あれから何年、何十年が経ったのだろうか
叶のチューリップはとっくに朽ち果て
種が落ちてまた新たな根を生やし、また枯れて
気がつけばチューリップの花畑ができていた
俺は黒いチューリップ畑に毎日通い
叶の影を、追う
何度も何度も名前を呼んで、会いたい。って
その度にまた心が壊れそうになる
もう叶はいない。どうやって会うって言うんだ
いない存在をいつまで待ち続けるんだ
そんな考えを巡らせては
それでもまだ叶を好きな自分の気持ちに縋る
黒いチューリップが風でそよぐ
ひらひらと舞う花びらを見ると、
花言葉が頭をよぎる
“私を忘れて”
忘れられるわけないだろ
何十年経った今でもこんなにも好きなのに
もしも、もしも神とやらがいるのなら
もう一度叶に、叶に合わせて欲しい
今度はちゃんと、ちゃんと言うから
素直になるから
[頼むよ…]
吸血鬼が神に願うなんて
はたから見たらバカバカしいよな
それでも俺は…
まだあの頃から一歩も…
進めないんだよ
[かなえ…]
会いたいよ
恋しい…よ
『いつもの威勢はどこいったのくーちゃん』
え
懐かしい、愛おしい声が
俺の後ろから聞こえる…気がする
そんなはずない、いるはずない
だって、だってだって、もう…
でも…
真実であってほしい
淡い期待を胸にゆっくりと背後を振り向く
『 遅くなってごめんね葛葉』
[か、なえ…]
瞬間俺は叶に抱きついていた
会いたかった。会いたかった、
[ずっと…会いたかったっ]
何年、何十年
叶のことを忘れた日はなかった
何をするのにも俺には叶が必要で
いなくなった日からずっと
俺は死んでいるのと同じだった
何度も夢に見た。
何度も夢に縋った。
何度も君に会う想像をしていた
暖かい…
叶の体温を感じる
現実なんだ
ここにいるんだ
その事実に涙が出る
[ずっと、ずっと、おれ…]
『 うん』
叶は辿々しく言葉を紡ぐ俺の背中を
優しくさすってくれている
[あい、あいったくて、…ずっと、]
『 うん』
[おれ、っかなえが、]
[かなえが…っずっと好きだった、]
[いまも、大好きだ…]
『 やっと言ってくれた』
叶は優しく笑う
『 僕も葛葉が大好きだった』
『 生まれ変わった今でも愛してる』
『 思い出すのが遅くなってごめんね、葛葉』
ないと思っていたこと。
心の中で半ば叶に会うことは諦めていた
ましてや愛し合うことなんてもう永遠にできないって
途方もない絶望に潰されそうになっていた
そんな絶望から救ってくれるのはいつも叶なんだ
孤独だった時初めて声をかけてくれた
人間と関わるのを避けていた時、いつでも寄り添ってくれた
そして今だって、また会いにきてくれた
大好きな人。
『 黒のチューリップ、こんなに育ててくれたんだね』
叶は地面のチューリップをそっと触りながら呟いた
『 葛葉、僕が渡してた花ちゃんと意味わかってた?』
叶はイタズラな顔で聞いてくる
[いちおう…な]
『 じゃあダメじゃん守れてないね』
『 黒いチューリップの花言葉は…わ』
[“私を忘れて”だろ?、知ってるよ、でもできるかよ…そんなの…]
『…! あはは、!』
叶は驚いた顔をした後に急に吹き出した
[な、何で笑うんだよ!]
『 ごめんごめん、くーちゃんが可愛くって、』
生まれ変わっても生意気だ!
『 …ありがとう。僕を忘れないでいてくれて』
[…おう]
『 ねー葛葉。大好き』
[俺も…大好きだよ]
HAPPYEND 変わらぬ思い
叶のお花
紫のフリージア…無邪気
白いツツジ…初恋
赤い薔薇…あなたを愛しています
黄色のソリダスター…私に振り向いて
黒いチューリップ…私を忘れて
コメント
2件
本当にこの物語大好きです…😭