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ガラッ、と野菜室を開けじゃがいもと人参を幾つか取り出す。
今日は元貴が好きなトマト風味のカレーにしようかな。そう思い戸棚からルーを取り出した。CMの撮影の時に試供品で貰ったやつ。確か、君が1番美味しいって言ってたはずだ。取り敢えず皮むきしないと。じゃがいもをしっかり水で洗い、包丁を手に持った時だった。
腰あたりに腕を回され、背中に人一人分の重みがかかる。全く気配がしなかったから少し驚きつつ、後ろを見た。
「…後どんくらいで出来る?」
「まだ大分掛かるよ。7時くらいには食べれるかな」
ふにゃふにゃとした口調で尋ねられる。だいぶ疲れてるみたい。
「そう…、今日カレー?」
「うん、この前の貰った試供品のやつね。あ、そういえば昨日プリンの差し入れがあったから、それデザートに食べよう」
うん、と小さく呟いたのが聞こえた。元貴と付き合ってから同棲を始め、メンバー1の多忙を極める元貴に家事の時間なんて無く僕が基本こなしていた。だから作曲の合間にこうして抱きついてきて、無言の時もあれば今みたいに雑談をすることがある。僕はこの時間が堪らなく好きだった。でも…
「…元貴さーん?ちょっとだけ力緩めてくれないと、ご飯作れないかも__」
いつもより近く、力が強くて動けない。元貴は小柄でか弱いイメージがあるが意外と筋肉も運動神経も実はある。そんな所も大好きだし、お肉がつきがちな僕からするとちょっぴり羨ましい。
「……。」
「包丁持ってるから危ないよぉ、それに食べるの遅くなっちゃうよ」
「動かなくていい。涼ちゃん今から俺の充電器」
…何それ、ずるい。顔を背中に埋めているから表情は分からないけど、耳が真っ赤だ。しょうがない、こういう時は頑なに動かないから、夕飯を遅くしない為にでろでろに甘やかさないと。
「分かった。じゃあ、リビングいこ?」
「んー…」
同意したのかよく分からない返事だけが帰ってきた。困ったな、このまま寝られちゃったら本当ににっちもさっちも行かなくなる。もう一度呼びかけるが、今度は本当に寝そうな声で。
ふといい考えを思いつき、包丁とじゃがいもを置く。そしてどうにか手を伸ばして流しで手を洗い、正面に向き直って元貴の肩を掴む。そのまま足と背中をすくい、お姫様抱っこの形にした。うわ、筋肉あるとはいえやっぱり軽い。
「っ!?ちょっ、まっ、涼ちゃん!?」
「わーっ、危ないから暴れないのっ。落ちちゃうからじっとしてて」
バタバタと抵抗しているがお構いなくリビングまで連れてくる。まあオープンキッチンだからそんな距離は無いんだけど。よっこいしょ、と下ろし元貴をカーペットに座らせ、その前に僕が座る。
「…なにすんの」
君は不貞腐れたようにそう言った。口をきゅっと結んでいるのでアヒル口が強調されて幼く見える。まあまあ、と言って頭をわしゃわしゃと撫でる。意外にも抵抗せず撫でられているのが可愛すぎて思わず口元が緩んだ。
「可愛い、元貴」
「可愛くないし」
すかさず反論されるが、じゃあと手を止めるとちらりと上目遣いで見てくる。心臓が爆発してしまいそう。これは世に放っちゃいけない。そんな君を僕が今から独り占めするなんて、興奮が押し寄せてくるがなんとか抑える。今は簡単なスキンシップだけにしとこう。
顎にそっと触れ、角度を微調整する。すると素直にキス待ちのように目を閉じた。珍しい。綺麗な顔だな、本当に。ちょっとだけ意地悪したくなってしまい、顎から頬に手を添える。そしてむぎゅっ、と効果音がしそうなくらいつまんだ。案の定タコさながらの顔になる。
「んむ!?」
「ふっ…。んむ、って…」
可愛すぎてなんとか肩を震わせながら笑いを堪える。すると流石に怒ったのか元貴が噛み付くようにキスをしてきた。そのまま押し倒される。床じゃないとはいえ衝撃が来るかと思いきや、元貴の手に守られた。こんな時でも相変わらず気が回るなあ。
「もう!何すんだよ。逃がさないかんね?」
「ふふ、夕飯遅くなっちゃうよ」
「いいし。ほら、涼ちゃん髪解いて」
馬乗り状態の元貴からのご命令で、はいはい、と言いながら言う通りにする。解いてゴムを手首に付けると満足そうににやっと笑った。どちらがともなくキスをする。これが僕たちのはじまりの合図だ。
さて、何時になったらあの放置されたじゃがいもは剥かれるんだろうか。頭の片隅に有りつつも、この状況を手放す気はさらさら無かった。
◻︎◻︎◻︎
読んでくださりありがとうございます!
寄り道ばかりして申し訳ないです…昨日思いついてそのままバーッとメモとしてだけ書いて、でも意外とちゃんと出来ていたので投稿してしまいました…。天使の笑い声の方はもう少しだけお時間を下さい!
フィヨルドの件、これ以上ジャムズも関係ない人も騒がず大きくならずしっかり反省して次に活かして欲しいな…。どの立場で言ってるのって話ではありますが…
次も是非読んで頂けると嬉しいです。