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君の有効利用法
「んもー、くすぐったいよ」
「えへへ、もうちょっと」
もふくんが俺を力いっぱい抱きしめて、頭をすりすりしてくる。……普段は大人っぽくて、格好いいのに、俺の前だと元気に甘えてくるのだ。
そういうところが、たまらなく可愛い。なんか、こういうギャップってかっこいい人にしか許されない気がする。
「もふくん」
うん? ってもふくんが俺に顔を合わせようと動く。もぞもぞってした感覚がくすぐったくて、思わず腰が逃げた。
もふくんの綺麗な顔が目の前にある。どきり、と心臓に甘い毒が流れ込んだ。きゅぅ、と締め付けられた、どくどくって動き出す。俺はそれに弱かった。
メガネのレンズ越しにもふくんの瞳が見える。アメジストっていう宝石、それに似てる。
瞳の中に俺が映る。水面みたいに揺れているそれに、俺は吸い込まれるみたいに見つめてしまった。
数秒の間、俺はもふくんを見つめる。するともふくんは照れたのか、顔を真っ赤にさせた。林檎みたいにぴかぴかしてて、もう、とんでもなく可愛い。
もっと見たい。もっと、もふくんを見たい。
次の瞬間、ちゅっとリップ音が辺りを響かせた。無意識だった、ほんとに、信じてよ。
「っっっっ?!?!」
もふくんは驚きすぎて声もでないみたい。あ、とか、えみたいな言葉ばっかり言ってる。
アナウンサーみたいなハキハキした声も。ぺらぺらとよく回る舌も、今では意味を成していない。
「えへへ……しかえし」
意地悪ににひひ、て笑うと、もふくんはでっかいため息を零す。え、怒らせちゃったかな……?
「ほんっと……かわいすぎるって…………」
あ、良かった。怒ってないみたい。よかったぁ……。
俺は怒ってないことにほっ、としつつ、もふくんを見つめた。思わず口角が上がる。
勝ち誇った、みたいな表情をもふくんに向けていると、俺の身体がかたむいた。身体のバランスが取れなくて、もふくんに身体を預けるみたいな状態になってしまった。……どうやらもふくんに服を引っ張られたようだ。
俺はさっきほっぺにちゅーをしたんだけども、もふくんはそうじゃなかった。
がっつり、唇同士がぶつかる。ちょっと痛かったけど、痛さよりも嬉しさで胸がいっぱいになった。
ちょっと唇が切れちゃったみたいで、口の中に血の味が広がる。鉄っぽくて、思わず顔をしかめてしまった。
べろり、ともふくんがその傷を舐めた。まさかそんなことすると思わなくて、俺はさらに顔が熱くなる。熱い、熱いぃ……。
生ぬるい感触が嫌に記憶に残ってしまって、忘れられない。
その後もちゅっ、ちゅ、と永遠とキスが続く。……キスの雨って、ドラマとかで使われるけど、これかぁ……。なんて他人事みたいに考えてしまった。
「ひゃっ……」
首筋にもキスされた。くすぐったくて、身体が逃げる。そうするともふくんは子供を優しく叱るみたいに。
「こら。だめでしょ」
なんて優しい声で言われた。腰に響く低音で、俺はもうぐずぐず。もふくんが好きすぎて、もうおかしくなりそう。
腰に手が回される。いつまでも続くキスは、俺の脳を甘く溶かした。
からん、とグラスの中の氷が揺れる音がした。
この時間は、いつまでも、いつまでも続く。