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黎明
もののあはれ
23
夜明けの光が強く、少年と少女の存在を誇示するようにただ照らす。
桃色髪を二つに結んだ少女、“ストレリア”は大量に殺した狼型の魔物の遺体に哀れみの桃色の瞳を向けている。
翡翠の髪を短く切り揃えた少年、“ルドベキア”の翡翠色の瞳は血だらけになった手のひらを目をすくめるほどに眩しい太陽にかざす。
懐から出した光を吸い込むような黒い革手袋に指を通し、赤黒い臓物にゆっくりと手を捩じ込む。硬い感触を覚えた少年はそれを優しく引き抜いた。
「…魔石。魔石だよスト君、今まで見たどれよりも濃い…!」
太陽の光を反射せず、ひたすらに闇という名の禍々しい魔力を放つ石が少年の手のひらに転がった。
「…報告書を書かないとだね。それよりもルド、もうちょっと内臓に手を突っ込むのに躊躇しなよ…」
「今更だよスト君!だって私たちは拷問官だよ?今はスト君の身体なんだから大丈夫!」
はぁと呆れた表情をする“ルドベキア”に対し、“ストレリア”はニコニコと元気そうに微笑う。
全ての遺体から禍々しい石を引き抜いた二人は向かい合ってゆっくりと瞼を閉じる。
次に目に光という情報を入れる頃には、ルドベキアの身体にはルドベキア自身が、ストレリア自身の身体にはストレリアが戻っているだろう。
二人はただの双子ではない。父親に改造された結果、好きな時に身体を交換できる二人だけの能力を手にしたのだ。
「朝ごはん何食べるー?私ねー!お肉!」
「そうだね。戦ってたし僕もお腹空いたや。お肉食べよう…あ、いや」
ストレリアはくるり踵を返し、死体に優しげな視線を落とす。
「せめて森の中に…」
「…うん!そうだね!」
・・・
B級幹部事務室。そこには多くの資料や情報が山積みになっている。
目の前の影のような女は、自身の主ただ一人をジッと布の先から見つめている。
「リトナ様。昨日から連続での仕事となってしまいますが、よろしいでしょうか」
「任せて」
リトナは自身の部下に対して優しく微笑み、そう答えた。
かなり太陽が出てくる季節となった。こんな日は海にでも出たいなあと思いながら、彼女は自身の武器を手入れする。
コツコツ。可憐な足音が二人分、この部屋にまで響いてきている。
キィ。と扉を押す音に耳を貸し、そっと振り返れば美しい男女がそこに立っていた。
夏の青空のような髪を括るリュートル・フェイスナル。人類が知り得ぬ宇宙のような髪を編み込むヴィーナス・アガメムノンの2名が今日の仕事メンバーである。
S級幹部二人にA級幹部一人。今回はかなり大仕事になりそうだとリトナはクスリと笑う。
今日のメンバーが揃った所で、マリトーナはもう整っている背筋を更に伸ばし、小さく結ばれた口を開く。
「本日の仕事の概要をお伝えする前に、少し別の話がございます。もう少しだけお待ちください。そろそろ来るはずですので」
彼女がそう話し終わってしばらく間を置き、コンコンコンと部屋が手の甲で叩かれる。
失礼します。と言う言葉と共に部屋に姿を現したのは翡翠色の少年、ストレリアであった。
「…どうも。肩っ苦しい話し方とか事前の挨拶とか別にいいよね」
「ええ、話が早くて助かります」
無表情気味なストレリアに対してリュートルはそっと微笑みかけ、そう返す。
彼は返事の代わりに言葉を口で綴る。
「…まず、僕とルドベキアは昨晩から今朝にかけて西北側の森に大量発生してたシャドウウルフの討伐をしてた」
シャドウウルフ。危険度ランクはDと低めだが、問題は数だ。多くで群れ、影から姿を現して襲ってくるためその危険性を考慮すればB近くに及ぶであろう。
「戦ってた時に思ったんだけど、普通のより強かった。他の群れならリーダークラスの奴がわんさか。怪しくて中身を見たらこれがあった」
ストレリアの手に握られていた布鼓を解けば、禍々しい色の石がコロリと覗いていた。
通常の魔石はピンク色である。濃くても紫が限度だ。しかしこれは光を通さぬほどに濃い、紫を超えた何かであると肌で感じる。
