ペチペチ。頬を軽く叩かれる感覚。頬を両サイドからつままれる感覚で目を覚ます。
ボヤァ〜っとした視界に妹が映る。
「起〜き〜ろ〜」
妹が僕の頬を右手の人差し指と親指で両サイドからつまむ。
「なーしてんのぉー」
僕の頬で遊ぶ妹に声をかける。
「いや。なんも」
「いや、ひとるあな(いや、しとるがな)」
妹が頬を両サイドからつまむせいで喋りづらい。
「ご飯だよー」
妹が僕の頬から手を離し、僕のベッドから立ち上がる。
「あいあぁ〜」
返事をしようとしてあくびが出る。妹は扉を開いて出て行く。
枕元で充電していたスマホに手を伸ばす。充電ケーブルからに抜き、ホームボタンを押す。
通知がたくさん溜まっていた。しかし「ご飯だよ」と言われた手前
ここで時間をかけて返信しようとは思わず、ポケットにスマホを入れ、1階へ行く。
歯を磨き顔を洗い、リビングへ行く。
家族と他愛もない話をしながら朝ご飯を済ませる。
ゴールデンウィークかつ日曜ということで朝ご飯を食べ終え、すぐに部屋に戻る。
お腹いっぱいで眠気もあり、すぐにベッドに倒れ込む。
仰向けになり、ポケットからスマホを取り出し、ホームボタンを押す。
鹿島からグループの招待が来ており、ん?と思い、通知をタップする。
鹿島、匠、僕の3人のグループで先に匠はグループに入っていた。
僕も参加ボタンをタップし、グループに入る。
2人とも寝ているのか、メッセージは更新されなかった。
鹿島からも個人的に「グループ入ってぇ〜」とのLIMEが来ており
そのメッセージに返信する。
妃馬さんからもLIMEが来ていたので妃馬さんとのトーク画面に入る。
「たしかにww今さらこんなの送るの、今見返したら変ですねww」
「寝ちゃいましたか?」
胸辺りから顔にかけて、ぶわあぁ〜っと震えるような鳥肌が立つような感覚になる。
「寝ちゃいましたか?」
の一文が可愛くて、胸に刺さるようなニヤける隙すら与えないインパクトがあった。
気づけば眠気などどこへやらだった。遅れて口元がニヤけ始める。
しばらく画面を眺め、ニヤける。
そろそろ心に住む住人たちが気持ち悪さに痺れを切らして
空き缶やペットボトル、丸めた紙などをリング上に投げてきそうだったので返信を打ち込む。
「おはようございます…w寝落ちしてました…すいません」
「すいません」で終わると少し重くなるかなと思ったので
フクロウが「ごめんっ」と顔の前で手を合わせているスタンプを送った。
トーク一覧に戻り、電源を落とす。枕元にスマホを置く。天井を見上げる。
「寝ちゃいましたか?」
がやはり頭から離れずニヤける。妹が僕を起こすときにしていたように
左手の人差し指と親指で自分の頬を両サイドからつまむ。手を離し鼻から呼吸をする。
外を歩く人の足音、自転車を漕ぐ音、走る音
車が走るアスファルトをタイヤが擦る音が聞こえる。
そんな環境音に耳を傾けていると眠気が徐々に迫り来るのがわかった。
瞼が重くなってきて、あくびも出る。瞼が徐々に下がってきて、睡魔に完全に目を瞑らされる。
寝返りを数回うっているうちに、いつの間にか眠りについていた。
ふと目を覚ます。窓の外を見る。まだ明るい。
枕元のスマホを手に取り、ホームボタンを押す。12時9分。
「んなぁ〜あ!」
思い切り伸びをする。あくびが出る。もう一度ホームボタンを押す。通知が来ていた。
鹿島と匠と僕のグループの通知だった。通知をタップし、トーク画面に飛ぶ。
