テラーノベル
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さすがに初日から喧嘩をするのは頂けない、と心底思った楡井は一先ず話を聞いてくれそうな蘇芳に声を掛けようとした。
「す、蘇芳さんーー『あーあーあいうえおあいうえおあいうーー
んーと、どこのスイッチ押せばいいの?…
えー!!もう入ってんの?!言ってよもー』
『言ったろ!!』
桜と杉下が喧嘩を再開しようとしたーー次の瞬間、スピーカーから能天気さを滲ませた声がノイズと共に響いた。
「…!!」
…あれ?杉下さん、すっごいキラキラした眼でどこ見てるんだ??…って鼻血出てるし!
「…んだよ、イイトコだったのに…」
うわぁ、遥さんすごいアンニュイな感じ出てるせいで…い、色気が…
悔しさが十分分かる表情。
よっぽど杉下さんとの喧嘩の続きやりたかったんすね…
そんなに遥さんにとって喧嘩って楽しいんすね…さすがにケガばっかしないで欲しいんすけど。まぁ遥さんが怪我してるのまだ一回も見たことないですけど…
楡井自身気付いていないが、側から見ればまるでヤンチャな息子を心配しつつ見守る母親である。
『諸君!!入学おめでとーう!!』
キィイイン
一瞬とんでもない声音がノイズと共に学校中に、否、下手したら外にまで響いていたかもしれない。
そんなバカデカい声で脳天気さを滲ませた歓迎をされれば、クラスは当然唖然とするもののほんの数秒で姿勢を正していた--桜以外。
『バッカ声デケ-よ普通でいいんだよ普通で!!』
『ええん?!だって最初の挨拶だし…』
『ただでさえ地声がデケ-のに学校の外からも苦情が来るぞ?!』
な、なんか言い合いっこしてる…き、貴重な資料になるっす!!やっぱ四天王の方々は「あの」梅宮一ともこうやって口喧嘩とか普通にやってるんすね、、、あぁ、生で観たいっす…
『んん、じゃあまぁ気を取り直して…
ボウフウリン総代、梅宮一だ。』
コイツが、風鈴のてっぺんか…
なんかすごい気ぃ緩そうだな…けど
実力はあると思った方がいいな。
風鈴で一番強くなきゃなれねぇだろ、総代なんて。
桜は、クラスの変わりように驚きつつも、すぐに対応する。今バカデカい声で話しているヤツの話に集中しなければ、と頭の中で分かっていても、なぜかこの能天気なヤツの話に耳を傾けることが出来なかった。
*ここら辺の会話スキップします⭐︎
蘇芳さん如くどうでもいい内容なので⭐︎
「ねぇねぇ、二人とも仲直りしなくていいの?握手でもしたら、青春っぽく。」
それで今に至る。いやなんでだよ。
「なんでコイツと…」とオブラートに包む訳でもなく、あの長髪やろ-に直球で伝えらればこちらこそ願い下げだ。
けど、んなトコで戸惑ってたらてっぺんにはなれない気がした。というか、人と関わらずに生きてきた桜にとって、和解なんてする機会などなかった。正直言ってかなりめんどくせぇ案件だが、「…今回だけだぞ、」とイライラしているのをこちらも隠さず伝えて、手を出した。
今コレをさっさと終わらせれば、この他のヤツらから向けられる視線も止めてくれるかもしれない。
「…」
「チッ、んだよ。さっさと手ぇだせよ。」
--手を握るだけだ。
弾き返すわけでもなく、捌くわけでもない。
ただ、握るだけ。そう何度も伝えようとしているのは、コイツの為か、オレの為か。
分からないし、どうでもいい…はずなのに、なぜか前者であって欲しいと思った。
ぎゅ、っと。
かさついていたデカい手が、オレの指に戸惑いがちに触れる。
…デケェ。そういやコイツ、オレに殴りかかろうとした時も迫力あったな。
色素の薄い差し出された手が、ゴツく男らしい手と握手し、何秒か経った間も、二人の間には数分のように感じられた。
「…」
「…」
「いいねいいね、青春だね。」
(なにがいいんだろう…)
ポメラニアン楡井は二人に感動しつつも、沈黙を破る蘇芳のコメントに内心困惑するのであった。
盛大に舌を巻く二年の先輩に呼び出されて、外に出た一組。そこにいたのは--
「お前らが外に出てくるまでに、7分48秒26かかってる。幼稚園児だってもっと早く動けんぞ…あ、?」
さ、さすが柊さん!!全部キッチリ言う細かい所はあの梅宮さんを担いでいる間に自然と身に付いたと聞いているっす!
「…?」な、なんかコッチ近づいてないっすか?!
