TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

  胸のあたりのズシっとした重さに気がつきまだ眠たい目をゆっくりと開ける。

 いつもと違う景色に一瞬焦ったがすぐに思い出した。昨夜は松田くんの家に泊まった事を。

 胸のあたりの重さは松田くんの腕がまるで逃がさないと言わんばかりにガッチリと私をホールドしていて動けない。



 チラッと松田くんを見るとまだぐっすりと眠っていた。

 綺麗な顔だな……といつまでも見ていられる。

 寝顔はなんだか普段よりあどけなく感じ、暫く眺めていると「んんっ」と松田くんが寝返りをするのに身体を動かし、腕から解放されたのですきを見て起き上がった。


 

「おはようございます」



「っふぇ!? あ、おはよう、起きたのね」



「今起きました、本当は真紀より早く起きて寝顔を見てるつもりだったのに」



「やめてよっ、寝起きは髪の毛もボサボサでヤバいんだから!」



 もしかしてヨダレ垂らしてたかも! と焦り顔を松田くんから逸らし口元を触ってみるがざらついてはいない。多分大丈夫かな……? 



「洗面所に行ってくるわ、借りるわね」



「ん、じゃあ俺はリビングに行って誠を起こして朝ごはんの準備しておきますね、パンでいいですか?」



「うん、松田くんの作るものはなんでも好きよ」


「……朝から幸せすぎて怖いくらい」



 本当松田くんの言う通りで幸せすぎて怖いくらいだ。

もしかしたらこの幸せは絶頂期でこれからズドーンと何かが起こり最悪の展開になっていくのかもしれないと思ってしまう。そんな事は少女漫画でしかあり得ないだろうと思いつつも少し不安になってしまう。



 洗面所で顔を洗い身だしなみを整えていると「おい、誠起きろ!」と大きな声で誠を起こしている松田くんの声が聞こえた。思わず笑みが溢れてしまう。

 リビングに戻ると既に誠は起きていて布団もしっかりと畳まれていた。



 チンっとトースターの音がし、パンが焼けた事を知らせる。



「……誠さん、おはよう御座います」



「あー、おはよ」



 誠はやはり、なんとなくだが松田くんに対する態度と私に対する態度は違うように感じる。何というか……やっぱり一番最初に見た時のあの敵意の目は見間違いじゃなかったのかもしれない。



「できたぞ~」



 パンの香ばしい匂いと共に松田くんが三人分の朝食をローテーブルに並べる。

 こんがり焼いた食パンにたっぷりのバター、目玉焼きには焼いたベーコンとサラダ付き。ご丁寧に飲み物に野菜ジュースまで用意されている。

 三人でローテーブルを囲い「頂きます」と手を合わせ食べ始めた。



「ねぇ、真紀さんは今日暇なの?」



「えっ、わ、私?」



 急に誠に話しかけられて驚きを隠せなかった。だってついさっきまで敵意を向けられていたと思っていたから。



「えっ、ま、まぁ日曜日で仕事も休みだけど……」



「ふーん、じゃあ今日は私の買い物に付き合ってくれない? 女同士で買い物したかったのよ~!」



「は!? 二人きりとかダメに決まってんだろ! 真紀は今日も俺と一緒にいるんだから」



 あーだこーだと二人の口論が始まり、終わる気配が感じ取れない。



「あー、じゃあもう三人で行きましょうよ!」



「え……真紀本気で言ってます?」



「私も誠さんと仲良くなりたいし、ね? いいでしょ?」



 明らかに嫌だと顔に出ている松田くんだが、じゃあ三人でなら、と渋々OKを出してくれた。



 三人とも身支度が済んだ頃には午前十時を回っていた。松田くんの車に乗り込み一番近いショッピングモールに向かう事に、ただ気になるのは助手席は私じゃなくて真っ先に誠が乗ってしまった事。

