TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

煌めくルビーに魅せられて

一覧ページ

「煌めくルビーに魅せられて」のメインビジュアル

煌めくルビーに魅せられて

14 - 煌めくルビーに魅せられて番外編 吸血鬼の執愛6

2024年07月27日

シェアするシェアする
報告する

***

俺に伴われて自宅に帰った瑞稀は「お邪魔します」と大きな声で言い、靴を揃えて中に入った。こんな他愛のないことだが、瑞稀の育ちの良さを覚える。


母ひとり子ひとりで、母親の苦労を垣間見ているから、迷惑をかけずにきちんとしなければと、最低限のマナーをしているのだろう。


「瑞稀、お風呂を沸かしておいた。俺はもう済んでるから、ゆっくり浸かるといい」


「ありがとうございます。あのこのタッパーを、冷蔵庫に入れておいてほしいです」


「タッパー?」


小ぶりだが持ってみると、それなりの重さのあるものだった。なにが入っているのだろうか。


「マサさんとの明日のデート、SAKURAパークに行きたいんです。そこでお昼ご飯として、それを持って行きたいなぁと思いまして、下味をつけた鶏肉を持って来ました。バイト中は、職場の冷蔵庫で保管していたので大丈夫ですよ」


意外な場所の指定に、思わず口を噤んでしまった。しかも明日のデートのことでテンションがあがっているのか、瑞稀の口数が多いことが地味に嬉しい。


「この間はマサさんに、美味しい朝ご飯をご馳走になっているので、今回は俺の得意料理の唐揚げを食べてほしいです!」


「そうか、それは楽しみだな……」


(SAKURAパークを管理している、運営会社課長の俺――サービスを提供しているキャストたちは、瑞稀連れでいる俺をどう見るだろうか)


「マサさん?」


「疲れただろう? お風呂、ゆっくりしてくるといい」


渡されたタッパーをさっさと冷蔵庫に入れ、複雑な心境を悟られないように、浴室に向けて瑞稀の細い背中をぐいぐい押した。


「瑞稀の泊まりがこれからあるだろうと考えて、いろいろ用意してみた。瑞稀の歯ブラシは緑色のこれで、パジャマはそこに置いてある」


あらかじめ準備していた物の説明をし、瑞稀から離れようとしたら、着ているシャツの裾を掴まれた。


「瑞稀、どうしたんだい?」


「あ、なんか用意周到というか、手馴れているみたいな」


「ふふっ、実は手馴れていないよ。長い時間を一緒に過ごしたら、吸血鬼だとバレてしまう恐れがあるせいで、こんなふうにお泊まりセットを買ったことがないんだ」


「……本当に?」


「ああ。瑞稀がはじめてだよ」


上目遣いで疑う瑞稀の顔がかわいくて、思わずこめかみにキスをした。


「マサさん、なにもしないって言ったのに、さっきから俺がドキドキすることばかりしてる」


「俺は瑞稀が傍にいるだけで、ずっとドキドキしてる」


瑞稀の利き手をとって、俺の胸に触れさせた。


「駐車場で瑞稀に逢った瞬間から、ずっとドキドキしてる」


「マサさん俺……」


「どうした?」


胸に触れている瑞稀の手が、戸惑う感じで引っ込み、背中に隠されてしまった。


「俺はこういうのに全然慣れてなくて、どうしていいかわからないんです。なにを言ったら、マサさんを傷つけずにすむのかなぁって」


傷つきやすい俺の心を知ってるみたいな、瑞稀の気遣いに胸が熱くなる。


「簡単だよ、ただひとこと『嬉しい』って言えばいいだけ」


「嬉しい?」


何度も目を瞬かせて、不思議そうな表情を見せる瑞稀。今日はいろんな顔が見ることのできる、貴重な日なのかもしれない。


「瑞稀は俺に触れて、ドキドキが伝わっただろう?」


「はい。てのひらにマサさんの鼓動を感じて、ドキドキがうつっちゃいました」


「イヤな気分になった?」


短い言葉で訊ねた俺に、瑞稀は無言で首を横に振る。


「瑞稀が感じる気持ちはきっと、俺も同じだと思う。以心伝心だね」


「だったら、俺が今してほしいことがわかりますか?」


普段の声よりもちょっとだけ緊張したように、俺の耳に聞こえた。


「瑞稀にそれをしたら、俺は間違いなく約束を破ることになるが、それでもいいのかい?」


さらりと告げたら、目の前にある顔が一瞬で朱に染まった。


「まっマサさんのエッチ! 俺は別に変なことなんて、全然考えてないのに!」


「ここは以心伝心ならずだったのか、残念だな」


「もうお風呂に入りますので、出て行ってくださいっ」


耳まで赤くなった瑞稀は、俺の背中を無理やり押して、脱衣場から追い出した。


「はてさて。瑞稀は、なにをしてほしかったのだろうか」


ひょいと肩を竦めてキッチンに移動。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、喉を潤す。瑞稀がお風呂から出てくるまでに、なにをしてほしかったのかを、じっくりと考えたのだった。

煌めくルビーに魅せられて

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