星渡りの少女～TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる～

　皆さんご機嫌如何だろうか？異星人対策室のジョン＝ケラーだ。ハリソン大統領の決断から凡そ一週間、我々異星人対策室と合衆国外交部は寝る間も惜しんで国際首脳会議の準備と調整に奔走した。

　言うまでもないが国を率いる立場の人間は多忙を極めているし、易々と要請に応じては国として格を問われると考えている為政者相手の調整と交渉は特に厄介だった。

　ただ幸いにしてこれは異星人関係の重要な内容であり、参加しないのならばそれがその国の意思であると受け取ると言う大統領の宣言が我々の背中を押してくれたので、交渉そのものはそこまで苦労することではなかった。アードとの交流を各国が重視していると言う証でもある。

　もっとも、大統領の宣言に信憑性を持たせるため我々異星人対策室が総動員されて外交の場に駆り出されたのは不幸とも言えるが。

　プラネット号だったか。初の宇宙船を体験したカレンが無事に地球へ帰還し、フロンティア彗星は爆破されて地球滅亡の危機は去った。いやはや、今度は地球そのものを救われてしまったよ。ティナには足を向けて眠れないな。

　ただ、無茶をしたみたいだから感謝しつつも少しだけお話をしよう。まだ若い彼女に万が一があってはいけないし、こんなことで命を落として欲しくはないからね。

　そう考えていたのだが、カレンを送り届けてくれたフェルから地球を離れると言われて何故か重要なメッセージをカレン経由で手渡された。理由を問う間も無くティナ達の宇宙船は太陽系から姿を消した。これは統合宇宙開発局からの観測で明らかだ。

　……まさか私にメッセンジャーをやれと？色々と考えた結果、私の胃が限界を迎えて醜態を晒してしまったのは情けない。

　とは言え、ティナは私を信頼してメッセージを預けてくれたのだ。他の者に任せるわけにはいかない。幸いにしてメッセージ再生装置の操作法もカレンが知っていたので問題はなかった。カレンは賢いから、直ぐに覚えてしまったそうだ。

　大会議場で準備をしていると、日本の椎崎首相が熱弁を振るっていた。やはり彼女も事の本質を正しく理解しているようだ。

　ティナとの繋がりが気にならないと言えば嘘になるが、あの娘の事だ。秘密にしなければいけない理由があるのだろうし、必要ならば教えてくれるだろう。無理に聞き出す必要はないし、下手に突っつけばアリア達の報復を招くことになる。

　ハリソン大統領に意見具申してみたが、直ぐに理解を示してくださったのはありがたい。少なくともこの件からは合衆国も手を引いた。

　さて、場が落ち着いたのを見計らって私は会場の中心に歩み寄る。そこにはテーブルが設置されており、その上に預かっている端末を置く。

　掌に乗る小さな三角形の透明な物体だ。重さは感じず、若干の冷気を感じる不思議な物体であるが、アードの物質で作られたからだろうか？まあ良い。その辺りは学者さん達に任せる問題だ。

　設置した端末の先端に触れて右へ一度回転させる。カレンの説明だとこれで良いはずだが……よし、起動したようだ。三角形の端末は穏やかな光を放ちながらゆっくりと宙に浮いて幾つかのパーツに分裂。そして立体映像を投影した。付与されていたティリス殿のメッセージによると、政務局長殿の認めた書簡を自動的に英語に翻訳し、立体映像と共に音声で伝えるもののようだ。

　事前に連絡していたし、各国首脳も英語が堪能な者がほとんど。不安がある場合は通訳の同席も許可している。しかし……。

「これがアード人の男性か」

「首脳クラスとは言うが、随分と若いな」

「三十代後半くらいにしか見えぬ」

「アード人は長命と聞くし、見た目通りの年齢ではないのかもしれないな」

　初めて目の当たりにするアード人の男性は若々しいが、やはり首脳なのだろう。威厳と気品を感じるのは私だけだろうか。美しい金の髪を肩口で切り揃え、ティナと同じような装束に幾何学的な模様の刺繍が施されたローブを羽織っている。その背中にある翼は、彼が地球人ではないことを証明しているな。

　議場の視線を集める中、厳かにメッセージが再生された。

『先ずはこのように不躾な形でメッセージを送る非礼を謝罪する。私は惑星アード永久管理機構政務局長、パトラウスである。地球には統一政体が存在しないことは把握している。それ故に、この場に居るあなた、或いはあなた方が地球の首長或いはそれに類する人物であるとの前提で話をさせていただく。

　我が民が地球を発見し、個人的な交流を行っていることは既に把握している。この者、すなわちティナは我が姉の身内である。故に、先ずは彼女を受け入れてくれたことに感謝を捧げたい。あなた方から見れば我々は完全に未知の存在であるにも関わらず、温かく迎えてくれたとの報告も受けている。重ねて謝意を示したい。

　残念ながら我々は銀河の反対側に位置しており、アード政府としては地球との交流に懐疑的な声があるのも事実だ。しかし、地球からの手土産である食料品質の高さには驚愕している。

　私個人としても大変気に入っており、今後も交流が進めば何れは我等が主、セレスティナ女王陛下の御前に捧げることも考えている』

　アードは王政がまだ残っている！これは新しい情報だ！ハリソン大統領をはじめ、皆の目付きが変わった。

『今後とも交流が進み、メッセージではなく直にあなた方とお会いする日が来ることを願っている。確約は出来ぬが、私も尽力する。故に、今後も我が民をよろしく願いたい。手短ではあるが、此度はここまでとしよう。地球の未来に幸あれ』

　再生が終了したのか、再び再生装置は合体して三角形の物体となりテーブルへ戻った。

「ケラー室長」

「はい、大統領」

「これは大きな進歩だ。確約は得られなかったが、間違いなく今後の弾みとなるだろう。これも君のお陰だ」

「勿体無いお言葉です、大統領。しかし、私のお陰ではありません。異星人対策室の皆が頑張ってくれた成果です。皆を労ってやってください」

「ふふっ、その謙虚な姿勢は変わらないな。だからこそ、ティナ嬢も君を信用するのだろう。今後も頼むぞ」

「はい、大統領」

「アード人の好みを探れ。将来的には大規模な移民をさせたいからな。女王の伴侶となれば我々の覇権も確固たるものになる」

　中華が何やら企んでいるようだ。小声だろうが、無駄だよ。私は耳が良いのだからね。ティナ達に害が及ばないように気を付けねば。