コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
惑星アード、ケレステス島ハロン神殿。ティナが里帰りをして地球から持ち帰った食品による絶大な効果を実感している頃、弟であるパトラウス政務局長との突撃面会を済ませたティリスはそのまま弟と一緒に荘厳な神殿の廊下を歩いていた。事前に連絡していた会議に参加するためである。
数日前に連絡を受けたパトラウスは事の重要性を正しく認識してドルワの里内だけで秘匿ながらも、文字通りアードの未来を左右する重大な案件であり政府の者には共有すべきと考えていた。
「それで、大丈夫なんだろうね?☆パトラウス」
「無論です、姉上。アード永久管理機構の中でも信用に値するものだけを集めました。非才の身ではありますが、下手に広めては無用な混乱を招く程度の事は認識出来ています」
「それなら良いけど、そこまで多くは無さそうだね?☆」
「残念ながら、リーフ人には決して露見させてはならぬとの指示を厳守する場合該当者は限られますからな」
「それで良いよ。いずれは大々的に公表するにしても、今は秘密を知る者は少ない方が良い」
二人はそのままハロン神殿にある小会議室へと足を運んだ。極めて秘匿性の高い会議を行う際に利用されるものであり、幾重にも秘匿魔法が付与されて防音も完璧。更に周辺は常時多数の警備ドロイドが監視している。場所そのものも神殿の最奥に近く、許可されたものしか近寄れない区画に分類されている。
もちろん世の中には完璧な備えなど存在はしないが、少なくとも惑星アード上でここより秘匿性が保たれているのはセレスティナ女王のプライベートエリアだけである。
二人が到着すると既に室内には十数人のアード政府の重役達が揃っていた。もちろんその中には宇宙開発局長のザッカルの姿もあり、彼は起立して二人に軽く一礼する。
ただ、ティリスを驚かせたのは面々の中に移民監理局のザイガス長官が含まれていることであった。
「なんでザイガス長官まで居るのかな?ミドリムシの手先だよ」
「彼はアード人とリーフ人の架け橋となる部署の長。リーフ人への露見を出来るだけ抑えるためには、協力が必要不可欠となる。私はそう愚考して彼も召集した次第です」
弟の言葉を聞き、ティリスは少しだけ考えて……翼を広げて羽ばたきながら飛翔。ザイガスの目の前まで飛び視線を合わせる。
「ざっちゃん、悪いことしたら“めっ!”するからね?」
「ティリス殿……いや、おばば様には敵いませぬな。ご安心を、口外はしませぬ。おばば様のお仕置きが如何に恐ろしいか、ドルワの里の出身者で知らぬ者はおりませぬよ」
ザイガスは神経質そうな表情を和らげて苦笑いを浮かべる。見た目と異なり千年の時を生きるティリスにとって、アードの大半の民は子供のようなもの。現に政府上層部の大半は幼少期から彼女の世話になった者ばかりである。
これが地球ならばまさに利権や汚職の温床となりそうなものだが、ティリス自身が一線から身を引いて政治に一切口出しをせず、ドルワの里に引きこもっているのでその様な問題はこれまで発生しなかった。少なくとも、ティナが地球と交流を始めるまでは。
「それなら良いよ。パトラウス、ちゃちゃっと始めよう」
「御意。皆、多忙の中集まってくれたことを嬉しく思う。此度は私の名で召集を掛けたが、既に気付いている通り発起人は我が姉であるドルワの里長、ティリスである。では姉上」
「ん、取り敢えずこれを見てよ。信憑性は私が保証するからさ」
ティリスは携帯デバイスを操作して、参加者全員にホログラムを見せる。そこには地球の食品が及ぼした影響が事細かに記されており、ティアンナの現時点での考察なども書かれていた。その内容に目を通し、誰もが目を見開いた。
「ドルワの里で子供が三十人生まれたですと!?」
「ここ数百年、いや下手をすれば千年ぶりの快挙ではありませんか!?」
「奇跡としか言いようがない!」
「分かったかなぁ?☆これがドルワの里で起きた奇跡だよ。そして、その原因は地球の食べ物にある」
「こんなことが……緩やかな滅びを待つだけと言われた我が種族の未来を明るくする話題ではありませんか!」
「直ぐに地球と交渉して大量に輸入するべきです!」
誰もが興奮気味に話すが、そんな最中にザイガスが口を開く。
「おばば様、このデータは大変興味深いのですが……リーフ人に対する効果はありますか?」
「フェルちゃんのデータしかないけど、少なくともフェルちゃんに里の女性陣と同じ効果が現れることはなかったよ。地球の食べ物をたくさん食べているのにね」
「そうですか……厄介な」
「ザイガス長官、なにか問題が?」
「ザッカル局長、忘れたのかね?存続の危機は我々だけではなくリーフ人にもあるのだ。我々だけに有効な解決策を得たと知れば、奴らがどんな行動に出るか分からんぞ」
ザイガスの警告に皆の表情が曇る。リーフ人は友好的な種族であるが同時に排他的で独善的な面が強い。それは誰もが知ることである。
「少なくとも、ミドリムシ共は両手を挙げて大歓迎なんてしないだろうね。間違いなく何らかの干渉をしてくるよ」
「姉上とザイガス長官の懸念は正しい。彼らは今も女王陛下の御裁可に異議を唱えている。最近では、フェラルーシアの件から意見の対立が増えてきた。表面上は友好的かつ順応的ではあるが、油断はならん」
「やれやれ、数百年棚上げにしてきた問題が改めて表面化してしまいましたか」
「そうだよ。フェルちゃんを助けて私たちが受け入れたその時から、奴らは悪意を表に出してきた。アードの未来を左右する重要な案件だし、まだ公表するわけにはいかない。私達は内側に不穏分子を抱えていることを忘れないように」
「「「はいっ!!!」」」
改めてティリスが釘を刺すと皆が同意を示した。そしてティリスはパトラウスとザイガスへ視線を向ける。
「ざっちゃん、しばらく苦労させるよ」
「仕方ありませんな、地球との交流も出来るだけ秘匿しましょう。とはいえ、露見するのも時間の問題ですぞ?」
「構わないよ、それまでに手を打つから。パトラウスは引き続き工作をお願い。もう少し地球側が纏まったら使節団を受け入れても良いと思うから」
「ならば女王陛下の御裁可が必要になりますな」
「私がお願いしてみる。最奥への立ち入りを許可してほしい」
「ご安心を、姉上に許可は必要ありませぬ。女王陛下ご自身のお言葉で、姉上だけは自由に出入りして良いと」
「……うん、わかった。ありがとう」
アード側も地球の有用性を認識、交流へ向けて動き始めた。リーフ人と言う不穏分子を内側に抱えたまま、である。