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「それなら、俺が行く」
3年前、俺は貴女にそう言ったよね。
貴女は泣き笑いしながら、「クリスなら、大歓迎よ」と言ってくれた。
社交辞令でも、そう俺に言ったことを覚えているかな?
あの頃とは違い、わざと表情を見えないようにしていた長かった前髪も切った。
伊達メガネもしていない。
もう、俺にそんなものは必要ない。
そう気づかせてくれたのはシャンディ、貴女だったんだよ。
貴女は俺の外見がすっかり変わったから、あの「同士」だったクリスだと少しもわかっていないだろ。
ようやくシャンディの元に来ることができたのに。
でも、いまはそれで良いんだ。
これから、シャンディに好きになってもらうために、貴女の愛を掴み取るために俺は今度は、ひとり奮闘するから。
だから、第3殿下のクリスである必要はどこにもない。
隣国マッキノンに「留学」という名の人質交換で行ってから3年。
この3年間を人質として、無駄に過ごしていた訳ではない。
もちろん、戦争は起きなかった。
隣国マッキノンでは緩くではあったが監視生活で、それでもマッキノンの最高学府で大陸の歴史を学び、人脈作りにも私なりに励んだ。
その結果。
私は隣国マッキノンの皇太子カーディナルと歴史好きが高じて、意気投合した。
いまは大事な友人のひとりだ。
そんな彼がまさかの提案をしてきた。
マッキノン王が我が国に戦争に出征したら、その隙にカーディナルがクーデターを起こし、政権を取る。
貴族達は度重なる戦争に辟易していたらしいので、大方がカーディナルに極秘で賛成をしてくれているらしい。
同意書も揃えたとのこと。
そして、クーデターで政権を取った際には、我が国ニコラシカと平和条約を締結し、ずっと欲しかった鉱山については、鉱山よりもその交易ルート開発で産業発展を考えたいと語った。
政権を取りたいカーディナルと平和条約の締結と交易の拡大が期待できる我が国ニコラシカ、それはお互いの思惑が一致した瞬間でもあった。
「戦争は繰り返させてはならない」
お互い、それを合言葉に作戦を決行することにした。
マッキノン国王、彼の父は我が国の鉱山欲しさに何度も戦争を仕掛けいるが、実際は戦争に取り憑かれた戦闘狂らしい。
確かに謁見した時もそれが見てとれた。
隣国マッキノンは度重なる戦争で人も経済も疲弊している。
皇太子のカーディナルは度重なる戦争で疲弊し荒れている国を立て直し、国民の生活基盤を中心に整えたいらしい。
我が国ニコラシカは、ガフ辺境伯がたゆまぬ努力で国境を守り、そしてこの辺境伯領地民が彼を支え、素晴らしい防衛線を築いてくれている。
シャンディも普通なら令嬢としての生活があったのに、戦争のために令嬢とは程遠い生活を送っている。
隣国マッキノンとの戦争がなくなり、平和条約を締結できれば、シャンディは戦争のことなど考えず、普通に令嬢としての平穏な生活を送れる。
我が国の平和、云々よりもシャンディが幸せに暮らせること。
俺にはそれが1番大事だ。
そして、その隣に俺がいたい。
作戦を実行するのに、カーディナルの手引きでマッキノンを脱出し、ガフ領に無事に入れた。
人質が逃げ出せば、必ず戦争が起きる。
作戦はいよいよ始まったのだ。
そんな時だった。
突然、シャンディはまた私の前に現れた。
彫刻のような綺麗な裸体。
月明かりを一身に浴び、泉で水浴びをするシャンディは月の女神、そのものだった。
私は息をするのも忘れ見入ってしまった。
シャンディと分かれば居ても立っても居られない。
会いたかったシャンディが目の前にいる。
私はわざと姿を見せた。
布一枚を身体に巻き、剣を握り締め、私を「魔王」と呼ぶ彼女は凛として、やっぱり月の女神だった。
貴女に馬に乗せてもらった時は何度も何度も後ろから抱きしめたくて、理性を保つのが大変だった。
貴女の髪に顔を埋め、後ろから抱きしめたかった。
この3年間、貴女を思わなかった日はない。
だから、ひとつ屋根の下で暮らせることをうれしく思う。
ガフ辺境伯やご夫人、それに騎士団は私と隣国マッキノンの皇太子カーディナルの作戦にも、個人的なシャンディ攻略作戦にも協力をしてくれるらしい。
シャンディが次の婚約をしてしまう前に、なんとしても愛を掴まなければ。