 やっぱり……そう言うことなのかな? と後部座席から仲良さそうな二人の背中を見てモヤモヤしていた。

 また一度は溢れた黒い何かが一滴、一滴と溜まっていく。




 車を走らせ三十分しない所にある大型ショッピングモール。立体駐車場に車を駐め三人でモール内に入った。



「買い物っても誠は何を買いに来たんだ?」



「え~そりゃ新しい服とか、下着とかに決まってるじゃないっ!」



 テンション高めに誠が返答し、やはり見た目は完璧に可愛い女子だ。



「せっかく真紀さんがいるんだもん女同士で洋服とか見たくて~、ね? 真紀さん!」



「え、えぇ、そうね、あんまり友達とかと洋服見たりしないから新鮮だわ」



「じゃあ、俺が真紀に似合う服を選びますよ」



「えー大雅が選ぶより絶対私が選んだ方が可愛いから! ね、後で二人で下着見に行きましょう?」



「おい! お前は要らないだろ!」



「え、私いつもつけてるわよ? だから胸の膨らみがあるでしょうよ!」



 二人の話がどんどん飛んでいくので、あはは、と笑いが止まらなくなる。

 なんだかんだ言い争いながらレディース物の服屋に入り色んな服を見て回った。

 誠は見た目は完璧に女性だ。昨日のお風呂上がりはいつもクルクルに巻いてある髪がストレートになっていて、化粧もしていない状態だと完全に見た目はロン毛の男の人だった。

 けれどレディースの服を着てメイクをしっかりと施すと女子顔負けの可愛い女の子に大変身する。

 この短時間一緒にいるだけで誠は可愛くて素直な人なんだと分かった気がする。



 メンズ服も見て回ったが、本当にこんなイケメンが自分の彼氏だなんて信じられないと思えるくらいすれ違う度に女の人達が松田くんを見て振り返っていた。



「ねぇ、そろそろ下着見に行きたいから大雅はどっかその辺のカフェで待っててよ」



「は!? お前本気で真紀と下着見に行こうとしてんのか!? 絶対ダメ!」



「えー、真紀さんいいよね? 私見た目も心も女だからっ!」



 お願いっ、と言われんばかりにキラキラとした目で見つめられてしまってはいいよ、としか言えない。



「あぁ、うん、私は大丈夫よ」



「ほらねー! じゃあ男性禁止なんで大雅はどっか行ってて!」



「え……本当に大丈夫ですか?」



 心配そうに眉間に皺を寄せ私に問いかける松田くんに「大丈夫よ」と返事をし誠と二人で下着を見に行く事にした。

 松田くんは少ししょんぼりした背中で一人カフェに向かって歩いて行った。



 ショッピングモールの二階にあるランジェリーショップは可愛い物からセクシーな物まで揃っていて見るだけでちょっと楽しい。



「ねぇ、真紀さんは普段どんなのしてるの~?」



 心は女の子と分かっていてもなんとも返しずらい質問に「シンプルなやつばっかりよ」と模範解答になるような返事をした。



「ふーん、で、もう大雅とはヤッたんでしょ?」



「えぇ!? ななななんでっ」



 下着を見ながら平然と聞いてくる誠に驚きと動揺が隠せない。



「そりゃ付き合ってればヤるのは当然だし、てか大雅って手が早いでしょ?」



「え……」



 急な男の声に身体が凍りついた。

 手が早いってどういう事?




 クスクスと笑う誠から悪意を感じる。



「いつもそうだもん、ヤッて飽きたら別れて、真紀さんもせいぜい飽きられないように派手な下着でも選んだほうがいいんじゃない?」



「あ……そうだね、うん、そうしようかな!」



 グサッと心臓をなにか鋭利な物でひとつきされたような衝撃が身体を走る。目の前がフッと急に暗くなりスーッと身体から力が抜けていった。

 立っているので精一杯だが、必死で力を振り絞り全く気にしてない! 大丈夫! と自分に言い聞かせた。



 これがいいんじゃない? とシンプルな濃いブルーの下着を誠に勧められたがなんとなく誠の選んだ下着は嫌で、いつも選ばないような黒色でパンツは横部分が紐パンになっている少し派手目の下着を買った。



