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翌朝。ナジュ母はうつらうつらとして、ナジュ父の肩に頭を預けている。彼は、彼女を見守りつつ、時折無言のまま、ナジュミネを眺めていた。
昨夜は止めどなく出ていた汗も日が昇り始める前にはすっかりと落ち着いていた。彼女の苦しそうだった息遣いも静かな寝息に変わっている。
「んぅ……」
ナジュミネの小さな声に、ハッと起きたナジュ母が彼女の額に手を当てて、熱を確かめる。
「あなた、ナジュ、熱がだいぶ引いているわ! まだ熱いけど、これならナジュは大丈夫そうね!」
「そうか」
ナジュ父はおもむろに立ち上がった。彼の憮然とした表情は変わらずだ。喜んでいる雰囲気もなく、むしろ、彼の身に纏っている雰囲気が尋常でないことをナジュ母は気付いた。
「……どうしたの?」
「しばらく、家を留守にする」
ナジュ父の急な話に、ナジュ母は驚きを隠せない。
「え。どうしたの?」
「……駆逐してくる。この辺りから……一匹残らず! 片っ端から!」
ナジュ父はどうやら今回の元凶である蛇を一掃することを考えているようだった。ナジュ父は部屋を出ようと扉に手を掛ける。
「待ってください。あなたは言っても全然聞いてくれないから、止めはしないけど、必ず日曜には帰ってきてください」
ナジュ母は姿勢を正してナジュ父に強い口調で伝える。
「む」
「約束してください。そうでなければ行かせません。ずっと帰ってこないのは私やナジュが心配します」
ナジュ父が振り返り、ナジュ母を見つめる。
「むむ」
「いつまでかかるかは知りませんけど、1日や2日の話ではないでしょう? なので、少なくとも必ず毎週日曜には帰ってくること。あと、無理はしないこと、小さくてもケガをしたら戻ってくること」
いつの間にかナジュ母の要求は増えているが、ナジュ父はそこを指摘しない。ただ、彼は彼女を見つめている。
「むむむ」
「むむむ、じゃありません。そこは譲りませんよ。約束しますか? しませんか?」
「お父さん……」
「!」
ナジュミネは小さく呟いていたが、寝言のようで再び寝息が聞こえてくる。
「……寝言みたいね。ほら、あなたの大事なナジュがお父さんを何日も見かけなくなったら悲しみますよ?」
「……わかった」
ナジュ母の強い口調がさらに強くなったところで、ナジュ父は渋々と言った感じで了承した。
「……あと」
「?」
ナジュ父が言葉を続けるために口を開く。ナジュ母はきょとんとした顔で彼を見る。
「……大事なのはお前もだ」
「あら! 嬉しい」
面と向かって言われたのは久々だったようで、ナジュ母は顔を赤らめてとても嬉しそうにしていた。
「……行ってくる」
「ふふっ、ちゃんと守ってくださいね。気を付けて、いってらっしゃい」
ナジュ父は全身を厚めの布で覆い、肌の露出が無いようにする。そして、蛇取り名人と言われる男の下で道具と捕獲方法を学び、蛇の発生する場所や住処となるようなところを全て教えてもらう。
「まあ、引き継いでくれるのはありがたいが、無理はせんことだ」
蛇取り名人はすっかり老いており、薄い青色の身体と額の中央にある大きめの角が特徴的だった。彼は最近、老体で動くことも難しく、あまり蛇を取っていなかったようだ。
「少なくとも、この村の周りからは駆逐する」
ナジュ父は強い意志を持って、蛇取り名人にそう答える。蛇取り名人は久々に笑った。
「お前さんならできそうだ。というか、お前さんはできるまでやるだろうな。ただ、家族に心配させるな?」
「あぁ、わかった」
「あと、その顔でナジュちゃんに会わんほうがいいぞ。単純に恐ろしい顔をしとる。普通に泣くぞ」
「……気を付ける」
ナジュ父は様々な道具を抱えていった。