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ほうかい

「僕たちはそろそろ、部屋に戻るね。君も早めに寝るようにね。また少し熱が出たんだから。」

「…ス。」

越前が医務室前に倒れたとき、室内にいた医務員が音に気付いたことで、彼はベットに運ばれた。バランスを崩した、という理由を越前が咄嗟に口にし、それにすぐ納得した医務員は煩く言うことはなかった。

夕方になり、再び少しだけ熱の出た越前のもとを訪れたのは、宣言通りの手塚を始め、青学からは、不二・大石、立海からは幸村・仁王、氷帝からは跡部と忍足、四天宝寺からは白石・千歳、さらに徳川カズヤと鬼十次郎というメンバーだった。

1度に来たと言うわけではなく、一人できたり誰かと連れ添って来たり。

また、行きたい!と発言する者もいたが、そういう人物たちが揃いも揃って騒がしい――元気な――人たちだったため各校の部長が丁寧に願い下げた。

寝る前にもう一度と、顔を出した幸村、白石、跡部、不二、手塚が他愛のない会話を越前にする。

就寝の挨拶をして五人が出ていくと、哀しげな表情を浮かべ越前は窓の外を眺めた。

空は、薄い雲に覆われ星や月の輝きを奪っている。

そして今夜も眠れぬ夜を越前は過ごすのだった。

扉の叩かれる音に、驚いた。

空は、雲に覆われながらも白んできたところだったから。

「…だれ?」

扉の開く音、一人分の足音。それが、室内に響くが相手が声を発することはなかった。思わず声をかけると一瞬、足音が止まる。

「…起きてたのか?」

窓側にはないカーテンの外から、その人物の声が返ってくる。

「…あとべさん?」

「あぁ、…入るぞ。」

静かにカーテンを開けて、見馴れた姿が現れる。

だが、跡部さんは目が合うと刹那、顔を顰めた。

それを疑問に思いながらも、相手が口を開くのを待つ。

「…、顔色わりぃーな。寝れてるか?」

「へ?」

ここ二日ほどで、俺の中の跡部さんの印象が大分変わっている。今だって、体調を崩した俺に文句を言いそうなのに。意図せず、中途半端な声が漏れる。だけど、それには構わず話を進めていく。