 これが私のせめてもの誠への反抗だったのかもしれない。




 買い物を済ませ、カフェで待っている松田くんの元に戻ると見知らぬ女性の二人組に話しかけられていた。

 なんとなく聞こえてくる話し声は「一緒に遊びませんか」と言ってるような気がした。



 つまり松田くんは逆ナンされている。



「ちょっとぉ、この女誰よ?」



 すかさず誠がいつもよりもさらにワントーン高い声で松田くんと女性の間にグイッと割り込み、ジロリと品定めするかのように女性たちをみて、キッと睨むと女性達はヤバっと言いながら足早に帰って行った。



(凄いな……私なんかより凄い彼女っぽい……)



 いやいや、負けちゃダメだ!



「松田くんお待たせっ」



「真紀! 何か気に入った物買えました?」



「すっごーくセクシーなランジェリーかったよねぇ~」



「ちょっと! 言っちゃダメよ!」



 「いいじゃーん」と誠は全く悪気のなさそうなので怒る気にはならない。それでも私はさっきの言葉が頭から離れず作り笑いをする事しか出来なかった。


 

「じゃあ次泊まる時につけて来てくださいね」



 誠に聞こえないように私の耳元でボソッと呟く。

吐息が耳に触れゾクリと背筋が震える。

 次があると分かると嬉しくて涙が浮き出そうになるのをグッと我慢した。

 自分で思っている以上にさっきの誠の言葉が私自身にダメージを与えているのかもしれない。



 一階にあるフードコートで三人とも昼食を済ませ買い物も済んだので帰宅する事にした。

 誠の家は松田くんのアパートから車で十分ほど進んだ所にあるアパートらしく、先に誠をアパートまで送る事にした。

 まだ帰りたくないと子供のように駄々をこねていたが、松田くんはまったく聞く耳持たず誠をアパートの前に下ろしてすぐに車を発進させた。



 後ろを振り向くと物凄く怖い顔で車を見送る誠の姿が見えた。相当怒っていたのだろう。



「誠さんすごい怒ってたけど良かったの?」



「いーんですよ、俺が真紀とイチャイチャできる時間がどんどんなくなっちゃうじゃないですか」



「いっ、イチャイチャって!」



「当たり前でしょ? 俺はいつだって真紀にくっついていたいし、抱きたい」



「なっ……」



「ずっと好きだったんですから、浮かれるのは当たり前でしょう?」



 松田くんが本当に入社した時から私の事を好きでいてくれているなら確かに二ヶ月くらい? 経っているけれど二ヶ月ってずっと好きって言えるレベルなのだろうか。もっと何年も好きでしたってのがずっとなんじゃないのかな? と思ってしまった私は捻くれているのかもしれない。

 


「まだ夜まで時間あるし、俺の家に戻ってもいいですか?」



「あ、そうね、大丈夫よ」



「じゃあ二人でまたまったりデートしましょうね」



「そうね……」



 また二人きりになると思うと緊張が身体を強張らせる。

 ふと頭の中に昨日の甘くて蕩けてしまいそうな二人の出来事がフラッシュバックし、ドキンと大きく心臓が反応する。



(まさか松田くんまたエッチする気なのかしら……)



 アパートに着き松田くんに手を引かれながら部屋に入る。時間を確認するとまだ午後二時。夜までまだまだ時間はある。



「昨日真紀が借りたラブストーリーの映画見てないから見ちゃいましょうか」



「そ、そうね」



 ソファーに二人並んで座り映画を見る。

 隣に座って触れる肩も今では触れている方が安心でき気持ちがいい。

 映画が終わるまでの約二時間、二人の肩が離れる事は一瞬たりとも無かった。



(嫌われてしまったのかしら……私何かしちゃったのかな)



ここは会社なので求愛禁止です〜素直になれないアラサーなのに、年下イケメンに溺愛されてます〜

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

0

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