「あの……さっくん……」
「ん?」
「その……腕、痛くないの?」
「だから、左なら平気だって」
「いや、そうじゃなくて……腕、疲れないかなって……」
「ああ、腕枕の事? このくらい別に平気だよ」
「そ、そういうもの?」
一緒の布団に入り腕枕をされたものの、それでは朔太郎の腕が疲れてしまうのでは無いかと心配して聞いた咲結。
しかし当の本人は『このくらい何でもない』といった様子だった。
「まあ、咲結がしなくて良いって言うなら止めるけど?」
「!」
朔太郎的には何ら問題は無いものの、心配してくれている咲結の気持ちを無碍には出来ない、それならどうするかを決めて貰おうと考えた彼は、ニヤリと悪戯っぽい悪い笑みを浮かべながら腕枕を続けるか止めるかを咲結に選ばせるような口ぶりで問い掛けた。
「……そ、それは……」
勿論、咲結だって腕枕をされたくない訳じゃない。
強いて言うならば、このままされていたいと思っている。
ただ、こんな風に異性と同じ布団に入り、身体を密着させている状態でいるだけでも緊張するのに、腕枕までされるととてもじゃないけど眠れそうにないと思い、頭の中で葛藤していた。
悩む咲結の姿を眺める朔太郎の口元は先程の悪戯っぽい笑みから優しげな笑みへと変わり、
「悪い、そんなに悩ませるつもりは無かったんだ。ってか俺的には『止めないで』って答えを期待してたんだけどなぁ~」
そんな事を口にしながら咲結を引き寄せて頭を撫でていく。
「さ、さっくん……?」
そして、朔太郎の行動に戸惑う咲結に、
「咲結が恥ずかしがってんのは分かってるけど、悪いな、俺はこのままこうしてたい。咲結を近くに感じて眠りたいから、このままでいいか?」
自分の方がこうしていたかった事を告げたのだ。
「……うん、私も、こうしてたい……」
朔太郎の言葉に顔を赤くした咲結は、照れながらも頷き『自分も同じ気持ち』である事を告げて彼の胸に顔を埋めた。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動。
朔太郎の胸に顔を寄せている咲結は、彼もまた自分と同じくらいドキドキしている事が分かる。
(さっくんも、私と同じでドキドキしてる……)
初めて出来た彼氏。
初めてのお泊り。
そして、こうして温もりを感じながら眠るのも初めての経験。
緊張で眠れないかと思っていた咲結だけど、疲れが溜まっていた事、大好きな朔太郎に包み込まれ、守られるように横になっていた事で安心から自然と瞼が下がっていく。
そして、
「…………さっくん……」
「咲結?……寝言……か?」
急に咲結の口から朔太郎の名前が呟かれ、名前を呼ばれた彼が不思議そうな顔で覗き込んでみると、朔太郎が夢に出て来ているのか嬉しそうな表情を浮かべながら眠りについた咲結を前に、愛おしく感じた朔太郎は優しく頭を撫でると自身も目を閉じて眠りについた。
翌朝、
「……ん……」
部屋の外から子供の声が聞こえて来た事で目を覚ました咲結が寝返りを打ちながら瞳を開くと、
「……おはよ、咲結」
「……さっくん……?」
優しげな瞳で見つめながら『おはよう』と声を掛ける朔太郎と目が合い、まだ若干寝惚けている咲結は目を擦りながらも朔太郎の名前を呟いた。
「昨日は寝るの遅かったし、まだ寝てても平気だぞ?」
「…………」
寝惚けている咲結は何故目の前に朔太郎が居るのかを考える。
「……咲結?」
なかなか反応を示さない彼女を心配した朔太郎が再度名前を呼ぶと、徐々に記憶が鮮明になった咲結は思わず大声を上げそうになるのをぐっと堪え、
「さ、さっくん……あの、おはよう……」
平静を装いながら朔太郎に『おはよう』と返事を返した。
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