光は今頃何しとんのやろ。俺はずーっとお前のいない日々の喪失感に身を任せて、ゆらゆら沈んでいくんやろな。と、思ってた。ヒカルが現れるまでは。そのヒカルは今、俺の横で間抜けに寝っ転がっとる。
俺と光は、昔からずっと一緒やった。この絵に描いたような田舎に居た、数少ない年の近い友達。お前は山で遭難して、二度と帰っては来ないんやろなと思っていたのに。
「よしきー。かにー…」
「どんな寝言や…。」
一週間経った時、お前はケロッと帰ってきたよな、 ヒカル。
山で遭難したんは光。でも帰ってきたんは光じゃない。こんな異常性にも慣れてきてしまった。ヒカルはこの自分の身体を「完璧な模倣」って言ってたけど…。俺はヒカルの右腕に目線を向ける。
「また怪我つくっとう…」
痛覚がないってのは「完璧な模倣」ではないやろ。絶対に。
あまりにも腕の傷が痛々しいから、消毒しやって絆創膏だけ貼ったろ…。戸棚から救急箱を引っ張り出して、居間へ戻った。ヒカルの右腕を軽く持ち上げると、確かな温もりがそこにはあった。
「生きてるみたいやな…。」
口元に手をやると呼吸もしとるし、手首には脈を感じる。
「光…。」
思わず溢れでとった言葉の続きを急いで飲み込んだ。その代わりに、指先だけは自分に素直にさせてやることにする。
スッと通った鼻筋、ふんわり柔らかい頬、まっすぐと長いまつ毛、少し乾燥した唇。
「やっぱおんなじやな…」
どうやら、ヒカルが言っていた「完璧な模倣」はあながち間違ってはおらんらしい。俺は光が恋しくって、生き返って戻ってきてほしくて、昔妹が読んでたおとぎ話のようにヒカルに口付けをした。何秒の逢瀬だっただろうか。俺はとんでもなくキモいことをしてると気づいて、すぐさまヒカルから離れた。
数十分経ってからヒカルは目を覚まして身体を起こした。あぁ…俺ほんとキモい…。
「よしき、どしたん?」
ヒカルに察されるくらいなんやから、相当な顔をしとるんやろな。
「まさか、俺以外の奴んこと考えとった?」
冗談を交えたような言い方をしとるけど、ヒカルのことなら内心本気で嫉妬しとるんやろな…。
「いや、俺は」
「ひかるのことしか考えてない。」
コメント
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まじ最高✨💕 にゅんこの作品みたらまじ飛べる(?)