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いつも通りに大学へ来た流来(るうら)。ばったり希誦(きしょう)と会う。
「あ、ども」
「あ、ども」
2人とも余所余所しい。それもそのはず。2人はまともに喋ったことがない。
杏時(あんじ)と汝実(なみ)と芽流(める)と明空拝(みくば)と一緒に話したときくらいしか接点がない。
「1限同じでしたっけ?」
「たぶん同じなはずです」
会話が続かない。
「よく1限起きれますね」
という流来の発言に思わず笑う希誦。
「自分だって起きれてるじゃないですか」
「まあ…たしかに」
「めちゃくちゃ眠いですけどね」
「ですね」
「私夜型なので」
「あ、自分もそうですね」
「おぉ〜」
謎の感嘆の声を上げて講義室に入る。
講義室には汝実(なみ)がいて講義室に入ってきた希誦を見つけて手を挙げる。
希誦の横の流来に気づいて「お。おぉ?」という表情をする。
テーブルとテーブルの通路を希誦に先に行ってもらい、流来がその後に続く。
汝実は一番後ろにいたので一番後ろまでいく。
「おはー!」
「おはー」
流来も汝実に会釈をしてから、同じテーブルではないが同じ列、一番後ろの席に座った。
「どったの?一緒に来たん?付き合ってん?」
飛躍しすぎる汝実。
「は?校内でたまたま一緒になっただけ。なんで付き合ってるとかなんのさ」
「え?いやぁ〜さーせんさーせん。ついね?」
「ついこないだ女子会したばったかで付き合ってるわけなかろうて」
「そっかそっか。それもそうか」
いつも通りに大学に来る途中で芽流に会い、一緒に講義室へ来た杏時も希誦と汝実と合流する。
「あ」
杏時と芽流と目が合った流来が会釈する。
「おはー!」
「おはよー」
「おはよー」
「おっすー」
流来は一応明空拝の席を確保しておくが
ま、どうせ1、2限は来ないだろうな
と思いながらもスマホをいじりながら待つ。
しかし案の定講師の方が入ってきて講義が始まっても明空拝は来なかった。
1限が終了し、美術室へ向かう流来。大雑把に、でも構図がわかるように
鉛筆でキャンバスに跡がつかないように優しく薄く下書きを描く。
大雑把といってもキャンバスに跡がつかないように
でも構図がわかるように描くため気を遣う。そのため時間もかかる。
「首痛った」
と首に手をあてて鉛筆を置く。スマホを取り出して画面をつける。
すると明空拝(みくば)からLIMEの通知が来ていた。
今起きた!昼には行くから一緒に昼食べよう
というメッセージだった。
「バイト大変だな」
と呟きながら返信を打ち込む。しばらく鉛筆を片手に
イーゼルのキャンバスを支える下の木の部分に置いた練り消しを
左手でむにゅむにゅしながら下書きを描き進める。
「ま。こんなもんかな」
と鉛筆を置き
「んん〜…っあぁ〜」
と伸びをする。区切りがいいということで一旦トイレに行くことに。
家を出るときからいつもよりドキドキしながら家を出た明空拝(みくば)。電車に乗るときもドキドキ。
大学への道を歩いているときも、いざ大学の敷地内に足を踏み入れるときもドキドキをしていた。
「…よし」
と心を決めて大学の敷地内に足を踏み入れる。
「んんん〜ん〜んん〜ん♫」
陽気な音楽が多いグループ「y’all」の歌がワイヤレスイヤホンから流れ
胸のドキドキを誤魔化すようにその歌の鼻歌を歌いながら大学校内の廊下を歩く。前から流来が歩いてきた。
お。流来
メイクをして初めての大学。というより、よく考えたら東京に出てきて初めてのメイクだった。
そして東京でできた初めての友達と、いや、親友とも呼んでいいと思っているほどの流来と
メイクをした姿で初めて会うというのはやはり緊張した。
「(メイク)したいならすればいいよ。それで離れてく人はもういない…し」
と流来は言ってくれた。流来を信用していないわけではない。その言葉はとても嬉しかった。
でも実際メイクした姿を見たらどう思うか。それを考えると怖くて…。
そんなことを考えている間にも前から歩いてくる流来との距離はどんどん近づいていた。
きっとオレに気づいて