「…お前、昨日大通りまで現れていたspaltipsをボッコボコにしたヤツじゃねぇか…」
「?」
ん?とまるで初めて聞いた言葉に反応する子供のように、桜は首を傾げて見つめ返した。そこには明確な困惑の表情。
まぁ当たり前といえば当たり前なのだが、桜は昨日ヤリあったチ-ムの名前など知らない。「そこにうるさい奴らがいた、だからボコった。」ただそれだけである。
「「「「「「!?」」」」」」
だが、そんな転校生が入学する前から街を守ってくれてたなんて、驚いた顔を纏った全員が一斉に桜へ振り返った。
「は、おま、!!」
「や、やっぱお前か〜、、」
「な-!!なんかそう言われてみればしっくりくるわ」
「すっげぇじゃねぇか!!」
「よくやったな!!遥!」
「うちのばぁちゃんやっぱ合ってたわ、、」
皆、先ほどの喧嘩から納得していた。あんなに軽々と身のこなせるヤツは、早々いない、と。まるで親しみを含んだ賛辞に、桜の胸はむず痒くなるし、なんなら居心地が悪い。
そして尊敬の眼差しで驚いているのが丸分かりな楡井と、全く驚いていないのがもはや通常の蘇芳。二人の相対している反応にも、桜はどうすればいいのか分からなかった。
だが、その中で先ほどの遥の名技から顔を赤くしている者もいた。
蘇芳は何ら変わらずにいたものの、密かに目を細めて桜を見つめている。だが、その瞳の中にあるモノがなんなのかは読めないまま、一歩ずつ彼に近づく。
しゃら、
しゃら。
他のクラスメイトが騒ぎ立てる中、遥は蘇芳の存在に気付かない。五月蝿い声からか、蘇芳の気配の殺し方故か。お互いの距離が五歩程度になっても、まだ気付かない。
(さっきはあんなに“怖がってた”のに)
蘇芳には分かった。遥の本性は、きっと臆病なのだろう、と。それは推測でもなければ、浅はかな嫌悪感から来た答えではなく。
確信だった。
人の眼は、嘘を吐かない。嘘を吐けれない、の方が正しい表現かもしれないけれど。
彼の、まるで希望に満ちた琥珀色の瞳を見つけた時--何故か孤独を感じたのだ。
他人を警戒しているのに、あんなに赤くなるのは、今までの他者からの【扱い】が関係しているのが明白だ。
会ってたかが30分程度、されど30分。
蘇芳は楡井のように人を見ただけで身体的特徴を正確に割り出せることは出来ない。けれども、心理において重要な【感情】を彼は容易く分かってしまう。
桜と三歩程度になるまで進むと、蘇芳の存在に気がついたのか自然と遠ざかる周り。やっと蘇芳に気がついた桜が、当然のように顔を顰める。
「なんだよ、」
「遥くん」
しゃら。
突然蘇芳の顔が至近距離にあることに驚く前に、幾つかト-ンが下げられた声が耳の中で響く。
「--あんなにオレたちには威嚇してたのに、酷いじゃないか。」
「ッ!!」
途端、桜の顔が赤に染まった。
照れどころではない。完全なる羞恥心である。そして思わぬ耳への刺激に、なんか涙まで込み上げてきた。
「ッ、な!!んだ、よ、てめッ!!」
昔からこんな近くに他人が自ら入ってくる事なんてなかった。
距離を取られるのは慣れてるし、自ら近寄ろうとするのも、気付けばやめていた。
オレは、諦めている筈だ。
他のヤツらと関わることも、自分以外を信じることも。
「うわ。」
思わず、と誰かが溢した。
静まり返った教室と裏腹に、耳まで赤い桜への視線はうるさく、どこか熱さが込められていた。それぞれ目がガン開いているが。
今現在、彼らは遥の心情など露知らず、色々耐えていた。
--そう、このクラスはもう手遅れ(?)だった。まぁ美少女(?)のこんな表情を見てしまえば大体は堕ちるだろう。
そして一部始終を見ていた柊は心底呆れた。自分の率いる多聞衆に転校生が来ると伝えた時、ほとんどが同じような反応をしたのだ。完全なる拒絶というより、距離が生まれる事ぐらいは想定していた。
なのに、何故か今現在繰り広げられている訳の分からない現象(?)に、お供のガ●クン10を懐から取り出した。
大半は鼻筋(鼻血)、目(防御本能)、顔(興奮して赤顔中)、股間(?)などを押さえている。
野郎相手に何故ソコを抑えているのか分からないし全然分かりたくもないのだが。
「あああー俺鼻血出てる?」
「うっわ、おれも出てるわ」
「やっべ直視できねぇ」
「分かる、見ちゃいけないもん見ちまった気がすげぇする、、、」
「…」
「あ-保険室行ってくるわ」
「…人助けじゃね-し。あと別にすごくねぇし、喧嘩しただけだろ。」
--落ち着け、落ち着け。こんなことで赤くなるとか、ガキじゃねぇのに。
「おい、てめぇ、」遥なりに精一杯唸ったつもりだった。
顔はまだ火照っているし、怒っているのは分かるものの、眉間に皺が寄っているだけだ。
そしてそのせいで全く怖くないことに本人は気が付いていない。
「……」
蘇芳は何も言わない。
ただ、いつもの笑みを浮かべているだけ。
そしてそのまるで張り付いた様な笑みは、なぜか桜を苛立たせる。
「…なんか言えよ。」
つ-か謝れよ。
こいつの距離感狂ってんのか?