「それとも、起こしちまったか?だったら悪い。」

「いや、起きてたっすけど…、跡部さんこそ早いっすね。トレーニングっすか?」

コトリ、と枕元に設置されている机に置かれるのはスポーツドリンク。

それをボーと見ていると跡部さんはそれをどうとったのか、喉が乾いたら飲め。そう言って小さく笑う。

「…、あぁ。ところで、何なら食べれそうだ?トレーニング終わりに持ってくる。」

「いいっすよ、そんな。」

食事、と言う単語に自分がいつからマトモに食べていないか思い出すがやはり、食欲はない。ゆるりと首を振りながら言うと、否定の返事しか帰ってこない。

「あーん?そう言ってお前昨日まともに飯食ってねーだろうが。いいから言え。」

「…ちゃ、…し。」

「あ?」

「…茶碗蒸し。」

「わかった。…、寝れるようなら、てめえは寝とけよ。」

食堂にあるメニューを思い浮かべながら、思い付いたメニューを口にすると、了承の返事が返ってくる。

ポンポン、と頭に手がおかれる。

優しい感覚。本当の感覚。

その束の間の安心感が、フワリと唐突に離れる。

恐怖。

脳裡にその文字か浮かび、そこだけとてつもなく醒めて―冷静―で。

その恐怖に、体は支配される。

視界に布団の中の体が、カタカタと震え押さえつけたところで一向におさまらない。

あぁ、きっと。

人のからだが離れるように、簡単に。

温もりが離れるように、単純に。

感覚がなくなるように、ただ。

あっさりと、『俺』という存在は、こんな風に。

消えるのだろう。

誰にも知られず。わからないまま。

だっておれは、【助け】を呼べないから。

――だって『お前』は【     】じゃねーからな。――

――ひとを頼ることも、できないからな。――

「…越前?」

息が、巧く出来ない。

頭が、割れるように警告を鳴らす。

――…、『おまえ』の負けだよ――

苦しい、苦しい、苦しい。

――『おれ』は『俺』になって。『お前』は『おまえ』になる。単純なことだろ?――

――それに、気付いたおまえは脆くなる。わかってたよ。――

――おやすみ。『おれ』――

意識はズブズブと、闇に引摺り込まれた。

縋るように掴んだその手は、大きく、ひんやりと冷たく、力強かった。

跡部は医務室から出ようとして、足を止めた。

背中から聞こえてくる異常な呼吸音。

振り返った跡部の眼に映ったのは、虚ろな瞳で虚無を見詰める、越前の姿だった。

過呼吸だ、と跡部は瞬時に判断し、呼吸をしっかりとするようにと声をかけるが変化はない。部屋を見渡し、医務室の棚が目に入る。

医療品が揃っている場所なのだ、その棚に駆け寄ろうとしたとき、跡部の視界に伸びてくるものがあった。

越前の手だった。

何となく。本当に意識の奥深いところで何となくだが、この手を掴まなくては、と跡部は思った。

半分は条件反射だったのかもしれない。

しかし、跡部がその手を握ると、震え、強張っていた小さなからだから段々と力が抜けていきその口からは先程とは打って変わって安定した呼吸音が漏れだし医務室に広がる。

視線を、繋がれている手に向け、再び越前の顔へと向ける。

右目からだけ、一筋の雫が静かにこぼれた。

『た、す…、け、て』

声にならない声で、越前に助けを求められたと、跡部はその頼りがいのない細く繊細な手が伸びてきた時そう感じていた。

それに答える意も込めてそっと涙を握った手はそのままに跡部は拭った。

越前が再び瞼を上げたのはそれからほぼ半日後だった。

跡部は、昼休憩に再び医務室に訪れていた。

朝、仕方無しに手を離した小さな手を跡部はそっと包み込む。そんな跡部の後ろには手塚と真田がいた。

「…、苦しそうだな。」

「…やはり、少し熱がある。」

朝のことを跡部は手塚に報告していた。そこに現れた真田。気付いた時には話をすでに半分ほど聞かれたあとだった。

本当は二人で来る予定だったのにと跡部は小さいため息をつく。

「なぁ、手塚。」

「なんだ?」

「何か、心当たりはねぇのか?」

「…心当たり、か。」

少しでも越前の支えになれば、と跡部は手塚に訪ねるが手塚もついでに隣にいた真田も首を振るばかりだった。

「…そうか、」

室内に沈黙が漂う。  

手塚が越前の頭を一撫でしたとき、沈黙が小さい声によってかき消された。

それに、三者三様に反応をすると、三者三様に越前に声をかける。

「…あれ、ぶちょー?と、あとべさんにさなださん。」

瞼を持ち上げ、三人を一巡、ニ巡とみてから越前はゆっくりと口を開いた。

その様子に、三人は動きをとめる。

頭を撫でている手塚の手に頭をすりよせてはもっと撫でてとアピールし、手を握ってた跡部の手を握り返し。フワリとわらった。

違和感。三人は確かにそれに気づいていたが、どうしてかそれを口にすることはできなかった。

それは、越前のだす雰囲気のせいである。

3人はほぼ同時に眉をしかめる。

こんな越前は知らない、と。

だが、人懐っこく笑うその姿はどこか見覚えがあった。そうだ、遠山だ。ニコッと笑うその姿はどこか遠山の姿を彷彿とさせるのだ。

喪失感と漠然とした恐怖。

理由さえわからないまま、3人はそれを静かに感じていた。

あいそ、ぶあいそ、あいそわらい

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