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コメント
2件
すいません!忙しくてそんなにコメントはかけないんですが、今回の話もとっても楽しかったです!更新ありがとうございます!
猫乾大好きなのでもうテンション爆上がりです!!✨✨ 矛盾だらけの猫さんが珍しく感じで新鮮で、布団の中に2人が入るところがもう嬉しい悲鳴が上がりそうでした😖💓💓 あおば様の伝わりやすい文章、とても参考になります…でもあおば様のように上手くは書けないんですがね…😭💘 青桃や猫乾の沼にはまってもはまっても更に沈んでしまいますっ🫠🫠 投稿ありがとうございました!!!✨
【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(猫乾)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
「あっちぃ…」
毎年毎年、夏の暑さは記録を更新している気がする。
「今年初」「〇〇年ぶりの連続猛暑日」そんな言葉を羅列するニュースにはもううんざりだ。
特に今年は6月から異常な暑さが続いていて、7月10日の今日でももう十分灼熱地獄を迎えている。
夏が来るのは単純に待ち遠しかった。
海やプールなんてレジャーも多く、楽しいことが目白押しだ。
それだけじゃなく、ひょんなことから以前長袖の制服を一組なくしてしまった俺と猫宮にとっては、夏服に切り替わることで救われた気分になるなんて事情も抱えていた。
だから、夏は待ち遠しかった。
それでもさすがにこのうだるような暑さはいただけない。
手にしたビニール袋の中のアイスのように、体まで溶けそうになってしまう。
期末テスト直前の少しだけ早く帰れる短縮日課期間。
一度家に帰ってから、午後2時という一番暑い時間帯に外へ出た。
自宅からほんの数軒分離れただけのとある家に足を向ける。
外に出たのはその数分だけなはずなのに、照り付ける太陽からの温度に首筋や額には汗が吹き出てきた。
それを手で拭いながら目的の家の門扉を開く。
俺が来ることは分かっているはずだから、どうせ鍵は開いているに決まってる。
「おじゃましまーす」
幼い頃からの付き合いだ。
勝手知ったる我が家のように上がり込む。
おじさんとおばさんは仕事で夜まで帰ってこないし、猫宮も学校から帰って自室にこもっているに違いない。
「おーい猫宮、アイス食うー?」
2階の一番奥。
ノックもしないまま部屋の扉を開けると、エアコンの冷気がひやりと体を撫でた。
命が芽吹いたような…生き返ったような感覚を覚えながら、その冷たい空気を逃さないように後ろ手に扉をぱたんと閉める。
部屋の主からの返事はなかった。
家に帰ってすぐにテスト勉強でもしているのかと思いきや、目当ての相手は部屋の隅のベッドの上でこちらに背を向けて横たわっている。
きっと昨日も遅くまで、テスト対策とその先にある受験勉強に追われていたんだろう。
少し背を丸めるようにして小さくなっていて、でかい図体のくせにフォルムだけはまるで小動物だ。
エアコンをがんがんつけているくせに眠っているうちに寒くなったのか、その体はタオルケットどころかもっと厚めの夏布団に包まれている。
こいつのこういう矛盾したところが、俺は昔から理解できない。
寒くて布団に包まるくらいならエアコンを消せばいいのに。
俺ならエアコンがついていてもついていなくても、夏は寝ているうちにかけていたものを全て蹴り飛ばして大の字で寝てしまう。
「ねーこみや」
勉強教えてくれるって言ったじゃん、と、さほど不満にも思っていないくせに抗議口調でその名を呼んだ。
それでも背を向けた体はすうすうと静かな寝息に上下して、穏やかな呼吸を繰り返している。
これは多分、ちょっと声をかけたくらいじゃ起きないだろう。
そう思ってビニール袋からアイスを取り出した。
パウチタイプのそれを、後ろから猫宮の頬に押し付ける。
すると急な冷たさに驚いたのか、「!?」と声にならない声を上げて猫宮ががばっと上体を起こした。
「なに!? …って、無人来とったん?」
「3回くらい声かけたよ。玄関と、部屋入ったときと、今と」
