コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「たぶんね。お祭りのときにはスイーツの屋台がずらっと並ぶって話だけど」
「うわー、なんですか。その、夢のようなお祭り!」
わたしの言葉に、玲伊さんはくすくす笑っている。
玲伊さんと一緒にいると、どうしてこんなに心が弾んでしまうんだろう。
でも、いつでも浮かれた気持ちに切ない気持ちが忍びよってくる。
あの、くろいうさぎのように。
うさぎの心配は杞憂だった。
でも、わたしの場合は……
心配しなくても、ちゃんとわかってる。
玲伊さんが決して手の届かない人だってことは。
わたしは心の中で警告を発してくるもう一人の自分にそう告げた。
幸い、店内はそれほど混んでおらず、並ばずにすぐに座ることができた。
「よかったな、席が空いてて」
玲伊さん、ここでもやっぱり注目の的だ。
他のお客さんからも店員さんからも熱い視線を感じる。
それからみんな、不思議そうにわたしを見る。
えー、なんでこの人がこんな子を連れてるの?
そんな心の声が聞こえてくるようだ。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
玲伊さんは少し首を傾げながらも、メニューを開いた。
「どれにする?」
彼は少し身を乗り出してくる。
ただでさえ小さなテーブルなので、そうしていると頭が触れ合いそうになる。
そのことと、そして、あまりにもおいしそうなメニュー写真に夢中になって、回りの視線は気にならなくなった。
「やっぱりマンゴーかな……でも、桃も美味しそうだし。チョコバナナも捨てがたいなあ」
パフェはその3種類。
散々迷った結果、わたしはマンゴーパフェを選んだ。
玲伊さんはラ・フランスのソルベをチョイス。
「お待たせしました」
店員さんの声とともに、満艦飾と形容したくなるほどフルーツや生クリームたっぷりのぜいたくなパフェが目の前に置かれた。
「わー、すごい」
わたしが目を輝かせてつぶやくと、玲伊さんは「そっか」と何かに気づいたように一言もらした。
「何……ですか?」
「今、わかった。確実に優ちゃんの機嫌を治す方法」
「?」
「目の前に甘いお菓子を並べればいいんだ、ってことがね」
そう言って、わたしのほうを見てにこにこしている。
「玲伊さん、わたしをどれだけ食いしん坊だって思ってるんですか」
少し口を尖らせてみたけれど、豪奢なパフェを目の前にしてしまうと顔は自然にほころぶ。
「あ、ほんとだ。おいしいものを前にすると顔がゆるんじゃいますね、たしかに」
玲伊さんはわたしの言葉に吹き出すと「ゆっくり堪能して。かわいそうだけど、しばらくお預けだからね」と言った。
「ああ、そうでした」
わたしのその顔を見て、玲伊さんはまた吹き出す。
「この世の終わりみたいな顔してるよ。なんなら、おかわりしてもいいよ」
わたしは慌てて首を振った。
「さすがにこんな立派なパフェふたつは食べられないですよ」
「じゃあ、俺のソルベも食べる?」
そう言って、ソルベを乗せたスプーンをわたしの前に差し出す。
えっ?
それを食べろってこと?
わたしはブンブンと首を振った。
「いえ、どうぞおかまいなく」
その言い方がツボにハマったようで、玲伊さんはいっそう顔をほころばせた。
「ああ、楽しいよ。優ちゃんと一緒にいると」
そう言って、琥珀色の目を輝かせる。
唇には穏やかに笑みを浮かべて。
正面からそんな顔で見つめられると、恥ずかしくてたまらない気持ちになってくる。
照明を落とした店でよかった。
きっと今、わたし、火を噴きそうなほど真っ赤な顔をしているはず。
これ以上、玲伊さんの眼差しに反応しすぎてしまわないように、とにかく目の前のパフェに集中した。
玲伊さんはもうとっくにソルベを食べ終わっている。
スマホでも見ていてくれればいいのに、なんだか愉しげにわたしを見つめている。
わたしはあくまでパフェを食べるのに集中していると装った。
本当は、味がよくわからなかったのだけれど。
「よし」と玲伊さんは言った。
「じゃあ、今回のプロジェクトを完走したら、都内で一番豪華なスイーツビュッフェをおごるよ」
「ほんとですか?」
「ああ。俺からのご褒美」
「じゃあ、その日を楽しみに頑張ります」
玲伊さんはうんと軽く頷き、目を細めた。
「あー、本当においしかったです。ちゃんと最後まで楽しめるように底のほうにもマンゴーがたっぷり入っていて」
「満足した?」
「はい」
「じゃあ、行こうか」
玲伊さんはレシートを取り、レジに向かった。