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これは 何処かにある とある王国での御話_。
ある日、王家に産まれた可愛らしい女の子。
名は、ローズ・リリアキュール。
この娘は美しく育ち、結婚式では、きっと隣国の王子と並び、真っ白なウエディングドレスを着て微笑むのだろうと、誰もが思っていた。
そんな娘が産まれてから、16年が経った。
ある爽やかな朝。
バルコニーに繋がる大きな窓から降り注ぐ朝日に照らされ、私は目覚める。
コンコンコン_
自室のドアをノックする音。ちょうど私が目を覚ますタイミングでやってくるなんて、もしかして私、監視されているのかしら。
そう思うくらいの、完璧な執事。
「失礼したします。」
いつもと変わらない調子でそう言い、部屋に入ってくる彼は、声のトーンも、身なりも、振る舞いも、すべてが完璧である。
_流石、私の専属執事ね。
「おはようございます、ローズ様。今朝のご機嫌はいかがでしょう。」
彼が私の専属執事、レーゲル・リーフロアン。
この城で一番の、完璧な執事。
そして、この城に勤める全ての執事やメイド達の中で、一番のおじいさん。
「おはよう、リーフロアン。私は今日も元気よ。 」
「それは良かったです。本日は来客も無い予定ですので、のんびりとお過ごしください。何かありましたら、なんなりとお申し付けくださいませ。」
穏やかな朝の、毎日聞く言葉。それに私はこう返す。
「わかったわ。それじゃあ、もし良ければ、今日の服装を一緒に考えてくれないかしら?」
姫と白髭の執事が並んでクローゼットを開けることは、他国ではありえないだろう。姫だって、1人の年頃の少女なのだから。
「これはどうかしら?花の飾りが素敵でしょう?」
そう言い、ワンピースが掛かったハンガーを手に持ってみせる。
「そうですね、ローズ様によくお似合いかと。今日の気温なら、薄手のカーディガンを羽織るのが良いでしょう。こちらはいかがでしょうか。ワンピースの色合いに良く合うと思います。」
彼とは、もう16年の仲。私が覚えていない頃から、気がつけばいつも傍に居てくれた。
だから、男性だからって、恥ずかしがったり、嫌な気分がしたりなんて無い。
それが、私とリーフロアン。
2人で選んだ服に着替える。
ワンピースは薄い水色で、襟やスカートに小花の飾りが散りばめられ、白いレースで縁取られていて可愛らしい。胸元の白いリボンを結び、薔薇の花をモチーフにした小さな金色のブローチを付ける。
白い無地のカーディガンはシンプルだが、袖のさりげないフリルが上品。 これが私のお気に入りだと知っていたのかしら。流石、完璧な執事。
白いソックスを履き、ドアの向こうの彼に呼びかける。
「いいわよ、リーフロアン。」
ガチャリと、静かに音を立ててドアを開いた彼が、私を見て微笑んだ。
「やはり、よくお似合いですね。」
その言葉に微笑み返すと、私はドレッサーの椅子に腰掛ける。
クリップで前髪を留め、リーフロアンに化粧をしてもらう。
10歳の頃、お母様のように美しい女性になりたいと言ったあの日から、化粧をしてくれるようになった。
当時はほんの少しだったけれど、それでも嬉しかった。
それから、私の顔立ちが大人に近づいていくのに合わせて、始めは薄く、そこから少しずつ華やかに化粧を変えていき、お母様のように立派なレディになったら化粧の仕方を教えて貰うと約束をしている。
「ねえ、リーフロアン。初めてあなたにお化粧をして貰ったときよりも、私、お母様のようになれているかしら。」
「ええ、もちろんです。華やかなお化粧が似合うようになったのですから、素敵な女性になれていますよ。」
リーフロアンはドレッサーの収納に化粧道具を仕舞うと、別の収納からヘアブラシを取り出し、私の腰まである髪を優しく撫でた。
そして、慣れた手つきで、2つに分けた毛束を高い位置で結わえる。
「今日のお召し物には、こちらの髪飾りが似合うでしょう。」
そう言い、これもまた慣れた手つきで、私の髪に水色のリボンを飾る。
「ありがとう。いつか髪の結い方も、あなたに教わらなくちゃね。」
「その必要はございません。ローズ様のお傍に私が居ない日など、来ないのですから。」
どうして、そんなことが言えるのかしら。
いつも、私の言おうとしている事や考えている事、全部お見通しだったのに。
今日はそうじゃ無い。
私の傍に居ない日は来ない?
そんな事を思っている彼だもの、きっと私の言葉をすぐには受け入れてくれない。
私は椅子に座ったまま彼の方を向き、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「ねえ、リーフロアン。今日は絶対に、あなたに言おうとしていた事があるの。」
「なんでしょうか。」
「あなた、この仕事辞めなさい。」