「何を?」
心底不思議そうな顔。
わざとなのか、本気なのか--それすら分からない。
考えている事をハッキリと言える桜は、この時珍しく言葉に詰まった。
殴りかかってくる奴ならいつも通りに分かる。
無論、睨みつけてくる奴も分かる。
--けど、コイツはどこか違う。
怒っているようにも見えないし、
馬鹿にしているようにも見えない。
だから余計に分からないし、その事実がやはり腹立たしい。
「……チッ」
盛大に舌打ちすると、桜は違う場所へ向かう。
--もういい。相手にするだけ無駄だ。
背後から聞こえる声も無視する。
「あー行っちゃった。」
「いや蘇芳さんのせいですよ。」楡井が即座に突っ込む。
「そうかな?」
「そうっすよ!」
「--ふふ。」蘇芳は小さく笑った。
「?」楡井は思わず首を傾げた。何か面白かっただろうか、と周りを見るものの、目前にいるこの人が笑う要素などないのを確認しながら。
「なんか--面白い子だね。」
「面白いって、」
「だって。」蘇芳はちらり、と桜へ視線を向けた。不機嫌なのが丸分かりな近寄るなと言わんばかりの態度。
--それなのに。
「だって、本当に嫌ならさっきの時点で殴ってるでしょ。」
「え?」
楡井が目を瞬かせる。顔に驚きが現れているものの、困惑が見えないという事は同意しているということ。
「杉下くんにはすぐ拳が出たのに、オレには出ない。」
「まぁ、それは……」
「彼にとっては不本意だろうけど、ちゃんと握手もしてくれたしね。青春だったなぁ。」
「まだ言うんすか?!」
その言葉に、楡井は完全に納得した。
--確かにそうだ。
遥さんは気に入らない相手には容赦がない。それは路地裏の出来事があった上で判断しているし、あの人が自ら手を差し出すなど嫌いな相手にわざわざしないだろう。
そして蘇芳に対しては怒っているだけで、手を上げる気配はない。
むしろ。
「……なんか、蘇芳さん楽しそうっすね。」
「そう?」
「そうっす。」
蘇芳は少しだけ目を細めた。
遠くでは桜がまだ不機嫌そうな顔で周囲の声を受け流している。顔が赤いのは通常運転だが。
褒められるたびに居心地悪そうにして、
話しかけられるたびに顔を顰めて、
それでも追い払うことはしない。
--まるで野良猫みたいだ。
警戒心が強くて、
すぐ威嚇して、
けれど本気で噛みついてはこない。
それが無意識なのかどうかで話が変わってくるものの、あんな彼のことだ、そんな芸は出来ないだろう。(普通に失礼)
ただ。
遠ざかっていく特徴的な黒と白の後ろ姿を眺めながら思う。
――変な子だなぁ。
それが第一印象だった。
強くて。
不器用で。
態度。表情。感情。全てが分かりやすいくせに、誰よりも分かりにくい。そのせいか、思わず彼を目で追ってしまうし、視線がそこにいる彼へ向く。
「まぁ。」
しゃらり。
「少し気になるかな。」
隣にいる楡井にも聞こえないほどの小さな呟き。その頃にはもう、桜は振り返りもしない。
当然だ。
オレがそんなことを考えているなんて、遥くんはきっと知る由もないのだから。
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おまけ:
蘇芳:そういえば、にれくんはどうして遥くんに対してあんな敬意があるの?
楡井:え、そんな分かりやすいっすか?!
え-…と、俺がピンチだった時に助けてくれた恩人?みたいな…
蘇芳:へぇ〜、遥くんどうしてオレにだけあんななのかなぁ。
その言葉に含まれた無自覚の嫉妬は、どちらにも理解出来なかった。
なんか、柊先輩どっか行ってしまいした、ハイ。あ、もちろんまだまだ出ますから(多分)ご安心を!!
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