよ。その…なんていうか、もう疲れたんだ。」
イエローは、はは、と苦笑いをした。
「まあ、色々なことがありすぎたしなあ…」
フォス。懐かしい名前が脳裏に浮かんだ。
どんな奴だったっけ。元気で、いつも頑張ってて、それから___
「…ラチア?パパラチア?」
我に返る。
俺はイエローに呼びかけられていたのに、気がついてなかったらしい。
「悪い。少し…考え事をな。」
「何を考えてたんだ?」
「…フォス、って居ただろ。あいつ、どんな奴だったかなって。あんまり思い出せなかったよ。」
「……それは俺もだな、パパラチア。なんか元気だったのが、一瞬にして変わってたな、っていうのは覚えてるんだけどな……、」
フォスについては、二人共同じぐらいの認識だったようだ。
今も鮮明にフォスのこと覚えてる奴、少ないんじゃないか。
そうなると、可哀想だよなあ、フォスも。と少し思った。
それから、イエローと部屋であれこれ談笑しているうち、かなりの時が経ったみたいだ。
周りはすっかり疲れ果てて、皆が眠りにつこうとしていた。
「…もうこんな時間だ。イエロー、寝ないのか?」
「俺は、もうちょっとだけ起きてるよ。パパラチアは。」
「俺もまだ起きてることにするよ。さっきまで眠かったのが嘘みたいだ。」
終わりが来るのは、明日。
その事実が迫ってくると、とても眠りにつくことなんか出来やしない。
すう、と息を吸って、部屋のベッドに寝転がる。
「そんなこと言って、本当は眠いのに無理してるんじゃないのか?」
そう言ってイエローが笑う。
いっちょ前にからかいやがって。また髪の毛ぐしゃぐしゃにしてやろうか…なんて考えていると、イエローはこちらをじっと見ていた。
瞳は少し潤んでいた。
「…どうした」
俺が聞くと、イエローは呟いた。
「………お前は、終わりが、こわくないのか。」
全く怖くないと言ったら嘘になる。
ただ、頭の片隅で、本当は何かの間違いなんじゃないかと思っている自分が居る。そのせいで終わりが来るなんてまだ実感しきっていない。
「俺は…怖いというより、信じきれてないんだ。だからまあ……終わりが来るほんの数分前になったら、怖くなるかもな。イエローはどうだ?」
「俺も…若干諦めてるからな。でもやっぱり怖いさ。だって、俺がいた証も、お前がいた証も、皆がいた証も、行動も、思考も、記憶も、ぜんぶ消えてなくなるんだろ。そう考えると、俺、おれ、は……」
イエローの目から、ぼろぼろと涙が溢れる。
ティッシュもハンカチも見当たらなかったので、あわてて自分の手でイエローの涙を拭った。
それから、そっと頬に触れてみる。
「ごめん、俺…やっぱり嫌なんだよ。でも、このままダラダラ生きていたって、もうほとんどの記憶は無くした。だから、終わりを受け入れるしか無いのはわかってる、わかってるんだ。だけど、怖いんだ、怖くて、怖くて……」
うわああ、とイエローは泣き崩れる。
とりあえず抱きしめて、それから宥めるように、先程とは違い優しく頭を撫でた。
「大丈夫だ、きっと、この世界よりずっと遠いところで会えるから。」
とにかく安心させるように、ゆっくりと言葉を選んで吐き出す。
「あ、会える…か……?ここが跡形も無くなって、全部消え失せても……」
「ああ、会えるさ。会えるから……」
そして、しばらく同じようなやり取りをしていると、安心したのかイエローは眠ってしまった。
起こさないようにベッドに横にさせてやると、自分も隣で寝転がった。
明日…明日か。全部無くなってしまうのは。
さびしいようで、悲しいようで、安心するようで……。
…昔読んだ本には、生物には前世と来世が存在すると書いてあった。
生物は、今世の罪の重さで転生先が決まる、と。
嗚呼、神様、来世があるならどうか、どうか、俺達には綺麗すぎるこの世界に、生まれ堕ちてきませんように。