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次の日の部活の時間
「では、再オーディションを希望する人は挙手を。」
私達の思いを聞いて、滝先生が再オーディションを行うことを決定した。
この再オーディションで…!!
「トランペットソロの再オーディションを希望します。」
「香織先輩…!!」
香織先輩、やっぱりソロを吹きたかったんだ…
そうだよね、やった、やったよ香織先輩!
これで香織先輩がソロを吹ける…高坂がソロだなんて何かの間違いだったんだ。
「香織先輩!!」
「…優子ちゃん。どうしたの?」
「再オーディション、頑張ってください!
私、本当に応援してます!!」
「ふふっ、ありがとう。私、頑張るね。」
「はい!!」
香織先輩の笑顔は、心なしか昨日よりだいぶ明るく見えた。
頑張ってほしい…そんな気持ちで胸がいっぱいだ。
「あ…」
高坂と目が合った。
軽く会釈してくる高坂を、私は睨んでしまった。別に嫌いとかそんなんじゃない。
ただ今は、高坂は私の敵だ。
「れーな?大丈夫?」
「いくよ久美子。」
「えっあっちょ急にぃ」
はぁ。私何やってんだろ。
こんな気持ちいけないってわかってる。
なのにどうしても収まってくれない…どうしたらいいんだろ。
「ちょっとアンタ、何つったってんの?練習いくよ?」
「え?あぁ…」
夏紀と一緒に教室を出る。
「ねぇ、よかったじゃん。」
「よかった?なにが?」
「オーディションだよ、オーディション!」
「…そう、だよね。」
「なに?嬉しくないわけ?」
「嬉しいよ!めちゃくちゃ嬉しい!」
「はっ…なに考えてるのかわかんないヤツ。」
プープップクプー
トランペットの音だ…
「あっ、私ちょっと行ってくる!!」
テッテッテッテッテ…
これって、高坂の音…だよね。
綺麗な音…ピッチも完璧…なんで、なんでこんなにも上手いのよ。
一年のくせに、去年のこととか、何にも知らないくせに!
こんなのって…
「いつものとこだ。」
ん?この声は…黄前久美子。高坂と仲良い一年だ。
「この音、どう思う?」
「へ?」
私は、気づいたら黄前を引き止めてそんなことを聞いていた。
自分でも何故そんなことをしたのか、わからない。
「いいと思います!すごく綺麗で音も大きいし、ソロに相応しいと思います!」
バカ正直な子。
普通先輩の前でこんなこと言えないでしょ…
嫌気がさす。事実なのが、更に。
「…だよね。一年でこの音なんて反則だよ。」
「…」
何驚いた顔してんのよ。
ま、普段の私の行動を見てたら当然か…
私だって、わかってんのよ。高坂がトランペット上手いってことくらい。
認めたくないだけ…なのかもしれない。
「ごめんね、変なこと言って!」
逃げるようにその場を去った。
これ以上黄前と一緒にいたら、いや、高坂の音を聞いていたら、何かよからぬことをしてしまいそうだったから。
あ、香織先輩だ…
「香織先輩…」
呼ぼうと思ったけど、なんだか大きな声を出すことができなかった。
今日は…香織先輩と帰れる気分じゃないや。
トランペット、片付けるの忘れてた…私が最後かな。
「よいしょっ…と。」
…その時、高坂のトランペットが目に入った。
私はずっとずっと高坂のトランペットを見つめていた。
こんなことして、何か変わるわけでもないのに。
「っ…」
気持ちをグッと堪えて、私は楽器庫を後にした。
滝先生が再オーディションを行うなんて、少しばかり予想外の出来事で驚いた。
でも問題なんてない。もう一度、私は実力を発揮すればいいだけなんだから。
優子先輩と香織先輩が話しているのが横目に見える。
別になんてことないけど。視界に入ってしまうのがあの二人だ。
ちょっと、睨まれた気がしたんだけど…
「れーな?大丈夫?」
声をかけられて我に帰った。
「いくよ久美子。」
「えっあっちょ急にぃ」
早歩きで教室を出た。
あんな睨んでくるような先輩と一緒にいられない。
「ちょっとれいな?はやいって、どうしたんだよぉ〜」
「…おかしい。」
「…え?」
「私、にらまれたんだけど!」
「に、睨まれたって…誰に?」
「優子先輩」
「あぁ〜…」
(察し)みたいな顔をする。
「まぁ、あっちも色々あるよねぇ…」
「いくらなんでも睨んでくるとか、ないでしょう。気持ちの整理くらいしてもらわないと困る。」
「まぁねぇ…」
久美子を困らせてしまった。
「ごめん、変なこと言って。」
「んーん?正直私も薄々思うよ、最近先輩、なんかアレだなーって。」
「アレって?」
「香織先輩を援護しすぎ?っていうか… れいなのこと、敵視しすぎてる。
なんか、変わっちゃったよね。」
「私は…変わったとは思わないけど。」
「えぇ?大分変わったって!
だって最近、私にも近づくなーオーラすごいもん!」
そうだったんだ…気づかなかった。
先輩がそんなにヒートアップしていたなんて。
「あれ、もしかしてれーな、気づかなかった?」
「…気にしてなかったのかも。」
「いや気にしてなかったって…れいなって変なとこあるよね」
「バカにしてる?」
「そんなんじゃないよ〜ん」
「…ちょっと久美子、してるでしょ。」
「あははっちがうってぇ」
久美子と話したら、なんだか気持ちが落ち着いてきた。
無駄なことなんて考えちゃダメだ。
私はいつも通り、トランペットを吹くだけ。
ただ本当に、それだけでいい。