自然物ではない。人工的に作られた物である。
「わかってると思うけど、これを意図的に作って、魔物に埋め込んだ奴がいる。最近の魔物が異常に強かったのはそのせいだと思う。それで、本題…」
ストレリアがマリトーナに目線を寄越せば、影のような彼女はコクリと頷き、語り側に戻っていく。
「…先日、海原で大量の魔石を積んだ密輸船が逮捕されたそうです。それも異様なほどに真っ黒な。そしてその海に潜み、尚且つ強大な力を持つ魔物をこちら側で調べました。今回貴方達に課す仕事は、黒薔薇に強化される可能性の高い海の魔物。クラーケンです」
マリトーナの目元を隠す黒い布がゆらりと揺れ、見えぬはずの瞳孔と目線が合う。
「急ぎである為、今回はすぐに仕事に出れる人間であり、想定外に対応出来るであろう人間をこちら側で選ばせて頂きました。今から人気のない南の港に飛ばしますがよろしいですか?」
「「「問題ない」」」
可憐な従者の言葉に3人は同時に同じ言葉を口にした。
マリトーナは口元だけでクスリと魅力的に口角を上げ、目の前の人間達に手のひらを向けて言葉を唱えようと口を開いた。
「「ちょーっと待ったー!」」
と、突然二人分の声が部屋に一気に入ってくる。勿論、この部屋にいる全員がその声に聞き覚えがあった。
特に、ヴィーナスとリュートルは。
「ヴィーナス様ー!なんでお一人で行っちゃうんですかー!貴方の背中を守れるのは僕だけですのに!ズルイです!ヒドイです!僕も連れて行ってください!」
テラン・ウィンド。前髪を可愛らしい留め具で留めて、ショートカットほどに伸ばした赤茶色の髪色、その服装のリボンまでが可愛らしい。
こんなに可愛らしいが男子であり、同時にヴィーナスの専属部下だ。
テランの頭をポスっと音を立てて撫でたヴィーナスの表情は、とにかく柔らかかった。
「テラン。今回に限らず、大人数であればあるほど人間は目立ってしまう。今回は海で、貴方の出る所ではないと言うことをわかって頂戴。私の優秀な部下なら…理解出来るわね?」
「…わかりました!このテラン・ウィンド!貴方のご帰還をお待ちしております!」
彼は愛しの主様に芝居かがった礼をして、顔を上げて、ただ嬉しそうに笑う少年のように微笑んだ。
見ているこちら側ですらドキリとしてしまう程の、美しい人間関係。相手をことをただ心の底から想っている人間同士の愛おしい関係が、ただ眩しい。
それに対し…と呆れた笑いをしながら、リトナはリュートル側をチラリと覗き見る。
「何故突然行ってしまわれるのですか!自分を連れて行かないのならせめて行き場所と人数配置と相手の情報と弱点を伝えて欲しいと言ったではないですか!」
「いきなりだったので後で連絡しようかと…」
「何かあってからでは遅いのです!」
「ごもっともな意見です…」
シアオ・エフォート。白色と水色のグラデーションが美しい髪を後ろにチョンと結び、リュートルと同じく左目を覆い隠した男であり、リュートルの専属部下だ。
リュートルは報連相がとにかく抜けやすい男である為、シアオがよく説教している姿を見かける。
リトナの目には、たまに口煩いお母さんのように見えることもある。
「…い、今報告しますから!南の港に3人で!リトナとヴィーナスと共にクラーケンの討伐に参ります!弱点はー…えー…眼球と心臓ですかね?」
「…はぁー。わかりました。それでは、ご帰還を願っておりますよ、リュートル様方。」
突然の来訪者の用事も済み、マリトーナは再び部屋に静寂が訪れたのを確認してから、また口を開いた。
「瞬間移動」
コメント
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「風薫る初夏」第6話、読みました🌙 双子の身体交換能力、めっちゃ好きな設定…!同じ顔なのに中身が入れ替わるってだけで関係性が深く見える。黒い魔石の伏線も気になるし、クラーケン討伐に向かう3人の緊張感ある空気が良い。 でも何より、テランとシアオが主を想うシーンが尊すぎて泣いた。ああいう“過保護だけど愛がある”関係性、本当に大好きです。次回、海の戦いがどうなるか楽しみにしてます🤍