「おはよっす!!」
時刻を見る。11時47分。
「おはようじゃねぇ」
と思わず笑う。
「おすおす〜」
「お、匠ちゃん起きてた?」
「マジで今起きた」
「おそろぉ〜」
「うぇい」
「てか怜ちゃん入ってんじゃん。おーい」
「たぶん寝てるんじゃない?」
「ねぼすけめ」
「誰がゆーとんねん」
また思わず言葉が漏れる。
「あ、でさ。匠ちゃん何時に行けばいい?」
「明日?別に何時でもいいよ。朝は寝てるからあれだけど」
「朝寝てんのはオレも同じww」
「お昼どうする?外で食べるか、なんか頼むか」
「あぁ〜どうするか」
「ピザ、お寿司とか」
「お寿司は夜感あるな」
「それな」
「じゃあ、昼集合で外食べ行くか」
「いいね。どこ行く?」
「大吉祥寺でいいんじゃね?」
「とりあえず匠ちゃんち1回寄って荷物置いて、最低限持って大吉祥寺行こうぜ」
「おけー」
僕のいないところで勝手に決まっていた。遅ればせながら参戦した。
「で?結局何時に集合?」
送るとしばらくしてから既読が2つつく。
「やっと起きたな、ねぼすけさんめ」
「ねぼすけさんめ」
「お前らには言われたくねぇわw」
「今起きたんでしょ?」
「9時に朝ご飯でした」
「わお!」
「で昼寝してただけ。で?明日どうすん?」
「12時とかに駅でいいんじゃない?」
「あいよー」
「おけー」
トーク一覧に戻る。なんだか今からドキドキしてきた。
妃馬さんからの通知があった。ドキドキが加速する。
一度鼻から深呼吸をして落ち着かせる。そして妃馬さんの名前をタップし、トーク画面を開く。
「前は私が寝落ちしちゃいましたけど、これで1対1ですねw」
そのメッセージの後に猫が悪巧みするようにニヤニヤしているスタンプが送られていた。
「1対1って」
つい笑ってしまう。不思議と心臓は落ち着きを取り戻していた。返信を打ち込む。
「そうか。これで引き分けか…。負けませんよ?w」
その後にフクロウがゲームをしているスタンプを送った。トーク一覧に戻り、電源を落とす。
飲み物を取りに1階へ下りると母から
「もうすぐお昼にするよ」
と言われた。妹と父も下りてくる。
しばらくして母がダイニングテーブルにお昼ご飯を並べる。家族全員で食事を摂る。
うどんを啜る音が響く中
「あ、明日ちょっと泊まりに行ってくるわ」
と家族に話した。妹が
「ん!?」
とうどんを口に入れながら驚いた顔をこちらに向ける。
「なに」
そう言いながら箸でうどんを掴み、口へ運び啜る。
口の中のうどんを食べ終わったのか妹がスッっと僕に近寄り、ヒソヒソ声で
「妃馬さん?」
と言った。うどんを飲み込もうとしていたときに言われて少しむせた。
これがマンガやアニメなら吹き出していた場面だろう。
僕は少し咳をして落ち着くまで待つ。涙目になる。うどんを飲み込む。右腕で涙を拭う。
「ちげぇよ。なに言ってんのマジで」
「その焦り具合。図星だな」
「マジで違うから。明日明後日と匠ん家で2泊3日してくる」
「あぁ、そうなの。匠くん元気?最近見ないけど」
「あぁ元気だよ。髪色とか諸々変わったけど」
「え!?小野田くん髪染めたの!?何色何色?」
「白」
「「白!?」」
母と妹がハモる。
「あぁ、でも小野田くんなら似合うか」
「2泊も大丈夫なの?」
「あぁ、匠ご両親は仕事で忙しいんだって。だからその日なら泊まれるからって」
「あぁそうか。まぁそうだな。小野田くんのご両親って社長だろ?