言いながらぎしりと音を立てて猫宮のベッドに乗り上げる。
俺の手からアイスを取り上げたあいつは、寝起きのまだ覚醒しきらない頭で「ふわぁ」と大きな欠伸を漏らした。
「溶けとるやん」
「しょーがないじゃん。外めっちゃ暑いって今日」
文句あるなら食わなくていいけど? なんて続けたけれど、猫宮は手にしたアイスをがっちりとホールドしている。
夏布団を肩から掛けたまま、バニラアイスの蓋をかちりと回して開いた。
フル稼働させられているエアコンと、その冷気から身を守る布団。
そして手にはアイス。矛盾だらけの状況に思わず笑ってしまうと、猫宮はそれに気づいたのか小さく首を竦めた。
「あっついコーヒー飲みたい。無人、淹れてきて」
「やだよ。今お前の部屋しかエアコン効いてないもん。ここから出たくないし」
この矛盾した状況に、熱いコーヒーなんて更なる違和感を付け足すつもりか。
そう思って吹き出しかけたけれど、そう言えば猫宮は昔からこうだ。
寒いくらいにエアコンの効いた部屋で、口にするのは冷たいアイスよりも暑すぎるくらいのカフェオレの方が好み。
エアコンをつけた上にサーキュレーターも回し、アイスも2,3個は一気に食べたい俺とは正反対だ。
そう言えば冬はこたつで鍋でも囲みたい俺と違って、こいつはぬくぬくしながらもそういう時こそちょっとお高めのアイスを食べる方が好きなやつだった。
「猫宮って、矛盾だらけのとこあるよな」
「変なヤツ」そうからかうように言って、俺も自分のアイスの蓋を回した。
猫宮に渡したバニラとは違って、こっちはチョコ味だ。
かちんと音を立てて開けたそこに口をつけ、ぐっとパッケージを押す。
すると、半ば溶けたアイスはくにゃりと緩く押し出された。
口内に流れ込んできたそれが、体温を溶かすように形をなくしていく。
そんな俺の言葉をどう受け止めたのか、猫宮は同じようにアイスを吸ってから小さく首を竦めた。
「まぁ…そうじゃなきゃこんな何年も無人と一緒にはおられんよな」
「はぁ!? なんかその言い草だと俺の方が変人みたいじゃん」
「自覚なし?やばいな」
くつくつと笑って、猫宮はアイスの蓋を戻す。
布団は羽織るように肩から掛け直した。
「天邪鬼で変人の無人と長年付き合えるヤツなんて、そうそうおらんて」
そう言ったかと思うと、猫宮は「ん」と手にしたアイスの容器をこちらに差し出してくる。
もう一度自分のチョコアイスを口に流し込みながら、俺はそれを一瞥して何事かと首を小さく捻った。
意味が分からずぱちぱちと瞬きを繰り返した俺に向けて、あいつは緩く笑む。
「チョコの方がいい。交換して」
「はぁ!? お前いつもバニラじゃん!」
「今日はチョコの気分なんよな」
「やだよ。俺だって今日はチョコの気分なんだよ」
いーっと歯を見せて子どもみたいに応じ、俺はもう一度パウチに口を付けた。
譲るもんかと、それまでより勢いよくアイスを吸い込む。
「…ふーん、そういうことするんや」
目を細めた猫宮が、意味ありげに小さく笑んだ。
そうかと思うと、アイスをベッド脇に放りその手をこちらへと伸ばす。
肩に回されたその手がぐいと力強く引いたかと思うと、そのまま唇を重ね合わせられた。
「…っ」
互いにアイスを口にしたばかりで、唇は冷たいはず。
なのに重ねたそこと、すぐに口内に侵入してきた舌は驚くほど熱く感じる。
絡めたそこからバニラとチョコが混ざり合って溶けるような不思議な香りが鼻を抜け、呼吸すら忘れてだんだんと深くなっていくそのキスを受け入れた。
何度も角度を変えてキスを繰り返しながら、猫宮は自分の肩にかけていた布団でばさりと俺ごと包みこんだ。
まるで隠れるように…いや、違うな。2人の空間に閉じ込めるようにして。
「あっついって…!」
冷気が循環する室内に、布団で覆い被された故の暑さ。
もうすっかり口内でなくなってしまった冷たいアイスの名残と、キスの温度。
矛盾ばかりを孕んだ今のこの現状に、嬉しさとか悦びなんてものよりも照れが肥大する。
こういう照れ隠しのような抗議を、猫宮は「天邪鬼」だと評するのかもしれない。
怒り口調ではぎ取るようにして布団から脱出した俺を見やり、あいつは声を上げてしばらく楽しそうに笑っていた。