テラーノベル
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『もしもし』
毎試合後、必ず電話していた。
碧に、俺も話したいのに!って文句言われながらも欠かさず電話してた。
時には立ち位置の悪さとか、敬斗が近くにいる時はスピーカーにして一緒に話して激励してくれた。
『純也君?』
そんな離れた所でも力になっていた薫に、こんな報告をしたくなかった。
もっともっと、長く戦って、もっともっと薫を驚かしてやりたかった。
そんな気持ちがわき上がって、返事ができずにいる俺を不思議に思い、薫は俺の名前を呼ぶ。
それでも俺の声は発することが出来ないまま言葉にならない音が虚空へ消える。
『お疲れ様。』
そんな俺を察してか、優しい言葉に涙が出た。
試合後、全く流れなかった涙がとめどなく流れる。
悔し涙が止まらない中、薫は何を言うでもなく、それでも電話越しに存在を示してくれる。
お前がいたらって情けなく思ったこと。
そんな自分の弱さが憎いこと。
薫に伝えたって困らせてしまう感情が邪魔をして上手く息ができなくなる。
『みんな、格好良かったよ。』
唐突に耳に届いた薫の穏やかな声に、荒かった呼吸が止まる。
と同時に、少しずつ息を吐く。
『さっき碧にも伝えたんだけど、恥ずかしい試合をしたなんて下を向くような試合なんてしてないよ。日本中の人が誇りに思ってるから、胸を張って帰ってきてよ。』
「それ…航も拓実も言ってた。」
『そっか。じゃあ、純也君の涙は違う涙だった?』
俺の涙の意味を知ってて、それでもあえて言葉にするように促す薫の言葉に、俺は大きく深呼吸をした。
「次のW杯は、怪我なんかするなよ!」
『うん。ごめ』
「そんで!必ず一緒のピッチに立ちやがれ!」
『え?』
「俺とお前で全線ぶち上げて、守備崩壊させて、んでゴールラッシュして優勝するぞ!」
『うん。絶対!約束したからね、純也君!』
「こっちの台詞だ、バカ。」
言いたい事を言ったら、また涙が出る。
次こそは、もうこんな悔しい思いをしなくて良いって安心が入った涙。
『日本帰ってきたら、色んな話を聞かせてよ。』
「俺の前に、碧だろ。」
『それはそうだけど、純也君との時間がなきゃ俺は嫌だよ。』
「だったら、さっさと碧を慰めて俺との時間を作れよな。」
あいつ、頑張ったんだから。
そう付け加えて伝えれば、薫はちゃんと分かってるよ。と穏やかな空気で伝えながら返事をする。
そんなやり取りが心地よくて、早く会いたい気持ちになる。
『悔しいな。』
突然の薫の呟きに、何の事なのか分からず電話越しなのに首を傾げた。
そんな俺を空気で察したのか、バツが悪そうに薫は言葉を続ける。
『W杯に出れなかった事…というより、みんなを近くで応援できなかった事とか、近くで力になれなかった事が悔しくって。』
「そんな事言ったって、お前も航も怪我なんだし、拓実はなんかコーチみたいな枠でいたけど、その枠だって決まってるんだし仕方ないだろ。」
『うん。そうだね。』
そう返事をした後、薫は息を吐くと言葉を続けた。
『次のW杯は、最高の準備をして挑むよ。』
「おぅ。」
『新しいライバルも沢山いるから、まずは選ばれる所から頑張らなきゃだしね!』
「おーおー、頑張れよ!」
『純也君、余裕だね。』
「そりゃ、律やタケっちゅーライバルと切磋琢磨してきてますから。今さらガタガタ言わないです。」
そりゃそうだ。なんてお互いに笑っていると、飛行機の搭乗時間のアナウンスが聞こえた。
「じゃ、そろそろ時間だから行くわ。」
『うん。電話ありがとう。』
「じゃ、また日本でな。」
『会えるのを楽しみにしてるから、気をつけてね。』
そう言い、名残惜しく感じながらも電話を切った。
「薫君?」
「おわぁ!碧、お前いつから居たんだよ。」
「搭乗アナが流れ出してから。純也君がいないから探してたの。」
「そりゃ、どーも。」
「薫君、何か言ってました?」
「日本で会えるのを楽しみにしてるってさ。」
「それ、純也君に?」
「いーや、碧に。」
「え?」
搭乗口に向かいながらも絡んでくる碧に、適当にあしらいつつ歩き続けていると、急に歩を止めて唖然とした。
そんな碧に振り向きながら声をかけると、碧はハッとして急いで隣までやってくる。
「さっきの、嘘じゃないよね?!」
「嘘なんか言うわけないだろ。」
『まぁ、薫の性格なら真っ先に碧を心配して会うだろうしな。』
なんて、隣でぱあっと笑顔になっている碧を見て微笑みながら、みんなが待っている飛行機内へと足を踏み入れた。
END
こんなやり取りをしていてくれたら嬉しいな~なブラジル戦後。
既に日本に帰国するギリギリの電話なのが、なんかこの二人らしい気がする、妄想全開な私です←
コメント
1件
読了しました!電話越しにしか伝えられない想いがぎゅっと詰まったエピソードでしたね。特に、純也くんが悔しさで言葉にできないときに、薫さんが「お疲れ様」と優しく包み込むところ——あそこ、ずるいですよね。泣けます。悔し涙から「次こそは」っていう約束の涙に変わっていく流れが本当に丁寧で、胸が熱くなりました。碧くんとの掛け合いも、ほっこりしましたよ🌷