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さぁ、変身の時間だ。私は覚束無い片手で魔法のステッキを握り、“それ”の前に向ける。
やらなくちゃ、私が。私がやらなくちゃ、誰がやるんだ。だって敵はもう目の前なんだ。
ゆらゆらと倒れ込むように縋ったその目の隣には友達。
人生は苦であり、苦は煩悩。愛情による固執な執着を滅し、苦を根本から無くさなければならない。
苦の滅却を達成するためには、人生において正しい行いをしなければならない。
…という仏教においての四諦と呼ばれる考え。私の今の状況は正に執着に汚れ、苦であり、また正しい行いであると言えるだろう。
だが、そう簡単に友達を諦められるわけが無い。だってあの時、一緒に夢を誓ったじゃないか。
私と一緒に魔法少女になって、みんなで平和に暮らそうって。そう語ったじゃないか。
周りから賞賛、批判、不満の声が聞こえる気がする。耳を澄ませばそこからでさえ『居てもたってもいられず、出来もしないくせに勇気を振り絞ったのはお前だろうが』と聞こえてくる気さえした。
それでも、構わない。それでもいい。いや、寧ろそれがいい。だって、私達は無敵なんだから。
怖いものなんて、ないんだから。こんなときこそ、君がいつも自慢げに話してくれた得意の技を見せてもらうべきだと思うんだ。いつも言っていた、あの必殺技。
額に汗を滲ませ、それに一発をお見舞すると、周りからはさっきと一変歓声が聞こえる。
『みんなで応援しましょう!さぁ、頑張って!みんなのヒーロー!!』
そう言って応援をされるが、私の目には輝きは残っていなかった。…私“達”は、無敵なんだよね?
____ねぇ、嘘じゃないよね?
その時の空はまるで君の瞳のように。宝石のように、明るかった。その日の街が、1番美しかった。
あの時も君は、精一杯生きることに対しての喜びを噛み締めるように燥ぎ、太陽なんて届かないものまで捕まえようとした。…その空が明日も、いつまでも続くことを微塵も疑わず、『幸せ』という虚像で塗り固められた顔を見つめていた。
だから。だから、せめて私は終わりまでずうっと笑っていよう、と。
君を抱き上げ、魔法のステッキを。その、最期の明るすぎた空に掲げたのでした。
____得意の技を見せてやるよ。それさえ。それさえあれば、今日だってきっと生き延びれる。
その技なら、こんな薄汚れた醜く汚い世界一瞬で壊してしまえるし。
その後で、百つに契れてしまった君と夢みたいな幸せな生活を送ろう。
そうすれば、きっと朝君が起きた頃には温かい美味しいコーヒーを入れてあげるさ。
…だから、それまで。どうかそれまで、幸せに眠って、この闘いの終わりを待っていてはくれないだろうか