「今日も社長出勤で。ご苦労様です」
「お。早速メイクしてきてる。思ったほどガッツリじゃないじゃん。
もっとドラッグクイーンみたいな感じかと思ってた」
なんて冗談を交えた流来節を見せてくれるはず
なんて考えているうちにすぐ側まで流来が来た。心臓はドキドキしすぎて逆に体が冷えているように感じた。
「今日も社長出勤で。ご苦労様です」
と言われるのを待った。そう言われると思っていた。しかし流来は明空拝の横を通り過ぎていった。
明空拝には流来が自分の横を通り過ぎる瞬間、スローモーションに感じた。
「(メイク)したいならすればいいよ。それで離れてく人はもういない…し」
という流来の言葉がこだまし、希望が音を立てて崩れ落ちている気がした。
やっぱりか。いくらメイク男子が受け入れられている東京でも
自分の友達、親友、家族なんかがメイク男子だったら関わりたくないものなのかもしれない。
膝から崩れそうになった。
また独りぼっちか
歯を食い縛り、悔しさ、自分の詰めの甘さ、寂しさ
辛さ、メイク男子になってしまった過去、すべてを恨み悔いた。
「ん?」
流来が振り返る。
「もしや明空拝?」
食い縛っていた歯の力が抜ける。明空拝も振り返る。
すると流来と目が会う。明空拝の目に映ったのはいつもの流来だった。
「おぉ。明空拝だ。間違ってたらどうしようかと思ったわ」
「え…」
無視されたんじゃないの?スルーしたんじゃないの?実際見て関わりたくないと思ったんじゃないの?
疑問、嬉しさ、戸惑い、様々な思いが押し寄せ、言葉が出なかった。
「なんだその顔」
と笑う流来。
「え…だって」
と言う明空拝に「?」という表情の流来。
「いや、一瞬「カッコいい女子だな」って思ったのよ。でも髪型、背格好、履いてる靴…あ、明空拝か!って。
いや、明空拝、元々女子っぽい顔してるから、メイクしたらなおさら女子になんのよ」
と言う流来。流来はポケットからスマホを取り出して
「…11時24分。今日も社長出勤ですか。お疲れ様です」
とポケットにスマホをしまいながら流来に頭を下げた。その瞬間
「うわっ。なんだよ」
明空拝は流来に抱きついた。嬉しさが先行して、体が勝手に動いた。
「おはよう!」
「はいはい。おはよう」
嬉しさで涙が一筋ずつ左右、両方の目から流れ落ちた。
「なに?」
「…いや、別に」
「沢尻エ○カか」
離れた瞬間
「プッ」
っと吹き出す流来。
「いや、よく見ると怖えぇな」
と言う流来に対して
「失礼な!わりかしメイク研究してたんだからな!東京のJKと並ぶ、もしくはJKより上手い自信はある!」
「へぇ〜」
流来はスマホを取り出しスマホの画面を明空拝(みくば)に向ける。
画面はインカメラになっており、明空拝の顔が映し出されていた。
「上手い自信あると?」
「おっ…」
自分の顔を見た明空拝。両目から黒い一筋の線が顎まで垂れていた。
先程の涙にアイラインの黒が乗っかったのだ。
「これは…」
「なんで涙流してんだよ。海亀か」
「誰が産卵したんだよ。今ここで。…まあ…そうな?え…いや…そう!眠くて眠くて」
「そろそろ起きなはれ。…っつってもオレも昼食べたら眠くなるだろうなぁ〜」
「たしかにね」
「今からトイレ行くけど…行くでしょ?それとも美術室で?」
「ん?」
流来は無言で自分の顔を指指す。
「あぁ!」
明空拝も自分の顔を指指す。流来が頷く。
「あぁ〜…。美術室で手鏡で直しますわ」
「あ、美術室の奥の方に白い布かかってる姿見あったからそれ使えば?」
「マジ?」
「まあ、どっか持ってかれてなかったらまだあると思う」
「おっけ。探してみる」
「トイレから戻ってメイク直してお昼買いに行こ」
「オッケー!」
ということで流来はトイレに、明空拝は美術室へ行き、無事姿見を発見し、その姿見でメイクを直していた。
「おぉ。人がメイクする後ろ姿初めて見たわ」
とトイレから帰ってきた流来が明空拝の後ろ姿を見ながら言う。
「あんま見られると恥ずい。言われてみたら、メイクした姿は見られたことあるけど
メイクしてる最中を見られることは初めてだからなんか恥ずいわ」
なんて話ながらメイクを直し終え、2人はお昼ご飯を買いに行った。