父さんはゴールデンウィーク1日休みもらえたけど、社長ってなると休めないもんな」
「やっぱそーゆーもんなの?」
「他所は知らないけどな?うちの社長も社員に休み取らせるために
ゴールデンウィークは働き詰めだってよ」
「へぇ〜いい社長さんだね」
「だな」
「そういえばなにか持っていかなくていいの?」
「いいんじゃない?鹿島もなんも持ってこないだろうし」
「あぁ鹿島くんも泊まるの?」
「そうそう。あいつが言い出したことだから」
「京弥くん相変わらずだったね」
「あぁ、こないだのな」
「そうそう。相変わらずのテンションで相変わらずイケメンだった」
「顔はいいからなぁ〜あいつ」
「今度もっとガッツリ話したいな、ひさしぶりに」
「教育に悪いからやめなさい」
「教育に悪いって」
そう言いながら妹が笑う。
「そーなると小野田くんにも会いたかったなぁ〜」
「あの日匠ん家からの帰りだったんよ」
「マジ!?うわぁ〜なんで小野田くんいなかったのさ」
「そりゃ匠ん家から帰ってたんだから」
「会いたっ」
「ガチ恋再熱するからやめとけ?」
「うるさっ」
そんなこんなで父、母、妹に報告し、お昼ご飯を食べ終える。
珍しく母が着替えどこかへ出かける。妹も友達と出掛けるのか、着替えて出掛けていった。
夜ご飯の時間前に母が帰ってくる。
母は買ってきたものを冷蔵庫に入れ、着替えて料理を始める。
母が料理をしている最中に妹が帰宅した。
短時間で料理を仕上げ、美味しいときたもんだ。母のスゴさを改めて実感する。
夜ご飯を食べ終え、いつも通り、各々のタイミングでお風呂に入り
各々のタイミングで部屋に戻る。
その日は鹿島から実況撮ろうと誘われることもなく
ただただ鹿島、匠、僕の3人のグループLIMEで鹿島が
「楽しみぃ〜楽しみぃ〜( ┘^ω^)┐)))ヨイサヨイサ♪(┌ ^ω^)┘)))ヨイサヨイサ♪」
と鹿島が異様に楽しみにしてるのだけが伝わった。その後の
「京弥が狂った」
という匠の一言に笑った。部屋でベッドの上で胡座をかきながらテレビを見る。
若手芸人さんたちの番組を見る。一人で笑う。
いつも通りに過ごそうとしたが修学旅行の前日のようなドキドキ感
不安感、ワクワク感を無視できず、ベッドから降りて、クローゼットを開く。
それこそ高校の修学旅行で使ったリュックを取り出し、下着のパンツを2枚入れる。
今着ている部屋着ではなく、洗い替えの部屋着を入れる。
パンツは明日、時間的には今日履いていく1本でいいとして
Tシャツをテキトーに2枚突っ込む。すでにリュックの8割が埋まっていた。
財布はパンツの後ろポケットに入れて。スマホもパンツのポケットに。
サティスフィーを持っていかないと。そう思い、普段使っているバッグから
サティスフィーを取り出し、充電ケーブルに挿す。ピアスをどうしようか悩む。
しかし替えのピアスをどこに入れていいかわからず、ファーストピアスで行こうと諦める。
一度ベッドに上がる。しかし
「あっ、お金か」
と呟き、もう一度立ち上がる。財布のお札の部分を確認する。4千円。
首を傾げ、恐らくそこで一度も勉強をしなかったであろう勉強机の引き出しを開く。
ボールペンやシャーペン、鉛筆、消しゴムなどが慣性の法則で手前にあたる。
なにが書いてあるかわからない2冊のノートの下に毎月母から貰うお小遣いを貯めていた。
そこから1万円札を取り、財布に入れ、引き出しを閉める。
引き出しの中でボールペンやシャーペン、鉛筆などが慣性の法則で転がったのがわかった。
一安心し、ベッドに上がり胡座をかく。
今一度鹿島、匠、僕の3人のグループLIMEを開き、時間を確認する。12時に駅。
匠の最寄りは隣だから11時半頃出ればいいか。そう思い、スマホを充電ケーブルに挿す。
テレビを消し、部屋の照明も消す。ベッドに寝転がり、布団に入り、目を閉じる。
静かな部屋。自分の呼吸音が聞こえる。
やはり修学旅行前のドキドキ感、不安感、ワクワク感が込み上げてくる。
心臓の音が聞こえるほど鼓動が高鳴ってきた。
深い呼吸を繰り返す。深い呼吸を繰り返すうちに眠りについていた。
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