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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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濃紺の空に赤みがかった満月が浮かぶ夜。

ラングロワ帝国の皇宮では、盛大な夜会が行われていた。


豪奢なシャンデリアの灯りの下で、麗しい美貌の男女が優雅にダンスを踊っている。


「イネス。そなたは本当に女神のような美しさだな」

「もったいないお言葉です、皇帝陛下」


イネスと呼ばれた令嬢は恥じらうように瞳を伏せ、口もとに美しい弧を描く。


(皇帝クロヴィス──。あなたが奪った命の代償を必ず支払わせてあげるわ)


その胸に、憎き皇帝への復讐を誓いながら。




◇◇◇




一点の光さえない暗闇の中。

ジュリエットは、あの数日間の出来事を何度も思い出していた。


いや、正確に言えば、思い出したくもないのに脳裏に焼きついて離れない光景にさいなまれ続けていた。



皇宮で開かれたガーデンパーティーに突如現れた魔物たち。


来賓客を守ろうとして殺されてしまった辺境伯。


夫の棺の前で眠るように意識を失う辺境伯夫人。


そして、無表情でジュリエットの首を掴む皇帝──。



そんなむごい記憶が繰り返し目の前に浮かび、その度にジュリエットは強い後悔の念に襲われた。


(エドガール様、ミレイユ様、お救いできなくて申し訳ございません……。お二人をお救いできずに死んだわたしは、きっと地獄に落ちたのでしょう……)


何もできなかった自分が情けない。

いくら後悔してもし足りない。


──もしあの日をやり直せたら、必ずお二人を助けるのに。


創生の女神に何度も、何百回も願いを捧げたが、時間が巻き戻ることはなかった。


地獄に落ちた者の願いは聞き届けてもらえないのかもしれない。


(……ならば、冥府の神よ。もしいらっしゃるなら、わたしの魂を地上に戻してください。少しの間で構いません。あの男に復讐する機会をお与えください──)


ジュリエットが心から強く願ったとき、突然、暗闇に白い光が差し込んできた。


光は次第に明るく広がり、ジュリエットの意識を包み込む。


(この光は何? 熱くて、痛い……!)





「…………」


引き裂かれるような痛みが引いたあと、ジュリエットは恐る恐る瞼を開けて、驚愕した。


「え……どうして……?」


まず、瞼を開けられたことがおかしい。

ジュリエットは皇帝に殺され、魂だけの存在となっていたはずなのに。


視線を動かすと、胴体と、胸の上で組まれた両手が見えた。

それに、固くて平らな場所に横たわっている感触もする。


「……わたし、生き返ったの……?」


目が見えるし、口もきける。手足を動かして起き上がることもできる。


もしや、冥府の神が願いを叶えてくれたのだろうか。


「ああ、冥府の神様……ありがとうございます」


ジュリエットが神に感謝の言葉を捧げる。

しかし、その直後、低い男性の声が聞こえてきて、ジュリエットはびくりと肩を跳ねさせた。


「やっと目覚めたか、ジュリエット・エベール」

「……っ、あなたは……!」


声のしたほうを振り向くと、艶やかな黒髪の青年が部屋の入り口で腕を組み、その深い海のような蒼い瞳をまっすぐジュリエットに向けていた。


ジュリエットは青年の瞳から目を逸らすと、頭を低く下げてお辞儀する。


「……ご無沙汰しております、アルベリク様」


青年はジュリエットの主人の息子である、辺境伯令息アルベリク・オリヴィエその人だった。


(アルベリク様がいらっしゃる……ということは、ここはオリヴィエ家のお屋敷……? 一体何がどうなっているの?)


状況が掴めずに戸惑っていると、アルベリクがジュリエットの顎に手を添えて上向かせた。

アルベリクの蒼い瞳と再び目が合う。


「ふむ、上手くいったようだな」


(うまくいった? 何のこと?)


ジュリエットが眉をひそめると、アルベリクはわずかに口角を上げた。


「君は冥府の神が生き返らせてくれたと思ったようだが、それは違う」

「え……? それはどういう──」


ジュリエットの問いかけに被せるようにして、アルベリクが告げた。


「俺が君をよみがえらせたんだ」



復讐の人形に恋は許されますか?

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