アテンション。
こちらのお話は「様子がおかしい死刑囚と新米クール看守」の続編となります。
勿論読んでいなくても楽しめるように努力しておりますが、読んでいるともっと楽しめると思いますので是非お時間があれば1作目も読んでみてください。
「へぇ、それは悪魔の仕業だろうねぇ」
鉄格子の向こうで、美しい男はそう言った。
男は現在この国唯一の死刑囚であり、なんと不思議なことに不死の悪魔でもある。名はファム・ファタール。多分偽名だと思う。
そして、私はヒルダ。彼の専属雇われ看守だ。
場面は、まぁ世間話程度に最近の連続不審死事件の話をこの男に振った所。……不謹慎?死刑囚を相手にしている時点でそんなこと言うだけ無駄だと思いませんかね。
案の定、犯人悪魔だった訳だし。
「あぁ、やっぱりそうなんですか。だと思いましたよ」
「やっぱりって。薄々勘づいておいて悪魔にその話題を振るんだから、君の心臓の強さの方が異常だと思うよ僕は」
「褒めても何も出ませんよ」
「褒めてな……あー、うん褒めてる褒めてる」
この仕事を始めてはや3年。元々気安い関係ではあったが、随分彼の口調も態度も砕けてきたように思う。膝の上のくまさんも以前よりずっと馴染んだもので、 馴染みすぎて最近自分用に1体買ってしまった位だ。今は自宅のベッドの上で私の代わりに寝てもらっている。ちなみに効果は無い。
「ファム、悪魔は人間でどうにかできるものなんですか?」
「出来るよ?僕がいい例なんじゃないかな」
「……出来てるんですか?」
「まぁ、出来てないけどね」
でしょうね。
私の前任の看守たち、一体何をしたのかはわからないが確実にファムのせいで行方知れずになってるからな。その気になれば簡単にこんな拘束抜け出して、外に出られるのだろう。しかしそんなことはせず、当の本人は今こうして私と会話をしているのだから……
ファムは本当に変わった悪魔だ。
「どうしようもないのなら、この街の人間狩り尽くされますね」
「別に食べてる訳じゃないから大丈夫だと思うけど。あぁ、でも……娯楽かなぁこれ……じゃ、危ないかもなぁ」
ファムが珍しく眉を顰めた。彼にとって、今回の犯行は結構困るのかもしれない。一応檻の中でも、自分のテリトリーな訳だし。荒らされるのは気分がいいものではないのだろう。
…………ふむ。
「私、実はミステリ小説が好きなんですよね」
「うん、まぁそうだろうなって思ってたよ。時々名探偵の台詞が漏れ出てるからね」
「ですから私、安楽椅子探偵とその助手みたいなのにずっと憧れていたんですよ」
「…………なんか嫌な予感が…」
「ファムは見事犯人を推理しましたね?」
「……えっと、ヒルダ、ちょっと待っ……」
「しかし獄中で自ら逮捕には行けない。そう、まるで安楽椅子探偵。そうですね?」
「違う違う違う違う違う」
そんなに謙遜しなくてもいいのに。
まぁ謙虚なのも安楽椅子探偵の特徴の一つか。ファムは案外ハマり役だ。うん、ノッてきたぞ。
「それなら、私が助手ポジションですから。悪魔、私が狩ってきますね」
「待って待って待って」
「ほら、被害者の共通点を探してみると……次のターゲット、私でもいけそうじゃないですか」
「…確かに…………って、いやいやいや」
「塩一キロで足りますか?」
「足りないよ!?……そもそも、塩で僕達を滅するのは無理だ。勿論、日光でもね」
「へぇ、あれ迷信なんですね」
「いや、霊たちには有効……って、そうじゃなくてね、君死ぬよ?」
「失敬な。いいですかファム、この私がシフトに穴を空けるとでも?」
この時の彼の絶望しきった顔はあまりに印象深く、この後永劫に『私が見た彼の面白表情ランキング』ぶっちぎりの一位に君臨し続けることとなる。
この街の人間共はトロくて阿呆ばっかりだな。
すぐ殺せていいが、ちぃとばかし退屈なのがいけない。……まぁいい。この街の奴らを殺し尽くせば、少しは骨のある奴が向こうから出向いてくれることだろう。
さてさて、今日はどいつを殺そうか……次は女が良いな。黒髪だ。背は……高い方が面白そうだ。俺様のお眼鏡にかなうやつは居るかな……っと。
「……………居た」
あらら、こんな時間に女一人とは。こりゃ随分と危機感の無い人間だなぁ。
しかも、わざわざ人通りの少ない道を歩いてやがる。あぁ、やっぱり人間は阿呆ばっかりだ。こんな奴らが我が物顔で世界にうじゃうじゃ蔓延ってるなんて笑えてくるぜ。
……さ、今日もさくっと殺しますかね。
『待て』
突然、背後から声がした。
「!?、 誰だっ……!!」
振り返れば、そこにいたのは白髪の美しい男。なんてことはない、同僚だ。
「……あぁ、アンタもこの街で狩りをしたいんだな?ま、勝手にどうぞ。俺ぁ、同士討ちはしない主義なんでな」
『………悪いが、』
「あ?」
____彼女は僕の獲物なんだ。
「ファム、大変です。事件が起きなくなってしまいました」
「何も大変じゃないね」
「大変ですよ。折角、寝不足になってまで狙われやすくなるように遅い時間に徘徊したりしたのに……寝不足損です」
「ま、悪魔が狩り場を移したんだろう。死ななくてよかったじゃないか」
「はぁ…………」
重々しく溜息をつく若い看守からは見えないように、死刑囚もまた、溜息をそっと吐いた。
「3年……3年ね。はーあ、全然口説き落とせないなぁ……」
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