こんなことまで記録する必要はないかもしれないが、僕は喫茶のカルボナーラが好きだ。もう、カフェインにまみれるのがイヤなら、覚えておくんだな。
「何、書いてるの?」
篠原がテーブルから乗り出して手帳を見ようとしたので、僕は慌てて、コートの袖でページを隠しながらポケットにしまった。
「いや、なんでもないよ」
「ふぅん」
この“ふぅん”は、本当にそのままの意味だ、と僕は安心した。この女のサバサバしたところは、ボクは嫌いだが、僕には好都合だ。
いちいち色々なことを気にせずに済む。
「ところで、その幽霊は『牧原絆』(マキハラ・キズナ)に危害は加えてないのか?」
「危害って?」
「えーと。外傷とかだよ」
呪いころそうとする類の幽霊は始末することにしているから、僕としても、これは絶対に聞いておかなきゃならない必須事項だ。
もし、善意の霊なら成仏させるのが一番いい。
「そういうのはないみたいだよ」
篠原がカフェ・オ・レをズズッと飲みながらいうのを聞いて、僕は内心ホッとした。
何もないなら、それは『善意』の霊だ。
無益な戦いをしたって、ボクが疲れるだけで、僕にとっては何の利益にもならないのだから、善ならそれに越したことはない。
よかった、よかった。