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その怪物を言葉で表すにはそう言うしかなかった。紫のヘドロのような色。大きい頭部には大きな黒っぽい口。そこからは、桃色の鋭いキバが覗いている。長い手足は触手のよう。近くに何本も咲いていたサクラの木は、無惨にもなぎ倒されていた。
「だ、誰か…… 助けてくれ…………」
ショウは怪物の長い触手に捕らわれていた。ショウの体は、かなり高いところまで持ち上げられている。ショウを捕らえている触手が、徐々に怪物の口の方へ近づく。怪物の動きが遅いのではない。怪物は自分より小さな飼料を、ゲームや玩具で遊ぶかのように弄んでいるのだ。ゆっくり、ゆっくりと。たまに口から離したり、逆に急に近づけたり。だが、その遊びにもついに飽きてしまったらしい。ショウを掴む怪物の触手は、口へ急速に向かっている。スピードは緩まない。ついに、その口の中へ入れられ、咀嚼される時が来た。ショウの顔は恐怖で青ざめ、目はギュウっと瞑られている。触手はいよいよ口へ入りそうだ。ああ、食べられてしまう…! そう覚悟した瞬間の事だった。
大きな発砲音。ショウを掴んで離さなかった触手は地へ落ちた。しかし、地面へ直接叩きつけられるような衝撃はなかった。誰かがショウを姫抱きし、キャッチしていたのだ。銀色の長い髪は巻かれ、2つに結ばれていた。美しいそれは黒いショールと共に風で揺れている。手には拳銃。先程怪物の触手を撃ったのはその人なのだろう。
大丈夫かどうか、聞かれたような気がする。ショウの頭は真っ白で何も分からなくなっていた。そっと、優しく安全な所に降ろされる。たしかにそこは安全だったのかもしれない。けれど、ショウは震えていた。恐ろしかったのだ。なにせ、食べられそうになったのだ。仕方がないだろう。呼吸が安定してくれない。ショウを助けてくれた人は少し迷ったが、自分が身に付けていたショールを取り、ショウへかけた。寒がっていると思ったのか。それとも、誰かの暖かさを求めていると思ったのだろうか。ショールは少し暖かかった。不安そうに自分を見たショウに向かって笑みを見せる。
その時に見た紫の瞳が、今もショウの頭から離れない。